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[MLB]パトリック・コービンはどうすれば復活できるのか?~投球割合から考える~
2024年シーズンをもってPatrick Corbin との6年$140Mの契約が終了し、コービンはFAとなりました。
2019年は、200イニングを投げ防御率3.25 とエース級のパフォーマンスを見せ、ポストシーズンでは先発やリリーフとフル回転しナショナルズのワールドチャンピオンに大きく貢献しました。
この年のコービンがいなければ世界一はありえませんでした。
— Patrick Corbin (@PatrickCorbin46) July 9, 2020
しかしながら20年以降、コービンの成績は急落しました。
防御率は21年から、5.82/ 6.31/ 5.20/ 5.62 と全ての年で5点台以上と見るも無惨な数字。
毎年のように規定投球回に到達している点は、再建中のチームにおいて極めてありがたい存在でしたが、それでもこれほどに成績が急落してしまったのは19年の活躍からは予想できませんでした。
まずは、なぜコービンの成績はここまで悪化してしまったのかを考えたいと思います。
スライダーの質低下
成績悪化の要因の極めて大きな理由だと考えています。
全盛期のコービンのスライダーは、平均81マイルで縦変化量も平均より2インチほど落差が大きく、横変化の少ない縦スライダーでした。
球速も変化量も秀でているとは言えないこのスライダーが、18・19年は最強のスライダーとして猛威を振るっていたのです。
全盛期スライダーの威力
18・19年のコービンのスライダーはMLB最高クラスの魔球でした。
2年間のRun Value +49 は全投手1位の数字。2年間で誰よりも多くのスライダーを投げたコービンが最も多くのプラスを稼いだのです。
ボールゾーンを振らせ、空振りを奪える
2年間でのChase % は45.6%でMLB1位。(500球以上)
2年間でのWhiff % 52.7% はMLB5位、SwStr % 29.1% はMLB1位でした。
この圧倒的なスライダーが、コービンをエース級たらしめていたのだと思います。
スライダーの落差が下がってしまった
2020年以降、スライダーの落差が減少しました。
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Baseball Savantより引用
減少幅は2インチ(5センチ)程度ですが、しっかりと影響は現れていました。
2020年以降のWhiff % が減少していたのです。
![](https://assets.st-note.com/img/1733667663-Oypck57b0aXlwMAKeHGVzf9Q.png?width=1200)
Baseball Savantより引用
2020年以降もWhiff %はリーグ平均(34%くらい)と比べて高い水準にあります。
しかし、最強クラスのスライダーがコービンの活躍の根幹にあったことを踏まえると、スライダーで少し多めに空振りを奪える程度では活躍を維持できなくなったのではないでしょうか。
スライダーの落差が減少した理由は回転数の減少にあると思います。
2020年以降は、150-200回転ほど減少しました。
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Baseball Savantより引用
ワールドチャンピオンの代償がここに現れているのかもしれません。
まとめると、
・全盛期のコービンは、極めて質が高いスライダーを中心に据えることで活躍していた
・コービンが衰えた要因はスライダーの質が下がったこと
・他の球種も質は高くなかったため、総合的な成績が大きく下がるのは仕方なかった
コービンはどうすればよかったのか?
