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CIVILTALK 07:Taigen Kawabe(Bo Ningen)

Taigenを16歳の頃から同級生として知っている筆者の一人としては、こうやってインタビューすること自体とても変な感じがするわけです。18歳で同時期にロンドンへ行き、たまに会っては安いベトナム料理を食べながら、最近聞いている音楽やアートデザインの話をしてました。

早口でトピックはコロコロと移り変わる上にかなりの長文インタビュー。だけど喋り方はいつもの通り柔らかく、興味があるものに対する知識も豊富で、相も変わらず痩せている。話を聞いたのは渋谷のイタリアンレストランですが、パニーニがパクチー風味に感じるほど懐かしくなりました。


自身の音楽に関するインタビューは色々なところで受けていらっしゃると思うので、今回は普段とは少し違ったお話ができればいいなと思っています。

T:イントロぐらいはしつつ、その方が逆に嬉しいです。

プロレスが好き、アイドルが好き、という情報は聞いてます。

T:好きですね。プロレスの話はまだメディアではしたことないな。一番最近でたインタビューで確かUKカルチャー・クラブカルチャーについてみたいなの聞かれましたけど、それも意外と聞かれたことなかったので面白かったです。

インタビューの申し込みは海外と日本のメディア、どちらからが多いですか。

T:海外の方が多いですけど、日本に帰ってくるタイミングはリリースとかライブ前にがっつり入ることが多いですね。今回はライブ自体が日本で2つだけだったので、大阪と東京それぞれ1つずつ取材を受けました。

Another Magazineでモデルをされていたり、McQ Alexander McQueenのモデルをされていたりと、音楽とは違うご活躍もよく目にします。そういった音楽活動とは違う、一風変わったオファーはロンドンではよくあることなんですか。

T:ロンドンはバンドとかに関して割とそういう目で見てくれているというのはあると思います。あとは本当に友達のつながりで、みたいなのも多いですね。日本みたいに大きなクライアントでも段取りを組まないでやっていることが結構多い気がします。ファッションとアートと音楽は境目が無い、という印象ですね。

仕事に関して、日本だと代理店にまず話がいって、それから付き合いのあるデザイン事務所に話が行くみたいな儀礼的な流れがありますよね。

T:代理店って英語で何て言うんですかね。もしかしたら当てはまる単語自体ないのかも。プレスやパブリッシャーとは違うんですよね?僕らのライブだとブッキングエージェンシーがブッキングなどを担当してくれていますけど、ラジオや雑誌などは基本それぞれのプレス担当が対応してくれています。ロンドンだとブッキングエージェントとマネージメントエージェントが完全に分かれていますけど、日本だとそうではなくて。マネージメントがライブの話を取ってきたりもするし、そこに所属しているわけではないけどフェスとか単独公演をプロモーターに委託したり。ロンドンの方がシステム的にわかりやすいと思います。

もしかしたら昭和文化の名残ですかね。とりあえず何事もまずは俺に話せや!的な。

T:どうなんでしょうね。でもとりあえず何をやっているかわからないような人はいないですね。

ロンドンへはどのようなきっかけで行かれたんですか。

T:なんとなくだったんですけど、本当に。アメリカは明る過ぎるし、その時は情勢も悪かった。筋肉文化的なのもあんまり惹かれなかった。僕が高校生の時に9.11があって、それでアメリカ留学という道はばっさり消えたという感じです。受ける印象として明るいか暗いかで言ったら暗い方がいいかなっていうのもあって。あっちで一旗上げてやるぜみたいなのも全然なかったですし、まさか全員日本人のバンドをやるとは思っていなかったので。とりあえず行ってみようが今に至るわけなので、すごいありがたい話ですけどね。

鳥居洋介さんが撮ったBo Ningenの写真集を先日偶然拝見しました。

T:鳥居くん!まさに昨日会ってて。写真集の撮影がちょうど一年前くらいです。僕らがPrimal Screamのオープニングアクトをやる時に、すげー!いくわ!みたいな感じでロンドンに来てくれて。その時に写真集作っちゃおうという流れになってできたやつです。

あの写真集はどのくらいの期間で撮影されたものですか。

T:ツアー自体が4公演しかなかったので、その間を縫って二週間くらいの間を各メンバーの家に泊まりに行ったり、二人でいる時間を作ってたくさん撮影してみたいな感じですね。彼は僕より5歳くらい年上なんですが、仲良くしていて、今朝まで一緒にクラブにいました。今日本でヒップホップが流行っていると思うんですけど、結構クラブとかで知り合う人たちって鳥居くんの世代の人たちが多くて。僕らの年代ってあんまり音楽やっている人たちいないなって思うんですけど、他の分野でも同じですか?

