[SEA] Julio Rodriguez の成績はなぜ下振れたままなのか考察する
Julio Rodriguez(フリオ・ロドリゲス)が現在苦しんでいます。
現在、足首の負傷で離脱しているフリオですが、ここまでOPS .687と打線の中軸を担うべき選手としては物足りない成績となっています。
一方でBaseball Savant による xwOBA は .341 でありwOBA .304 という現状の成績に対し下振れています。
まずはこの原因について述べていきます。
下振れの原因:引っ張れていない
今季のフリオは Hard Hit % が47.4%で、上位15%に入る数値となっています。優秀です。
では本来プラスの打球であるHard Hit が下振れていると仮定して検証します。
ハードヒットの下振れがより大きいことが分かります。
フリオの成績が悪い理由として打球角度が上がらないことがしばしば挙げられるかと思います。
しかしながら、ハードヒット時におけるSweet Spot%(打球角度 8°~32°の打球)の割合は34.6%であり、2022年(38.1%)や2023年(35.6%)と比べて大きく下がってるわけではありません。
それよりも下振れの理由としては、ハードヒットを引っ張ることができていないことにあります。
今季フリオがハードヒットを引っ張った割合は 24.4%であり、2022年(32.6%)や 2023年(37.7%)と比較して、減少しています。
同様にバレルを引っ張った割合も23.1%と、2022年(47.9%)や 2023年(33.3%)と比較して減少しています。
引っ張り方向へのハードヒットやバレルは、wOBA>xwOBA(上振れ)となる傾向にあります。
反対にセンター方向へのハードヒットは、wOBA<xwOBA(下振れ)となる傾向にあります。
今季のフリオは、特にバレルの61.5%がセンター方向に飛んでおり、wOBA .748 に対し xwOBA .1.308 とセンターに飛んでいる弊害がもろに出ています。
よってフリオの下振れは引っ張れていないことが原因であると分かりました。
過去2年間のフリオは、ハードヒットやバレルをもっと引っ張ることができているので、いずれ引っ張り方向の打球も増えるでしょう。
実際に、7月はOPS 1.122 と好調で、ハードヒットも 29.4% が引っ張り方向とそれなりに増えています。
そしてここから、なぜフリオは強い打球を引っ張ることができていなかったかについて考察したいと思います。
球種別に見てみる
Baseball Savant からフリオの打撃成績を球種別に深堀っていきたいと思います。
各球種別のwOBAとxwOBA の推移は以下のようになります。
ここから、オフスピードの成績が大幅に悪化していることがわかります。
本来ならここから、どの球種が下振れの要因かを見ていこうと思ったのですが、全球種 .030 ほど下振れてました。
しかも、ハードヒットに絞っても全球種同じように下ぶれているのですから、分析のしようがありません。
ですので、視点を変えて分析してみます。
なぜオフスピードの成績が顕著に悪化しているのでしょうか。
そしてなぜ強い打球を引っ張ることができていないのでしょうか。
チーム方針がフリオにもたらした影響
今季シアトル・マリナーズは、チーム全体で無駄なボール球へのスイングを減らし、ストライクゾーンをしっかりスイングするという意識を徹底していたそうです。
↓116wins さんの動画でチーム方針を知りました。
事実、チーム全体でchase%(ボール球をスイングした割合)は30チーム中4番目に少なく、またHeart と呼ばれる下図の1~9番目である真ん中のゾーンのスイング率は10番目に多くなっています。(8/2時点)
今回この戦略の是非は置いておきます。
私は、このチーム戦略がフリオのパフォーマンスに悪影響を及ぼしていたのではないかと考えました。
まずフリオは選球眼があまり秀でたタイプではなく、chase%は過去3年間いずれも下位に位置しています。そういった意味ではフリオはチーム戦略で修正されるべき選手だったとも言えるでしょう。
しかしながら、chase% は前年とほとんど変わりませんでした。(37.4%→37.9%)選球眼は改善しなかったということでしょう。
またHeart のスイング率は上昇しましたが、(74.9%→80.2%)、Heart での空振り率も上昇しており(15.7%→20.7%)、xwOBAやRun Value などの数字も低下しています。
ここまでの数字を見ると、フリオはチームの戦略にほとんど適応できていないのではないかと推測できます。
ですがここまでだと、なぜ引っ張り方向への強い打球が減ったかの説明には不十分です。
では次に球種別でchase%などを見てみます。
青のbreaking は5%減少しましたが、緑のオフスピードのchase%が10%以上増加しています。
次にゾーン内へのスイング率、ゾーン内空振り率を見ていきましょう。
「ゾーン内スイング率」「ゾーン内空振り率」ともに、速球系とオフスピード系が増加しています。
まとめると、
①ボールゾーンのオフスピードに手を出すようになった
②速球系とオフスピードを、ゾーン内を中心に積極的に振るようになったが、空振りも増加した。
③オフスピードへの対応が顕著に悪化している
ということが説明できるかと思います。
ここまで長い説明になりましたが、これらの変化をもとに考察すると、
①チーム方針によって、フリオのアプローチに異変が起きた
↓
②オフスピード系への対応が悪化
↓
③速球に比べて球速が遅いオフスピード系へ対応しようとした結果、速球をわずかに振り遅れることが増え、強い打球を引っ張れなくなった
という風に考察しました。
実際には全球種それぞれの引っ張り割合が過去3年で最も低い数字となっているので、③は厳密には正しくありません。
しかしチーム戦術から紐解いていった結果として、それらしい考察ができたのではないでしょうか。
もちろんここで述べたことが、フリオの不調の原因であるとはっきりとは言えません。的外れなことを述べている可能性も十分にあります。
ですが、この考察が少しでも役に立てれば幸いです。
フリオの発言
最後に私が気になったとあるフリオの発言を取り上げます。
Fangraphs における、David Laurila 氏とフリオの対話の一部です。
私が注目したのは、最後の2文です。
「例えば、3塁に進塁している選手がいて、私がその走者を還したみたいにね;それが少し[ストライクゾーンの]外の球を振ってしまったけど、走者を還した。僕個人としては、それは打ちやすい球をスイングすることよりも重要なことなんだ」
かなり具体的な発言でした。しかも、「少し[ストライクゾーンの]外の球を振ってしまったけど」というくだりは、「ボール球を振らずにストライクゾーンを振る」チーム方針とはややマッチしていないように思います。
ですが、チームの勝利に貢献できるならボールゾーンも振るというのがフリオの考えのようです。
ここに、フリオがチーム方針に思うところがあるのではないかと邪推しました。
みなさんはどう思いますか?
感想
ここまでご覧いただきありがとうございました。
私としては、フリオがなぜ成績が伸びないのか納得がいかなくて、このnoteを書くことにしたのですが、気づいたらここまでの量に達しており自分でも驚いております。
フリオは大好きな選手なので、まずはケガから復帰してまた期待されているようなフリオの姿に戻ってくれることを切に願うばかりです。
参考
fangraphs のフリオとの対話
ヘッダー画像
注釈:
フリオの発言での最後の一文における"good pitch"というのが、フリオにとってのものか、投手にとってのものか解釈に悩みましたが、文脈的にフリオにとってのgood pitch=打ちやすい球であると解釈しました。