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曖昧な『コンテンポラリージュエリー/現代のジュエリー表現』の世界を定義する ♯4


工芸

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“工芸”とは素材と技法によって創作された用の美造形美装飾美を追求した分野です(ここでの“工芸”は日本での工芸分野を指しています)。一般的な分類として陶芸(土)、漆芸(樹液)、木竹工(木材、藤、竹)、金工:彫金/鍛金/鋳金(鉄鋼、非鉄金属)、染織(布、毛)、人形(木材、粘土、紙)、諸工芸(七宝、ガラス、石、革)などがあります。装身具はこの分類とは別に、用途の分類で分けられます。食器、花器、箱、家具、茶道具、着物そして装身具です。装身具はほとんどの素材や技法と相性が良く、着用機能(キーホルダーなども含む)を備えれば装身具として成立することが可能です。

これらは伝統的な“工芸”の世界を基準に説明していますが、核である用途(機能)を必要としない現代工芸(美術工芸)という分野も存在します。自己表現、芸術表現を目指し「一メディアとして素材と技法を利用する」という考え方です。また、現代工芸はコンテンポラリージュエリーと似ている一面を持っており、それは「制約と提案性からのデザイン/伝統をアップデートさせる行為」だと考えています。この話を突き詰めていくと内容がだいぶ外れてしまうので、今回はこの辺にしておきます。ここでは“工芸”の中でもファッション分野とも強い繋がりがある装身具と染織について少し解説します。

・染織
染織とは生活に必要な糸や布などの繊維を染めたり(染色)、織ったり(機織)する伝統技法を指す(他にも編物や刺繍なども含まれる)。これらの工程は大きく分けると、全く染めない、繊維を染めてから織る、布地を織ってから染めるの3種類に分類できる。和服/着物などのイメージが強いが、現在ではテキスタイルアートとして絵画的、または造形的な工芸の枠に囚われない表現活動にも利用されている。
・装身具
装身具とは服装と合わせることを目的として、工芸的な創作工程を経た装飾品全般を意味する。日本の歴史から装身具を考えるとその範囲は幅広く、簪、櫛、根付、タバコ入れ、印籠なども含まれる。また、鎧甲冑や刀装具の中にも機能より装飾に力を入れたものも多く残っており、しばしば日本特有の装身具として紹介されている。仏教伝来とともに衰退していた装身具文化だが、このように日本独自の生活様式/和装に合わせて発展し、海外にはない装身具の種類、用途が増えていった。海外のジュエリー文化が本格的に日本に輸入されたのは明治時代以降で、伝統工芸の職人たちが見様見真似で作り始めたのをきっかけとして国内でも生産が始まり、海外への土産品や輸出産業で人気があった(日本らしいデザインと完成度の高さ)。他にも、使用される材料は多種多様で金、銀、銅、銅合金などの色金を組み合わせたものや、木胎に漆塗り、螺鈿、蒔絵などの加飾を施したもの、サンゴやガラス、鼈甲などを加工したものなど、日本特有の素材や技法は現在でも世界から注目されている。


コンテンポラリージュエリー

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最後にコンテンポラリージュエリーについて。前回にも少し触れた通り、現在では応用美術の一分野として認識されています。これは50年代頃の北欧、60年代頃のドイツ周辺で始まったジュエリー職人(ゴールドスミス)からアーティストへの変革が影響しており、元々活動していた応用美術(ファッションデザイン)の世界から芸術表現という新しい可能性を見出し、より現代アートへ、よりファッションへ、よりデザインへ、様々な方向へ前進しようと今でも試行錯誤中だからだと思います。そしてこの前進の仕方は海外と日本で違いが見られます。

海外のジュエリー(もしくは現代アート)アーティストは過去や現状の批判と反発を制作の原動力にしている点に対し、国内のジュエリーアーティストは伝統へのリスペクトを重要視して発展してきた特徴があります。特に50〜60年代の日本人アーティストは自国の文化に強い誇りを持っており、作品を見てみると伝統的な技法や素材に固執しているのが分かります。一方ドイツ周辺の国々では新素材との融合や伝統技法の放棄などが盛んに行われていました。もちろん日本でも伝統工芸に基盤を置いていないアーティストもいたので、欧州諸国と似たアプローチで創作活動していた人たちもいました。こちらに関しては今後詳しく紹介できればと思います。もちろん独自の文化は日本だけではありません。世界中のそれぞれの国が歩んできたジュエリー文化、歴史の違いから、現代のジュエリー表現に対する考え方も千差万別で、これから提案するであろう未来のジュエリー表現も自ずとバリエーションに富んだものになるのではないでしょうか。発展途上の分野として私はコンテンポラリージュエリーを捉えています。

以上がコンテンポラリージュエリーとそうではないジュエリーの簡単な分類です。現在の相関図がなんとなく理解できたと思うので、次回以降は古代からの装身具史を読み解きながら現代までの変遷を辿っていく予定です。各時代の“定義”を探し出し、それらを繋げた文脈の先に未来のジュエリー表現があるかもしれません。

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寺嶋孝佳【装身具作家/CJST企画運営】
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