確かにそうかもしれないですね。30歳というある意味人生の区切りでやめていくような人たちが多いのかもしれない。

T:下の世代はむしろ多いような気がしていて。多分音楽もアートも前より敷居が低くなったんだと思う。Mac買えばとりあえずGaragebandは入っているので、なんとなく始められるし。そういう感じで、実感としては僕らの下は25~6歳が多いなと思います。僕の高校の後輩だとOKAMOTO’Sがいて、その世代って結構勢いあるし、まだ辞めてないやつらが多い。僕らの世代だけすっぽり抜けている気がします。逆に近くっていうとその3~5歳くらい上で、高校の先輩だとTHE BAWDIESがいます。

今名前を挙げてくれた二つのバンドの印象聞かせてもらえますか。

T:THE BAWDIESのやり方ってすごく正しいなと思うんですけど、僕が高校生の時に入っていたロック研究部のかっこいい先輩って、ある意味ロキノン系みたいな感じではなくて、そこには一般のかっこいいとは少し乖離がある。ちゃんと一般層にまでその格好良さを伝えるには、何かまた違った仕掛けが必要だったりすると思うんです。だけど彼らは基本的にバスケ部の集まりなので、バスケ部の先輩格好いいっていうのは音楽好きじゃない人たちにもわかるじゃないですか。その感じをちゃんと世間にお届けできているなって。音楽性はかなり渋いのに、人気もすごいあるし、バランスがすごくいい。高校時代の友達と会うとよくそういう話しますね。OKAMOTO’Sに対しても同じようなことが言えますね、彼らはしっかりと自分たちのルーツも言えるし。

二つのバンドとのつながりはあったりしますか。

T:THE BAWDIESはドラムのMARCYと仲が良くて、日本に帰ってくるとよく飲みに行ったりします。OKAMOTO’Sは一人ずつ別々なところで仲良くなっていったというような感じです。元々知り合ったきっかけは、僕がロンドンに行ってから最初の夏休みに帰国した時、高校のブラスバント部にコーチとして合宿に行ったのですが、当時高校一年生のレイジとハマがいて、そこですごく仲良くなりました。二人と話をすると「高1でこんなの聴いてるの!?」っていう感じで盛り上がって、僕も今いるロンドンの音楽の話をして。コウキはロンドンに遊びに来た時に僕の家に泊まったり、アビーロード行きたいっていうので、僕行ったことなかったんですけど、一緒に行ってビートルズのあのジャケットをやるっていう。ショウもこの前ロンドン来た時に遊んだり。バンドでがっつりというよりか、一人ひとりと繋がっている感じです。僕が最近一番面白いって思うのがトラックメーカーとか低音系のベースミュージックで、Jラップの動向とか気になるんですけど、レイジはそこらへんすごく詳しいので教えてくれたり。SIMILABが出てきた時も、いち早く見つけて「やばいんで町田行きましょうよ!」って誘ってもらって一緒に行ったりだとか。OKAMOTO’Sはみんなそういう意味でも嗅覚が鋭いという印象がありますね。どちらのバンドも一線でやっているし、刺激にもなるし、仲良くさせてもらってますね。

さきほどお渡ししたCIVILMAGAZINE third issueに出てくれた写真家の細倉真弓さんは、SIMILABのOMSBさんのCDジャケットを撮ってました。サイゾーで磯部涼さんの連載「川崎」でもBAD HOPなどの写真を撮影されてました。

T:OMSBくんのライブこの前初めて見たんですけど、すごく好きで。フィジカルだなと。体つきとかじゃなくて音がフィジカル。
3/13(月)に渋谷のDOMMUNEで「スーパーフィジカルフェスティバル」というのを、僕がトラックメーカーの食品まつりとやっているユニット「KISEKI」の主催で開催しました。なぜか二人ともそんな体つき的にガタイがいい方ではないのですが、音楽的にフィジカルを感じる人達を集めようってことになって。OMSBくんも誘ったんですけど予定が合わなくて。それで結局呼んだのがBOOLとあっこゴリラ、あべともなりの三名でした。BOOLさんってポエムコアっていうジャンルなんですけど。わかります?

いや、ちょっと聞いたことないですね。どんな音楽なんですか。

T:中2病を突き詰めたみたいな感じの。とりあえず部屋で深夜ポエムを読んで、誰かに曲をつけてもらう。だから曲を作らなくても音楽家になれるみたいな・・・基本は語りですね。world’s end girlfriendのレーベルから出してる「ゆでちゃん」っていう曲があるんですけど、これ、是非一回聴いてみてください。一番最初聞いたとき何てナンセンスな曲なんだと思って。でもなんでか消そうにも消せず25分くらいあるんですけど。段々のめり込んでしまって。そのBOOLさんに出てもらいました。

なかなか凄そうですね。

T:あと今2.5Dがすごく推してるあっこゴリラちゃんという女性のラッパーは、元々バンドのドラマーでバイブス野郎というか。MCバトルとかも優勝しているような人です。あともう一人、ヒップホップのあべともなりさんという人がいて、これね、今僕のイチオシなんですけど。ルックスがもうとりあえずひどいんですよ。アー写だとわかりやすいかな。彼が僕の最近の衝撃で。

見た目はハリウッドザコシショウみたいな方ですね。

T:YouTubeにヒップホップ界のハリウッドザコシショウってかいてありましたよ!久々になんかやばいんじゃないかって人に出会って。すごいいいんです。ヒップホップなんですけど、唯一ヒップホップというジャンルを聴いてこなかったのに出てきちゃったみたいな。ライブとしてはその3名と僕らKISEKIの4組で行いました。体型的にフィジカルとかマッチョっていうわけではなくて、音にフィジカル。ヒップホップとか下手するとカラオケになってしまうと思うんですけど。やっぱフィジカルな人ってそれでもバックDJにマイク一本で成り立つ。バンドってドラムもベースもギターもボーカルも全部生音なのに、全然フィジカル感ないやつが日本は結構多いと思うので。特に今いわれてるでしょ、シティーポップとか。

