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副業で転職成功への道
副業は、収入源としてだけでなく、転職を成功させるための職歴としても活用されるようになっています。一定期間、本業の合間に異なる仕事にチャレンジし、自身に足りないスキルを身に付けることができます。失職のリスクなしに新しい仕事への適性を試すことができるのも魅力です。
例えば、結婚式の準備をする「ウエディングプランナー」の30代女性は、2022年春から副業としてITシステム開発のプロジェクトマネジャーを始めました。様々な業務をエンジニアやデザイナーに割り振ったり、進捗状況を管理したりする仕事です。新型コロナウイルスの影響で担当している結婚式の延期や中止が相次ぎ、ウエディングプランナーの仕事に疲れていました。エージェントに転職の相談をしたこともありますが、30代は新卒と違い即戦力が求められると説明され、新しいスキルを身に付ける必要を感じていました。
9カ月副業した後、彼女は全く別の企業に転職しました。本業のブライダル業界で培った顧客が必要なものを的確に聞き取る能力と、副業で身に付けたエンジニアの業務内容の知識などが転職活動で評価されました。
総務省の17年の就業構造基本調査によると、副業を希望している雇用者の割合は6.4%と、5年前から0.7ポイント増えました。リクルートの21年の調査では、副業・兼業を始めたきっかけとして、「自分のキャリアを見つめ直した」(21.4%)、「転職・独立のため」(13.6%)と答えています。
副業人材の採用動向に詳しいパーソルキャリアHiPro(ハイプロ)の鏑木陽二朗編集長は、「現職の働き方や将来性などに悩んだ30、40代が新しいスキルを身に付けるために副業に挑戦するケースが多い」と話します。新規事業開発、マーケティングなどでは採用の需要が高く、副業期間は半年〜1年ほどが多いそうです。
専門性を高めることで、「配属ガチャ」から脱しようとする人もいます。濱口凪沙さん(26)は「良い製品を世に広めたい」と19年にマーケティング会社に新卒で入社しましたが、希望していた広報部ではなく市場調査部署に配属され異動希望は伝え続けていましたが、いつになればかなうのか分からなかったため、21年から副業としてホテルの運営会社でメディア開拓やプレスリリースを書くなど広報の経験を一通り積みました。その後、IT機器を手掛けるスタートアップへ広報として転職しました。
副業で新しいスキルを身に付けられる場所も徐々に広がっています。NECは21年ごろからヘルスケア、小売分野などで副業を受け入れており、デジタルテクノロジー開発研究所では40歳以上の10人弱が副業として週に1回程度働いています。IT関連の新規事業開発が業務です。
「ヘルスケアなど本業の現場に熟知している。どういった製品が企業の課題解決につながるか意見をもらえるので事業開発速度が上がる」と尾田識史リードビジネスデザイナーは副業人材を評価します。ITの専門知識はないものの、顧客企業へのヒアリングだけでは拾いきれない「現場の本音」を話せることが強みです。NECでの職歴を武器にIT企業などに転職する人もいます。
ただし、副業の中には単純作業を空いた時間にこなす「時間の切り売り」になってしまうものもあります。転職につながる副業の選び方として、HiProの鏑木編集長は希望する仕事をするために今足りないスキルは何かを意識することが大切だと話します。「必要な職歴やスキルが身に付かないと気付いたら、異なる業種や職種の副業を試してみてもいいのでは」。様々な仕事を試すことができるのも副業の醍醐味です。
多様な働き方を求める労働者の声を受け、副業を解禁する企業が増えています。東京都が都内の中小企業などに対して実施した調査(2021年)によると、34.9%が副業を認めています。一方で、副業人材を受け入れている企業は12.3%にとどまります。
就業推進課によると、「大企業では副業受け入れが進んだが、中小ではまだ抵抗感が強いケースが多い」そうです。受け入れない理由として、「ノウハウや機密情報の流出懸念」(35.7%)が首位でした。情報管理規定やシステムが整備されていないケースが多くあります。
都の担当者は「人手不足に悩む企業にとって副業人材は、新しい人材の確保手段として有効です」と話します。