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曖昧な『コンテンポラリージュエリー/現代のジュエリー表現』の世界を定義する ♯3


【現代におけるジュエリー表現はアートになり得るのか】

今回は“コンテンポラリージュエリー分野の現在の立ち位置”について考察していきたいと思います。他分野とどのような関係性があるのか、4グループに分けた図解を用いて解説していきます。“ジュエリー”という単語が持つ漠然としたイメージを整理し、「似ているようで似ていない」を理解することで、コンテンポラリージュエリーに対するイメージが変わってくるのではないでしょうか。


現代アート/ファッション/応用美術

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まずは大きな分類として“現代アート”“ファッション”“応用美術”の3分野との関係性について考えていきたいと思います。現在のコンテンポラリージュエリー分野の中心はドイツやオランダで、これら周辺のヨーロッパ地域では“応用美術”(Applied arts)作品としてしばしば分類されています。“応用美術”とは“現代アート=純粋芸術”という芸術活動に対比し、機能(人間の生活と結びつく実用性)を持つ創作活動として、工芸一般、家具など現代のデザインの要素を多く含んでいます。“ファッション”もデザイン分野の一つとして“応用美術”に入ると考えられており、この「機能という制約がある」という点で“現代アート”とは大きく線引きされています(“ファッション”にはデザイン要素を必要としない部分、例えば原始的な着用機能のみを重視した衣服もあると思うので“応用美術”の範囲内に収めていません)。この制約は一見するとアーティストが表現活動をする上で足枷のように感じますが、逆に制約があることを利用して自身の制作テーマや作品をより説得力のあるものにすることも可能だと思っています。もしかすると“現代アート”には無い面白味かもしれません。

また、海外ではデザイン系を中心とした美術館でコンテンポラリージュエリー作品が収蔵、常設展示されており、この背景には「日常生活にジュエリー文化が根付いていた」という歴史が関係していると考えています。海外のジュエリー文化はファッション文化の一端として、人間の移動と文化交流がもたらす服装や生活スタイルの変化に合わせて多様化しながら現在まで続いています。


アクセサリー

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「“ジュエリー”と“アクセサリー”の違いは?」という疑問を持っている方がいるかもしれないので簡単に説明すると、“アクセサリー”は服装の付属品という意味合いがあり、ジュエリー/宝飾品やベルト、帽子などの装飾品全般を総称した呼び名になっています(他にも[機械類の本体以外の付属品。または別売りの関連商品。カーアクセサリー/デジタル大辞泉 より]などがありますが今回は割愛します)。そのアクセサリー中で細分化された代表的なジュエリーの種類が“ファインジュエリーコスチュームジュエリーアンティークジュエリー民族アクセサリー”などです。

“ファインジュエリー、コスチュームジュエリー、アンティークジュエリー”はデザインの要素が強いことから応用美術としての一面も携えており、逆に“民族アクセサリー”はデザイン性よりも呪術的で護符のような役割を重視していることから応用美術の範囲外に分類しています。また身体装飾(ボディ・オーナメンテーション)も機能美から外れた直接的な肉体改造ということで範囲外にしています。更にコンテンポラリージュエリーとの差異を明確化する為、以下の説明を通してジュエリー分野のそれぞれの特徴と違いを何となく理解していただけたらと思います。