シティーポップって山下達郎とかの感じですか。

T:ちょっとわからないですよね。まさしく山下さんとかが本当のシティーポップっていわれるようなものだと思うんですけど。今の僕らの世代でそういう風に言われている人たちを否定するっていうよりか、その括り方に問題があるっていうか。tofubeatsくんとかまさに僕らが思うシティーポップだと思うんですけど、基本的にほとんどの人たちが90年代の焼き直しとか今の洋楽の上積みだけとっているような気がしていて。それがフィジカル感がないなと思う原因だと思うんですけど。そういう部分がないとただのコピーじゃないかと思うんですよ。でも今の若い子たちにはオリジナルになるルーツのものを聴いたことないから、むしろ新しいという感じなのかもしれないですけど。

そういうのって、いつの時代にもある話なのかもしれないですよね。僕らもそういう意味では、なにかに騙されていたのかもしれない。僕らが高校生の時にムーブメントになっていたポストロックだったり、ニューゲイザーだったり。例えば音楽に関して言えば、今までの歴史上でレジェンドや大御所と言われている人たちは、0を1にしてそれから5億くらいまでそのジャンルを倍増させたのかもしれない。でも今、その5億に100とか200足してもあんまり変わらないというか、たぶん最初になにかが起こった時のような衝撃はない。いちリスナーとしての意見だと思って聞いて欲しいんですけど、そういう意味ではクラブミージックやヒップホップホップにはそういう出尽くした感がないというか、まだ余白があるような気がしています。リアルタイムではないですけど、70年代にパンクがでてきたような衝撃とか、今もすでに確立されているジャンルに関しては、もうこれからそういうのは起こりえない気がします。

T:それも時代感かもしれないですよね。最近パンクの話とかロックの話とか、ジャンルの話をすることがよくあって。僕がロンドンに行ってわかったのは、本当の意味でパンクな人なんかそんなにいないということ。むしろそういう見た目の人ほど優しい。現在のパンクをファッションパンクとまでは言わないけど、当時は情勢かとが関係していたから。実際当時どうだったんですかね、本当に不満もあったのかもしれない。

パンクムーブメントの中で僕らが想像するいわゆるパンクだった人たちって、セックスピストルズのシド・ビシャスとジョン・ライドンくらいだったんじゃないかな。他の人たちはみんな中流階級以上だし、それじゃないとギターもドラムも買えない。日本でも学生運動とかあって、若い人たちがすごく考えてやっていたように見えるけど、当事者に聞くとそうでもなかったみたいなところもある。

T:そういう意味ではある種のファンタジーでもあるよね。今パンクバンドがトランプに対してどうのこうの歌っても、結局音楽としては薄くなる。以前受けたインタビューで話したことなんですけど、イギリスにグライムっていう文化があって、ご存知ですか?要は10年前ぐらい前に始まったラップカルチャーで、団地の黒人がバスとか電車とかで古いNOKIAのラジカセ携帯から爆音で流してるような感じなんですけれど。まあ怖いし、実際目の当たりにするとすごい嫌でしたけど、振り返ると音楽的に面白かった。今再評価され始めていて、去年マーキュリー賞っていうイギリスとアイルランドで、もっとも権威のあるとされる音楽賞を、グライムのSkeptaっていうMCが受賞して。不良文化みたいなもんですよ、さっき話にでたBAD HOPみたいな。そういう人たちのほうが、パンクバンドがトランプどうこうとかアメリカどうこうとかいうよりリアルだし、若い世代も共感する。それにネットとかも上手く使えていると思う。ファンタジーを必要としていない人たちだから、リアルがよりリアルになるという気がします。だから今バンドが辛いなと自分でやっていて思いますね。何をカウンターカルチャーにしているのかが明確でない。色んなバンドがテンプレート化してる気がしていて・・・ロキノン系か、どろどろサイケを高円寺でやるか、下北でギターロックをやるか。街になんとなくのシーンがあるし、そこからみんな出ない。

そういういわゆる何系みたいなのってバンドをやる人たちがわざと寄せていってるんでしょうか?

T:無意識的に寄せてるということはあるのかもしれないですね。もちろん意識してやってる人もいると思うけど。あとみんな他のジャンルを聴かないっていうのをよく耳にします。リスナーはもちろん自由でいいと思いますが、やってる側がそれでいいのか、それ言っちゃまずいでしょって。自分たちのやることに対してルーツやリファレンスが無さ過ぎる。でもそれも時代っちゃ時代。そういう意味でもシティーポップと言われている人たちにも、もちろんルーツからの系譜をちゃんと踏んできているような方もいるとは思いますが、その括りがまず雑というか、ちゃんとしている人とそうでない人の差があって、そうでない人の大半が圧倒的にインプットが足りない。それかインプットはとてもあるのに、僕らの下はいきなりネット世代だから、文脈が見えてない人が多い。

YouTubeの関連動画とかは見るけど、そのものの文脈は掘り下げてない。

T:逆にそれで勘違いして、面白いのがでてくるという場合もあります。今イギリスの若い世代のクラブミュージックのやつらは結構そういう感じのやつらが多くて、突然変異のような、色々聴いてたから色々やっちゃおうっていうノリで。PCミュージックの前に流行った「ヴェイパーウェーブ」と言われるジャンルとかでは、日本のCMとかをサンプリングしたりして。確かアメリカ人の女性トラックメイカーでVektroidという人が始めたと思うんですけど。元々日本カルチャーが好きで、色々調べてるうちに80年代の日本でアメリカにメチャメチャ憧れて作られたものが逆にアメリカのものよりもバキバキになっちゃったコーラのCMとか、はごろもフーズのやつとかああいうのを映像でサンプリングして。しかも80年代のポップスを回転数下げただけみたいなのが流行って。なんかそういうのは繰り返しじゃなくても悪意があるので僕はすごく好きです。ネット以降そういう人たちもちょこちょこいるからそういうのは大歓迎だし、クリエイティブとしてただの焼き直しにならない。昔のものをやるならそれはダサカッコイイものみたいな、割り切ってるのがいい。

