曖昧な『コンテンポラリージュエリー/現代のジュエリー表現』の世界を定義する ♯1
【現代におけるジュエリー表現はアートになり得るのか】
早速結論から書きますが、コンテンポラリージュエリー/現代のジュエリー表現者たちの作品がアートとして認められるには、観賞や評価の対象となる“定義”が必要だと私は考えています。“定義”は時代の変化によってアップデートされ、その蓄積が文脈となって作品とアーティストの価値を形成し、一つの分野として徐々に社会へと周知されていくのではないでしょうか。
しかし、現在の日本国内では本当のコンテンポラリージュエリー分野は認知、評価されていません。その最大の原因は“定義”が「何年もの間ほぼ停止状態にある」または「周囲と共有(発信)できていない」という事です。ここではコンテンポラリージュエリー分野を様々な視点から考察し、国内と海外の装身具史、現代のジュエリー表現者たちの活動と定義になり得るだろう要点を数回に分けて書き留めていきます。この分野について勉強中の方は勿論の事、全く知らない方にも興味を持っていただけるような内容を目指します。
今、国内で『コンテンポラリージュエリー』と言われているモノ
前文で「日本国内では本当のコンテンポラリージュエリーは認知されていない」と書きましたが、一定数の方はコンテンポラリージュエリーという単語を目にしていると思います。なぜならアパレル系の雑誌や百貨店などの催事場では「コンテンポラリージュエリー特集」が度々企画されているからです。大まかに説明すると以下の項目が“定義”として扱われています。
・貴金属や高価な宝石を使用しなくて良いジュエリー(希少価値の批判)
・作品に使用する素材はプラスチックやガラスでも何でもOK(新素材への挑戦)
・奇抜なデザインでサイズ感も気にしない(伝統の破壊)
・着用に難があっても、またはできなくてもOK(ジュエリーの存在価値とは)
しかし、ここで用いられる“定義”について、私はいささか疑問を感じています。「本当にこれで良いのか?」と。
とは言ったものの、これらの項目自体は何も間違っていません。なぜなら全てコンテンポラリージュエリー作品の説明として一理あるからです。では何が問題なのか。
それはこの“定義”が50年代頃からほとんど変わっていない(既にやり尽くされた)という点です。近代美術/モダンアート以降の自由主義や個人主義といったムーブメントの影響を受け、ジュエリー業界でもモダンジュエリーと呼ばれた時代がありました(アメリカやヨーロッパ)。奇抜なデザインで伝統を壊す!というアーティストの誕生です。特にドイツではギルド制度(師弟のある職人制度)から逸脱し、それまでの完璧で工芸的な宝飾技法との決別を目指しました。その後、第二次世界大戦後の抽象表現主義が広まった時代に影響を受けたアーティストたちは、ジュエリーという構造や概念を利用した表現活動を始めました。呼び名も現代美術/コンテンポラリーアートという言葉が美術業界で浸透していく中、ジュエリー作品もモダンジュエリーから次第にコンテンポラリージュエリーへと移行していきました(呼び名に関してはスタジオジュエリーやアートジュエリーなども提唱されているので別の機会に紹介できればと思います)。
また別の視点から考えると、第一次世界大戦後のフランスで誕生したコスチュームジュエリーにも似通った“定義”があります。コスチュームジュエリーはアートではなくファッション業界の影響で誕生した分野で、女性の社会進出をきっかけとして主にデザイン性を重要視しています。使用する素材やサイズ感の項目に関してはコンテンポラリージュエリーと酷似していますが、一番異なる点としては着用性だと思います。ファッションの一部であることから、着け心地が疎かにできない事は容易に想像できます(このアート方面とファッション方面の関係性については切っても切り離せないので今後掘り下げる予定です)。どちらにせよ10万年以上続く装身具史の中で、二つの大戦は大きな転換期だった事は間違いありません。
以上の通り、2021年になった今現在も50〜80年代に業界内で盛り上がっていた“定義”を主張している事自体に私は物足りなさを感じます。美術史を見てみるとポップアート、コンセプチュアルアート、ミニマルアート、メディアアートなど刻々と変化、枝分かれし、以前の表現方法や作品に対して否定や新しい提案によって常にアップデートされています。しかし日本国内のコンテンポラリージュエリー分野に関して言うと、使い古された同じ主張を今でも繰り返し発信し、アップデートされないまま時代に取り残されています。ですが、国内でもコンテンポラリージュエリーの新しい表現方法を発信しようとしてきたアーティストも実は一定数存在していた(いる)事も事実です。問題点は全てが“点”としてしか紹介されていない事です。今後は60〜70年間にあったであろうムーブメントを探し出し、“点”を繋ぎ合わせて“線”=“文脈化”を目指します。2020年までのコンテンポラリージュエリー分野を読み解く事で、2021年以降のジュエリー表現の“定義”が提案出来ればと思います。
次回に続く
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