スライダーの威力が下がってしまった以上、投球スタイルの転換は必要だったと思います。
方法としては他の球種の質を上げることや、コマンドをもっと良くするなどいろんな方向性が考えられると思います。
ですが、ここでは他の球種を増やして投球割合を分散させる方法を挙げたいと思います。
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コービンは、スライダーとシンカーをメインに据えており、今季から4シームに代わってカッターを投げ始めました。ですが、これら3球種へ偏っており、他の球種はあまり投げていませんでした。
そこで、投球割合が少ない4シームやチェンジアップ、カーブの割合を増やすことでコービンが復活できるのではないかと考えました。
では球種を増やすにしても、どの球種の割合を増やすべきでしょうか。
また、どのような効果が得られるのでしょうか。
1. 変化量が似ている球種を複数投げることで、ピッチトンネル効果を得る
Nick Martinezは、変化量が似通った5つの球種を満遍なく投げたことが奏功し、防御率3.10と好成績を残しました。
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2024年のニック・マルティネスの変化量チャート
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マルティネスは、4シーム・シンカー・カッター・チェンジアップ・スライダーの5球種において変化量が似ています。
変化量が似通った複数の球種を投じることで、打者には球種の判別が難しくなり、被打球の質を抑えることができるようになると考えられています。ピッチトンネルで同じ所を通ってるかみたいな話です。(記事内では、Match+ と呼ばれています。)
マルティネスも変化量が似ている5つの球種を投げ分けることで、平均打球初速をリーグトップクラスに抑えました。
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平均打球初速 86.4 マイルは、リーグトップクラスに低い数字ですね。
ニック・マルティネスは、奪三振が多くなくても抑えられる好例だと思います。
カッターが産み出したスライダーの被打球管理
今シーズンのコービンは、スライダーの被打球指標が改善しました。その理由として、スライダーと変化量が似ているカッターを投げ始めたからなのではないかと考えています。
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2024年のパトリック・コービンの変化量チャート。
上図の通り、カッター(茶色)とスライダー(黄色)は非常に変化量が似通っています。これにより、カッターとスライダーのピッチトンネル効果により、打者が見分けづらくなったのではないでしょうか。
実際に2024年シーズンにおける、スライダーの被打球指標は改善しています。
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![](https://assets.st-note.com/img/1734178917-FSHumYD9qQPhEdtoJW3l4Tw2.png?width=1200)
2024年の xwOBAcon, 平均打球初速が大きく下がっているのがわかります。
他の要因もあるとは思いますが、カッターの導入がスライダーの効力を高めたのではないでしょうか。
変化量が似ている球種たち
下図は、パトリックコービンの2024年の変化量チャートです。
![](https://assets.st-note.com/img/1734178917-jio6CH7lQ8TywnV9q5xmzL2k.png?width=1200)
2024年
コービンも変化量が似ている球種を複数持っていますが、4シーム、チェンジアップの投球割合が少かったです。
そのため、4シーム・シンカー・チェンジアップなどが共通のピッチトンネルを通ることによる相乗効果が生まれにくく、投球割合の高いシンカーはめった打ちに会いました。(xwOBAcon .446, 平均打球初速 94.5マイル)
全ての球種を満遍なく投げることで被打球の質を抑えられ、一定の結果を出せるようになるかもしれません。
まとめると、
・変化量が似ている球種を満遍なく投げることで、ピッチトンネル効果で被打球の質を抑えることができる
・コービンも、カッターを投げることでスライダーの被打球管理ができていた
・4シームやチェンジアップも投げることで、さらなるピッチトンネル効果を得られるのではないか
2. カーブの投球割合を増やす
カーブのような速球との球速差・変化量差が大きい球種を投げることによって、コンタクトの質を下げる方法もあります(記事内ではMix+ と説明されています)。
この一例として、Max Fried のカーブが挙げられています。4シームの球速が94マイルに対し、カーブは75マイルと20マイル近い球速差がある点、他の球種に比べて落差が大きい点(下図より)で、投球の幅を広げる球種になっています。
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2024年のマックス・フリードの変化量チャート
このような、球速差・落差の大きなカーブやスイーパーは、打者のBat Speed を遅くする効果があるようです。変化量が大きく、スイングで捉えるのが難しいからだとされています。
Bat Speed が遅くなれば、強い打球を打つのも難しくなります。ですので、球速差・変化量の差が大きなカーブやスイーパーは、コンタクトの質を下げる上で有効に働くと考えられます。
↓球種別のBat Speed データ
コービンのカーブ
水色がカーブです。
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2024年のパトリック・コービンの変化量チャート
コービンのカーブは落差は大きくないですが、球速は70マイルほどであり、速球との球速差は20マイルほどあります。球速差によって打者を翻弄できるかもしれません。
ですが、変化量差が無いのはやはり懸念点です。フリードほどの効果は期待できないかもしれません。投球割合は控えめにした方が良いのではないでしょうか。
まとめると、