アイドルとかって基本焼き直しの文化だと思うんですけど、そこは音楽性的にはどのように思われますか。

T:今回も2つの現場へ行ってきて、それで色々見て、ちょうど知り合いのプロデューサーの方とそういう話をしてきたんですけど。今のアイドルは、ももいろクローバーZが出てくる前はAKB48が絶対的な存在で、AKBはどっちかっていうとハロプロ的なものの発展系で王道。それで、ももクロが出てきてからアイドル戦国時代とか言われるようになって、まずコンセプトが多種多様になったと思います。みんなAKBには勝てないけど、AKBの手段である握手会だとかそういう王道のテンプレートを使いつつ、コンセプトをどう他のアイドルとカブらないか、どうすると目立つかという、まさしくローカルアイドルとかそうだと思うんです。そういう前提のもとに楽曲があって、またそこを差別化する。さっきお話ししたヴェイパーウェーブを音楽的コンセプトに取り入れているアイドルもいたりして、EspeciaっていうアイドルのPVは日曜日の朝の4時くらいに流れるお天気放送なのか環境映像なのかわからないようなものに、80年代のポリゴン的なものをあわせたりしたりしてて。ももクロもヒャダインさんが作っていた当時は、音として奇抜というか、とりあえずプログレかクラシックかみたいな感じでバシバシバシっと。あんなの今までなかったしっていうので、音楽的に差別化されてた。でんぱ組.incはアキバ系のカルチャーを音にも入れてたし。売れてくるとそれだけじゃやっていけないと思うので、サウンドコンセプトも変わってくるとは思うんですけど。基本的にはそういう他のアイドルとコンセプト・音楽性・ビジュアルがカブらないために音楽性が特異になる。それって=「プロデューサーが自分の好きなものを出せる」ようになったんですよね。テンプレの中でどう遊べるか。

たしかに最近ミュージシャンの人が、アイドルのプロデュースに参入してくることが多いかもしれません。

T:そうなんですよ。僕が今一番推してるのがMaison book girlというアイドルで、プロデューサーのサクライケンタさんという人は元々「いずこねこ」っていうグループをやっていたんですけど。スティーブライヒがすごく好きで、ロリコン界のスティーブライヒと言われているらしいんですけど。彼女たちの1stE.Pは、ライヒの手拍子から始まってそれがスネアになってリズムになっていくっていう。アイドルっぽくはなっているけど変拍子だし、ライヒお得意のマリンバが彼女たちの楽曲にもだいたい入ってたり。僕はそれ新しいなと思って。最近彼女たちはメジャーデビューしたんですけど。そういうのもアイドル戦国時代がなかったら出てこなかっただろうし、許されなかった。僕がアイドル面白いなっていうのはそっちの方が主で、いわゆるそういう僕みたいなやつを楽曲派っていうんですけど。

日本のアイドルは今、過渡期であることは間違いないと思います。とても全容を把握しきれないほど巨大になりました。

T:アイドル業界的にこじらせてるっていうのは、見てて思います。精神的に見ててきついっていうか。追い込んで追い込んでメンヘラになっていく女の子たちをドキュメントして、それ見てて面白いのかもしれないけど・・・それ見て面白いって言ってる人たちって思考停止してるなって思います。まあそれはやってる女の子たちも、それを面白いと思って売っているプロデューサーたちも思考停止してるんだけど。AV監督がアイドルのドキュメンタリーを撮るっていうのが最近流行ってるんですけど、どれもバットトリップ系というかダウナー系にしかなってない。音楽自体はバキバキのEDMみたいなのに、聴いてて落ち込むみたいな。そういうの全部含めて、こんだけ思考停止してたらトランプも勝つし、イギリスもEUから抜けるわって。アイドル好きだけど、そういう大人は嫌いだなっていうか、ちゃんと守ってやれよって思います。アイドルだからって大人の操り人形ではやってて辛いだろうし、だからこそでんば組.incみたいな、自分たちのストーリーを自分たちから発信するような人たちは、そういう人たちのお手本になると思います。

すごいわかる気がします。

T:宇川さんとちょうどこの前DOMMUNEで「低音」の話をしていたんですけど、日本はJ-POPに低音が入ってないっていう。イギリスでクラブとかライブハウスへ行くと低音がすごいんですけど。そもそも日本って昔の音楽、例えば雅楽とかでも高音で「ピー」みたいな高い音を神聖な音としている。それは、高音で神を下界に降ろすみたいな文化があって、中国から古代の楽器が入ってきてからそういう風に段々となっていった。とりあえず低音をバッサリ切るという、音楽文化の改造をしたっていうのをなんかの文献で読んで。色々本があるので諸説あるとは思いますが、そう思うと低音って日本では悪だったのかなって。ベースラインはガンガン動くのにもっと下のブーってなっている音がほとんどない。それを小室さんとかが戦ってたという話を聞いたとことあります。だってH Jungle with Tだって音楽ジャンルの「ジャングル」からきてるだろうし、ジャングルってドラムンベースとは少し違うレゲエルーツのものなんですけど、H Jungle with Tを聴いたら曲の最初の方とかレゲエっぽくしてて、ああやっぱわかってやってるんだなって。