・ファインジュエリー
ファインジュエリーとは貴金属や宝石を用いた煌びやかな宝飾品を意味し、世間一般で認知されている“ジュエリー”がこれにあたる(他にもハイジュエリーやコマーシャルジュエリーとも呼ばれている)。高価な材料を使用した希少価値からくる財力や権力、富の象徴、社会的独立や常識を持つ大人の証として広く普及している。特別な宝石類の使用や有名デザイナーによる商品化など、購入可能な層を狭めていくことで価値の高騰を促している。高価になればなるほど手にすることを許された人物の得る優越感は計り知れない。他にも、女性の社会進出をきっかけに、昔は男性から女性への贈り物だった装飾品のイメージを払拭する為「自分で稼いで自分で買う」といった女性の社会的、経済的な地位向上と独立を意味する役割も担っていた。また冠婚葬祭といったフォーマルな場面にも着用されている。女性はお葬式にパールのネックレスを身に着け、パーティ会場では宝石のついたブローチやイヤリングなどを身に着けることがマナーとされている。これは常識として一般化していることを意味しており、世間体を特に気にする日本人の精神と合致したのではないだろうか。婚約指輪も似たような面を持ち、「プロポーズ=指輪を購入」という一連の流れが浸透している(デビアス社/ダイヤモンドの採鉱、流通、加工、卸売の会社。世界中で結婚指輪普及のPRを成功させた)。自分がファインジュエリーを身に着けていなくても、必ずと言っていいほど周囲の誰かが身に着けている姿は見たことはあるだろう。明治時代以降からの市場拡大に成功した企業の販売戦略の結果であることは言うまでもない(De Beersやプラチナギルドなど)。他にも親から子へ受け継がれるものとしてファインジュエリーが重宝されることも珍しくない。時に装飾品には家族間の絆や想いが込められ、人と装飾品との強い精神的繋がりが感じられる。これは確かな技術と耐久性に優れた素材が可能にするファインジュエリーならではの時代を越える魅力かもしれない。 
・コスチュームジュエリー
コスチュームジュエリーとは貴金属等や宝石を用いない装身具のことを指す。ファインジュエリーの持つ素材価値重視、本物至極主義とは異なり、デザイン重視のジュエリーとして誕生した。ファッションをより楽しむため、衣服の一部として自由なデザインと手に入れやすい価格帯で製作された、ファインジュエリーからの派生装飾品である。1920年代頃、第一次世界大戦後の女性の社会進出に伴い、自由や自立を求めるパリの女性たちを中心に広まり、その後アメリカへと渡った(パリではココ・シャネルが有名になった)。50年代頃からは上流階級へと徐々に浸透し、カウンターカルチャーとして始まったコスチュームジュエリーがメインカルチャーとして地位を確立した。そして時代を反映する流行と密接な繋がりを持ち、有名デザイナー、ファッションリーダーが誕生した歴史を持つ。造形的にはプラスチックなどの貴金属よりも比重の軽い素材を選択することにより、大きさの制限を取り払った大振りなデザインへの可能性が広がった。また彩色の豊富な素材の特徴により、自由でポップな印象が強くなったことも特徴の一つである。世代を越えるような永遠性や強度はないが、流行を抑えたファッションの一部として多くの人に楽しまれている。誰でも手に入れやすい装飾品として自己主張の一端を担い、流行に敏感な世代を中心に多くの層に親しまれている。感情的価値や商業的価値を含装飾品になった。
・アンティークジュエリー
アンティークジュエリーとはアール・ヌーボー、アール・デコ期以前に製作された装飾品を指す。“ジュエリーの意味と価値基準”がキーワードとなる。ジュエリーの意味としては主に二つのカテゴリーに分かれ、それは“テーマ表現性主体”と“装飾性主体”である。前者は有意味性、単独存在(固有の世界)、個別性、一回性、芸術性が挙げられ、後者は無意味性(テーマの装飾要素化)、部分的存在(装いの一部として)、類似性(模写、繰り返し、組み合わせ)、再現性、様式性である。一般的なジュエリーマーケットの価値判断の基準はアイデアの実現性/技術的難易度/使用素材の価値などが挙げられるが、アンティークジュエリーの場合には歴史的希少性時代証言性付加的意味性保存状態が重要とされる。当時の生活様式や文化的背景、民族の移動と他国間交流といった学術的、資料的な意味合いも強い。エナメル技法やカメオ彫刻といった超絶技巧には当時の雇い主、権力者などの肖像画も表現されており、年代や名前の文字彫りからも多くの情報が得られる。また当時は贈答品にも用いられ、国や都市の国交関係も把握することが可能である。他にもアイテムの種類からはファッションの流行や装飾品がどのように生活と密着していたのかなどが推測ができる。そして権力者やカリスマが所有していたジュエリーは次世代に必ずと言っていいほど受け継がれていく。そこには素材と造形の価値を超えた「誰が使用していたのか」という付加価値もアンティークジュエリーの魅力の一つであることに間違いない。普遍的な素材で加工された装飾品が時を越えて多くの情報、ストーリーを現代にもたらし、更には現在でも使用可能な状態で残り続けている。これがアンティークジュエリー作品の特徴ではないだろうか。
・民族アクセサリーと身体装飾(ボディ・オーナメンテーション)
民族アクセサリーとはその民族が住む地域で信じられている災い除けや幸運のお守りといった装飾品の総称である。そのデザインは古くからあまり変わることがなく、今日まで続くものが多い(トルコのナザルボンジュやインディアンのドリームキャッチャーなど)。使用される素材はその土地特有のものが中心で、ガラス、金属、陶器、織物、木材など様々である。そして最近ではお土産品やコスチームジュエリーの一端としてもデザインが流用され、商品化されている民族アクセサリーも珍しくない。他文化からの影響を受けず、現在にまで残る貴重な伝統文化である。
また、現代のボディピアスや刺青といった直接人体を加工、改造する身体装飾(ボディ・オーナメンテーション)は民族アクセサリーからの流れを受け継いでいる。歴史はとても古く、原始的な同一民族間でのみ行われていた独特なタトゥーや首輪、耳飾りなどで、容姿はとても同じ人類とは思えないほどの変容を遂げている部族もいる(唇に円盤を通すムルシ族やアイヌの既婚女性など)。最近ではさらに過激なボディ・サスペンション(人体にフックを通して吊り下げたりする)などのカルチャーが存在する。また刺青、タトゥーもファッションの一部になってきていが、元々は罪人である印として身体に刻まれていた刺青を隠すために模様を描いたのが始まりだと言われている。または火消しの職業の人がもし仕事中に亡くなったとしても、刺青で身元が識別できるといった役割を持っていた。少し前までは怖いイメージの強かった刺青だが、アメリカや欧州のファッションタトゥーの影響で自己表現活動の一部として気軽に入れる人も増えてきた。これも自らを装飾するというという意味では装身具文化を語る上で避けては通れない分野であることは間違いない。

次回に続く

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寺嶋孝佳【美術家/アーティスト集団“CJST”企画運営】
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