・カーブやスイーパーなど速球と比べて変化量・球速差が大きい球種は、Bat Speed を遅くすることができ、コンタクトの質を下げることができる
・コービンのカーブは落差が少なめであり、それほど高い効果は期待できないかもしれない
3. 同じ球種を投げ続けると、効果が薄くなる
これも何となくイメージできると思います。
同じ球種を連続して投げていると、打者がその球種に慣れてきて、打たれてしまうというものです。
(Lance Brozdowski 氏は、Pitching Decay(投球の減衰)と呼んでいます。)
Pitching Decayを防ぐには、打者が慣れてくるタイミングで他の球種を投げることが効果的です。球種の効力を回復させることができるようです。(Lance Brozdowski 氏は、Buyback(買い戻し)と呼んでいます。)
参考元↓
ここでPitch Decay と Buyback の例として、Hunter Greene を紹介します。
22・23年のHunter Greene は、1巡目は良く抑えるものの、2巡目以降の打者に対して成績が大きく悪化するのが弱点でした。
23年までは4シームとスライダーのツーピッチ投手だったグリーン。24年から新たにスプリットを加えたのですが、スプリットの使い方を工夫することで、2巡目以降の成績を劇的に改善させたのです。
やり方はシンプルで、2巡目以降にスプリットを多く投げることでした。
![](https://assets.st-note.com/img/1734238925-jV8XA3Eh45NrLlT9CgbmDtFi.png?width=1200)
上図を見ると3回以降にスプリットの投球割合が上昇していることが分かります。(4%→10%へと上昇)
これが奏功したのか、24年は2巡目・3巡目になっても打者を制圧できるようになったのです。
![](https://assets.st-note.com/img/1734239116-zdGuQoxMOWLTRS5et8Evl1y4.png?width=1200)
もとから抑えていた1巡目にはあえてスプリットをあまり投げず、2巡目以降にスプリットの割合を増やす。これは、2巡目以降の打者の慣れを防ぐだけでなく、スプリットに打者が慣れてくるのを遅らせる効果もあると思われます。
もちろんスプリットの質自体も高いのですが、スプリットを戦略的に使うことで、グリーンはエース級の投手へと成長したと言えるでしょう。
コービンの場合
1巡目の被OPS.875。
まずは1巡目を抑えるところからなんとかしましょう。話はそれからです。
もちろん2巡目以降も良くないので、1巡目をどうにかした上で2巡目以降もどうにかしましょう。
コービンの投球割合はどうなる?
![](https://assets.st-note.com/img/1734178917-jio6CH7lQ8TywnV9q5xmzL2k.png?width=1200)
2024年のパトリック・コービンの変化量チャート
さて、ここまでコービンには変化量が似ている球種が5, 6球種あり、おのおの満遍なく投げれば良いのではないかと考えました。
一方でカーブについては、落差があまり大きくないことから投球割合はあまり多くない方が良いでしょう。
また、打者の左右も考えないといけません。
シンカー、チェンジアップはプラトーン要素が強い球種です。シンカーを右打者に、チェンジアップを左打者に投げるのは避けた方が良いかもしれません。
ということで、私が考えるコービンの球種割合は以下の通りになります。
右打者
スライダー、4シーム、チェンジアップ、カッター、カーブ
![](https://assets.st-note.com/img/1733994485-MjYHAOwnqyVQ3l6IxPDuhe2L.png?width=1200)
左打者
スライダー、シンカー、4シーム、カッター、カーブ
![](https://assets.st-note.com/img/1733994503-ixruvpKDt4cG0qLakQTjmAyf.png?width=1200)
パーセンテージは適当です。
こんな感じで、球種を良い感じに満遍なく投げることで一定の成績を残せるのではないかと期待しています。
※ただし、コービンが投げるボールはどれもそこまで質が高くありません。
防御率4点台くらいに戻ることを期待しています。
他の要因は?
Fangraphs に botERA という指標があります。球種ごとの質やコースをもとに算出されており、結果に依存しない安定した評価を提供します。
防御率と同じく3.50とか4.00 みたいな表記がなされます。
botERA においてコービンは、20年以降毎年4点台前半で推移していました。実際の防御率は5点台なので、かなりの差がありました。
botERA と実際の防御率が年によって乖離するのはよくあることです。ですが5年間ずっと乖離し続けているとなると、まだ数字に表れていない部分でコービンの成績が悪化する要因があると考えるべきでしょう。
その要因は、これまで書いてきた投球割合の偏りに起因するものかもしれません。あるいは、コービンの投球フォームが打者にとって打ちやすいものである(腕のでどころが見えやすい、タイミングをとりやすい)ことも要因かもしれません。
いずれにせよ、今ある投球の質を図る指標と、実際の結果が乖離しているのは事実です。この乖離が今後無くなることがあるのでしょうか。注目していきたいです。
まとめ
長くなりましたが要するに
変化量が似た球種を満遍なく投げて、ピッチトンネル効果で打者に球種を絞らせないようにしよう!
球速差がデカいカーブを投げて打者のコンタクトの質を下げよう!
同じ球種ばかり投げてると打者が慣れて打たれるから、2巡目以降は特に色んな球種を満遍なく投げよう!
ということです。
けっこう当たり前の話のような気がしますが、コービンは今までこれらができていなかったと考えられます。
全盛期はスライダーの質がとんでもなく高かったので問題はありませんでしたが、今は違います。コービンが自身の投球を見直し、再び活躍してくれることを願っております。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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参考にしたサイト