日本のリスナーが追いつけてなかったというのもあるでしょうね。

T:宇川さんが言うには、近田春夫さんがタクシー乗ってる時にPerfumeが流れてきて、「最近のJ-POPはこんなに低音をちゃんと出すのか!」って驚いたっていう話を聞いたらしくて。だから小室さんが戦っていたのを、ちゃんと消化させて戦えているのが中田ヤスタカなんだなっていう。僕、中田さんの曲すごく好きなんです。感覚的にですけど、中田さんの曲は基本的に2デシベルでかい。iTunesとかでだらだら音楽流してても、PerfumeとかCapsuleとか、きゃりーぱみゅぱみゅがかかると、一気に音量がでかくなるんですよね。単に音がでかいっていうより、音の密度が高いような感覚。たぶん作曲だけでなく、編曲もマスタリングも自分でやっているからこそできることなんじゃないかな。小室さんの時代は、最後の仕上げをマスタリングスタジオに出さなきゃいけなかっただろうし、そこには他人が介在してしまう。今は外注しないで自分でできる環境になってるし、その技術もある。中田さんは、サウンドデザインっていう領域にとても長けているような気がします。たぶんご自身がユニットをやっていて、バンドみたいに担当楽器があるみたいなことじゃないから、楽器とスピーカーで曲をデザインしていくみたいなセンスが磨かれたのかも。

培ってきたものが今までの作曲家と根本から違うと。

T:有名なミュージシャンがツアーとかじゃないのに、Perfumeを見るためだけに来日したとか、追っかけてるっていうのを宇川さんからこの前聞いて、どの文脈でみても中田さんは革新的だったんだなと思います。同じくアイドルの作曲で有名になったヒャダインさんとかもすごい嫉妬してっていうのを聞いたことがあって、お二人とも同い年らしいんですけど。以前ヒャダインが中田ヤスタカさんのことを聞かれて「全然聴いてないです」みたいなことを言ったけど、実はめっちゃ聴いてましたっていうインタビューがネットに出てて。音楽からみるアイドルって結構面白いですよ。

ほんとに興味深いですね。

T:きゃりーぱみゅぱみゅは音楽もそうなんですが、「PONPONPON」のMVが海外でめちゃめちゃ流行って。僕もそこで初めて知ったんですけど、外人の友達から「きゃりーぱみゅぱみゅって日本人なんでしょ」って。話だいぶ広がっちゃいますけど、彼女の「PONPONPON」のヒットが、いつのまにか政府が打ち出している「クールジャパン」っていう路線と重なっちゃったのが残念ですね。PONPONPONが一番ウケたのに、いつのまにか忍者とか振り袖とかいった従来のイメージを表に出し始めてしまった。なんなのかわからない、得体の知れないリアルな今の日本が「PONPONPON」では上手く表現できていたのに、外人がイメージするNIPPON的なものにさせられてしまった。きゃりーちゃんのまんまが一番やばいと思うんですけどね。たぶん日本の良さって、そのなんでもあり感みたいなところだと思うし、僕らBo Ningenもそういうところで受け入れてもらえているっていうのは実感しているので、なんでそっちをもっと打ち出していかなかったのかなぁ。

今さら「SAMURAI、SUSHI、MT. FUJI」は言う必要ないですよね。

T:海外に発信することが前提でつくられる日本のカルチャーは、その従来のイメージを踏襲するというのがテンプレートになってしまっていて、そこには乗せきれない、もっとやばくてエクストリームなものが出にくくなってしまっているというのが現状ではないかな。もっといい方向に変わって欲しいし、まず名称変えないとかもしれませんけど。「クールジャパン」っていう。僕がイギリスに行ったときに自然に聞こえてきた日本人アーティストの名前としてMerzbowとか池田亮司さんとか灰野敬二さんとか、それ以降にスタンダード化した人がいないっていうのが残念だし。それ以降の世代にもいい人いるんですけどね、スタンダード化してもよさそうな人が。

ちょっと話を前の方に戻してお話させてください。僕も音楽が好きで、ライブへもよく行ったりします。それでわかるのが、CDもいいけどライブの方がいい人、CDの方がライブよりいい人、CDは良くないけどライブはいい人、の3種類いると思うんですね。それでライブがいい人っていいなってやっぱり思うんです。単純に「歌が上手い」っていう賞賛の言葉を使う場合でも、響いてくるっていう人とたぶんカラオケとかで100点とかとるんだろうなっていう人いると思うんですね。Taigenくんが言う「フィジカルが強いミュージシャン」ってその響いてくる方の人のことだと思うんですけど、もうちょっとそこら辺詳しくお話ししてもらえますか。

T:難しいですね・・・。成り立つってことかなとは思うんですけど。例えばヒップホップとかでステージ動き回ってても、それはただ騒いでいるだけの場合もあるし、どんだけ声量があってもつまらない人もいるし。単純に(自分の中に)くるのかこないのか。それだけですね。大学時代とかにクラスメートの作品にがっかりしたのとかも、説明とかコンセプトとか語らせるとすごいこと言うのに作品は大したことないとか。

ちょうどこの前We+のお二人とも同じような話になりました(笑)。

T:たぶん僕が「フィジカル」とか言い出してるのも、そういう昔の経験の反面教師なんだと思います。サウンドアート専攻だったので、アート作品などに比べてコンセプトの薄さがばれやすいということもあって。単に聴いただけでも良くて、コンセプトを聞くと尚良い、というのが理想ですよね。実がないものにはがっかりしちゃいますし。

アートの話になってしまいますが、アメリカはビジュアル文化というか、移民も多くて言葉が通じないことも多く、パッと見でいい悪いの文化になったのに対し、ヨーロッパではほとんどの国で同じ言葉を使う同じ民族が住んでいたこともあって、見た目に加えて言葉でどれだけすごいかを語れるかというのを伸ばしてきたと聞いたことがあります。日本も太平洋戦争に負けて完全にアメリカ寄りに行っちゃったので、日本では作品の見栄えにこだわっていてコンセプトが薄くなりがちで、逆に例えばイギリスのは見た目はぱっとしなくてもコンセプトは面白いというケースがよくある気がします。

T:確かに、それはありますね。でもアートじゃなくて営業やればっていう人も多いですよね、そんなに話が上手いんだったら(笑)。アートで生活できない時にもプレゼン能力は社会生活する上で役に立つから。

フィジカルのお話聞いて思ったのが、お笑いの人っていうか、本当に面白い人って出てきただけで面白いっていう。普通の状態から、「はい!ネタやります」「一発芸やります」で面白いじゃなくて、いるだけで面白い人。面白いことを言いそうで面白いみたいな。

T:まさにそうですよね。さっき言った「成り立つ」っていう。存在勝ち。食品まつりさんとも話してたのが、ヒップホップはどんなに技術を磨いても最終的には持ってるものでしかないっていう。例えば「刺す」って言ったらやれよみたいな、リアルさ。生活を変えてって音楽を変えるということもあるけど、やっぱり持ってるもの勝ちのところはあるよねって。どんな分野でも「生きてるもの」がないとダメだと思うんですけど、ヒップホップはそれが顕著。全部が全部そうでなきゃいけないってことじゃないですけど、でもバンドで純愛みたいなのを歌ってるのにファンの子お持ち帰りみたいなのはやっぱダメだし、それだったらクラブで「酒・女・金」みたいなのを歌っててマジでそれをやる方がいい。自分のやってることのどこかに命かけるようなところがないとダメっていうか、自分たちもそういうところはいつも気をつけてます。

例えば音楽についてですが、極限まで追い込まれたような音楽をやりたいけど、今自分は普通に不自由なく暮らしてますみたいな人がいるとするじゃないですか。もしそれをやりたい場合は、その極限状態に憧れてそれを借りてきてやるっていうことしかできない。今シティーポップが流行っているのとかってある種のリアリティーがあるんじゃないのかなと思っていて、そもそもそんな極限状態にいる人がそんなにたくさんいるとも思えないし、前まではそれを借りてきてたけど、普通だから普通のことをやろうっていう風に思考が変わってきたんじゃないか。そうするとこじんまりとしたものには、どうしてもなってくるとは思うんですけど、共感は得れる。等身大であるっていうことがリアリティーである、そこにもフィジカルがあるというような。みうらじゅんがずっと言ってた「ロックをやりたいけれど、俺の人生は全然ロックじゃない」みたいな。

T:それは確かにそうかもしれませんね。面白い。それはそれでいいですよね、ゴリゴリのヒップホップやりたいけどコンビニ強盗したいことないなら、むしろ普通の本音の方を出しちゃったほうがいい。別に極限状態だけに限らず、突き詰めていく部分がその人の中にあるっていうのが、作品がエクストリームになる大前提。それが例え「生活がロックじゃない」っていうちっちゃなサブジェクトだとしてもそうだし、そういうところは日本人が得意なところだと思う。だからこそ、この前やった「スーパーフィジカルフェスティバル」はそういう枠に入れなかった人たちを集めたんです。「カラオケでヒップホップ歌ったら友達に褒められたんですよ」とか、そういうちっちゃな原体験を拡張している部分が面白い。フィジカルな人を集めたら、自然と色々やりたかったけどこれしかできなかった人たちばっかり集まったんです。僕はもしかしたらたくさんの音楽を聴きすぎて、そういう枠からはみ出ちゃった人ぐらいしか聴き飽きてないものがないっていうのもあるとは思うんですけど、でも一般の人たちに見せても絶対面白いと思う。単純になんだそりゃみたいなものって誰がみても面白いと思うんです。地上波に江頭2:50が出始めたみたいな、そういう爆発力。でも考えると、今はそんなのみんな求めてないんじゃないかみたいな気もしてはいますが。

外れることが普通になってしまったのかもしれません。

T:時代もあるのかもしれませんね。僕らのちょっと上の人たちの世代で関西ゼロ世代と言われていた人たちは、Boredoms以降のオシリペンペンズやzuinosinなど、とりあえず過激で、海外が一気に反応したんですね。それが最近での最後の爆発力だった。そこはまさに初期衝動っていうか、俺も私もできる!みたいな、とりあえず人と違うことをやるっていうことに一生懸命だった。もちろん奇をてらいすぎたのもありましたけど。そんな感じをあべともなりさんとかに感じます。是非MVを見て欲しいんですけど。音楽好きでそれなりに聴いてきた人であれば、大体「この曲はどのパーツとパーツが組み合わせ」ってわかったりすると思うんですけど、そういうのがないっていうか、わかんなくて。天然なんでしょうね、温かい感じもあるし。バンドの「たま」みたいな。僕がまた別に参加してるバンドでMainlinerっていうのがあって、他の2人のメンバーがAcid Mothers Templeっていうバンドをやっていた50歳くらいの人たちなんですけど、海外でめちゃめちゃ評価が高くて。その人たちのことについて関西ゼロ世代の人たちが言ってたのが、今の50歳くらいの人たちの世代は本当めちゃくちゃだった、いい意味で馬鹿っすよねと。関西ゼロ世代の人たちは馬鹿になろうとして頑張って馬鹿になったけど、今の50歳くらいの人たちは天然の馬鹿。それがすごく面白し、それも時代性なんだと思うんですけど。今、東京のライブハウスとかクラブで、ここに入ったら死ぬんじゃないかなんて感じるところ、非日常感とか緊張感があって空気が変わっちゃうみたいなところなんてまずないし、そういう時代だったんだっていうのと、今はそういうのじゃないっていうのもありますよね。

昔は訳がわからないことをやって、それを面白がってた文化があったと思うんですが、今だとtwitterとかでもプロフィールのところにも自分の趣味などを書いて、「私はこういうものを好きです」ということをアピールすることが大事にされてたりすると思います。ある種のジャンルをアピールするというか。むしろ情報が溢れているからこそ、そういう一般的に共有できないもの、さっきTaigenくんが話をしてくれた枠からはみ出しちゃった人たちを、どのように好きって言っていいかわからないみたいなのが、逆にあるのかもしれない。当てはまらないものが好きな人は、一括りにされて「変なものが好きな人」とされてしまうのかもしれない。そういう「変なもの好き」ジャンルとして。

T:日本はそれが顕著かもしれませんね。それがさらに細分化されて、メインストリームとは交わらない。イギリスの方が、そういう人たちが間違って出てきちゃったりしていたし、特に音楽に関してはそういう人たちに救いはあったかな。日本だとどうしてもアングラから出れなくなってしまうのかも。だからこそそういう人たちは海外に出て、逆輸入的な、出稼ミュージシャンになってますよね。ヨーロッパツアーやアメリカツアーで一年間の家賃稼ぐようなやり方。日本はそもそもライブハウスやクラブに行くという習慣が根付いてない。そもそも入場料に2,000円とか3,000円とか払うんなら居酒屋行きますみたいな。自分は今それを見ていて、変わって欲しいけど変わらないだろうなと思いつつ、逆に外から見ている身としては、面白くも感じます。ガラパゴス化してるのが。健康的ではないですけどね。

Bo Ningenもある種の逆輸入として日本に広まったと思うんですけど、それは実感としてはどうですか。

T:僕らがイギリスをベースにして活動しているというのは、利用できるというか長所でもあると思います。RISING SUN ROCK FESTIVALは日本のバンドしか出演しないんですけど、そこも出させてもらえるし、FUJI ROCK FESTIVALやSUMMER SONICの深夜枠HOSTESS CLUB ALL-NIGHTERに出演させてもらった時は、その時間帯は基本外タレしか出ないのに出させてもらったり。自分たちは受け止められ方として邦楽でもあるし洋楽でもあるんだと思います。日本で昔からある、その「邦楽」「洋楽」って枠をぶち破りたいっていうのは、いつもインタビューで話させてもらってます。

今度もSYNCHRONICITYというフェスに出演されますね。

T:はい。色々なジャンルの方々とやるのはとてもいい機会ですよね。普段聴いてもらえない人たちにも届けられるし、目当てのバンドの文脈で僕らのことを見てくれても全然いい。その人が僕らのことをシティーポップと思うのなら、それでも。極端な例ですけど。

何事も分かりやすさや伝わりやすさの為に、強引に勝手にカテゴライズしてしまう。

T:僕らのやってることはわかりづらいと思います。シティーポップは言いすぎましたけど、ある時はメタルって言われたり、サイケとかアシッド、プログレ、言う人によって全然違う。それって逆にいいなと思って。わかりづらいからこそ、その人がメタルを聴いてるならメタルっぽく聴こえるし、それがサイケならサイケだし、普段聴いてる音楽によって解釈が変わってくるんだと思うんです。もしシティーポップを普段聴いてる人が何かの間違えでBo Ningenのことをシティーポップだと思ったんなら、なんかしらの要素がそこにはあるんだろうし、独自に解釈されるのは歓迎してます。

なかなかいい具合に、都合いい感じですね(笑)。僕らの友人でも、名古屋の人に会うと「名古屋なんですよ、地元」と言うんですけど、本当は岐阜なんですよ彼。それで、そこら辺出身の人に会うとたちまち「僕は下呂温泉の生まれなんです」と言いだしたり。関西出身の人に会うと「大学関西なんですよ」って、出生を使い分ける技を持っている。Taigenくんは自分でいうと「自分たちの音楽は何」っていうの、あったりするんですか。

T:ないです。最初はサイケですって、誰かに言われたのを使ってました。当時受けたインタビューではわかりやすいと思って。サイケってそもそもジャンルじゃないので、たぶんビジュアル系とかアイドルとかの括りに近い。捉えられ方によってはドラッグカルチャーからの流れを想像するかもしれないし、今だったらサイケトランスみたいなものを想像する。でも最近はそうなのか?と思い始めていて、twitterとかでエゴサーチしたりすると出てくるのが「Bo Ningenっていうほどサイケじゃなくない!?」とかもあったりして。

仕切り直して、もうちょっと普通の「ミュージシャンへのインタビュー」っぽいこと聞かせてください。

T:了解。

音楽を作る上でのインスピレーションの源って何かありますか。

T:今まで歌詞をあんまり頑張って書いてこなかったので、やりたいなと思ってやっています。基本的にスタジオでジャムをしている時に声を出して、それを歌詞にしていく方法がこれまで多かったので、思いもよらなかった言葉が出てきたりする。だから明確なコンセプトがあって物語になるっていう、従来のものを想像すると、僕の歌詞にはあまり拠り所がない。だから自分に対する潜在的なカウンターとかが、それに値するのかもしれない。丁度同じ質問を英語インタビューで受けたんですけど、「Taigen, can you share us your music inspiration? 」。全く同じ質問でしたね。それで僕は「Daily life, dream, counter of something I don’t like, something I don’t wanna be…」っていう、つまり日常、夢、自分が嫌いなもの、なりたくないもの、あとベースミュージック、ポルノとプロレスって答えました。コンセプトをガチガチに決めるのが僕は苦手で、たぶん決めても飛んでいっちゃうから。今は逆にそれを突き詰めていければいいなとも思っています。またあべともなりさんの話に戻ってしまうんですけど、あの人歌詞を書き直ししない。一回出たやつ即採用っていう、だから一曲の中に普通のミュージシャンが書く10曲分くらいのテーマが入っていて。そういう書き方だから曲の中でバシバシテーマが変わるし、一見ナンセンスなんだけどすごいメイクセンスだなと。そういうことやってる人ってなかなか最近いないと思うので、それに僕はすごく勇気もらってます。最初に決めたコンセプトの枠に勝手に自分が縛られてしまうというのがコンプレックスで、即興でやったほうが素の言葉が出る。今回のBo Ningenのツアーでも食品まつりとやってるユニットKISEKIのライブでも基本全て即興でやったので、そこは自分でもわからない部分が多いですけれど、分析してみるとさっき言ったようなものが下地としてあると思います。あと時間とか、過去・現在・未来。自分の敵は自分みたいなものも。歌詞が週刊少年ジャンプみたいなときがあったりしますよ。言われたこともありますよ、変にSNSとかで絡んでくるやつに「ジャンプみたいな歌詞しか書かねーな!」って。

それがわかるって、その絡んできた人だいぶBo Ningenのこと好きですね。

T:完全ディスられたんですけどね。フィジカルみたいなものを重視して、全部即興でやってると段々似てきちゃうっていうのもあります。繰り返しやってると手癖になっちゃう、口癖になってきてしまうところで、自分をどう楽しませるか、裏切れるか。才能が枯れるっていう話、よくミュージシャンを語る上ではありますけど、そういう恐怖もあります。でもそれと戦うことの方が好きです。アグレッシブに色々なジャンルを掘り下げていったり、スピリチュアルな言い方すれば「降りてくる」みたいなこと。たぶん即興ってそういうの多分にあると思うんです。それは、自分スゲーみたいなこと言ったり、エゴをさらけ出さないようになると、降りてこない気がしてます。なんか占いみたいなこと言い出しましたけど。僕はそういうことってあるとかないとか両方信じてるし、手かざしみたいなので何かが変わるっていうようなことも、なくはないと思うんです。多分そういうのが宗教とかになっていって、ある時にその教祖とされている人が俺の力だとか言い出すと、途端に力がなくなるみたいな。自分を誇示せずに、曝け出すこと。あと、ちゃんと外の世界と自分を通すパイプをいつも掃除しておかないと、自分の言葉として出てこない。外的な刺激を自分に与えるのはとても大事なことですけど、どれだけ自分に変換する能力があるかを磨くのをしっかりしていかないといけないと思ってます。

アイデアが出ないときに自分を変えようとするというのは、よく聞く話ですね。自分探しの旅とかまさにその典型だと思います。別のものに自分がなるっていうようなこと、自己啓発とかまさにそうだと思うんですけど。自分に関しての話だったのが、いつの間にか何か別のものになることを勧められている。でもそれは変化ではなくて、憑依だと思う。イタコ的なことを無理してやっても、根本的な問題は解決しない。ちゃんと物事を自分のフィルターを通して咀嚼するって話で例えるなら、大事なのは食材を全く違うところから持ってくるってことじゃなくて、どう料理するか。同じ材料でもつくり方が違えば全然違う料理になる。だから今Taigenくんが言ったパイプっていうのも、本当は同じテーマでもパイプがきれいだったり、たくさんあったりするといつまでもいいものができるようになる。

T:みんなアイデアが出ないときって、食べるものがないってよく嘆くんだけど、以外と食材はある。「アイデア枯れる=売り切れ」みたいな感じで思っちゃうけど、食材は尽きないものなのかもしれない。現にどの人も生きているわけだし。

デザインの仕事とかで案出しとかしてると、例えば100案とか出して、でも全部ボツみたいなこともあって、アイデアが尽きるかのように感じる。でもそこまでに作ったものは全部一旦忘れて、見方を変えたりしてアイデアを出すと、また色々と出てくる。だから仕事で忙しくてインプットの時間がないからっていうのは言い訳でしかなくて、たぶんアイデアが尽きたんじゃなくて、見方だと思うんですね。今まで自分が見てた見方をどうにかして隣にある新しい見方に自分をしていく。

T:それってアートとかも一緒かなぁ?そこはもしかしたら違うかもだけど、僕はさっきインスピレーションの源を幾つか挙げましたけど、中には「自分に辛い過去があって」みたいな、もうそれだけでコンセプト成立しちゃうような、でっかいバックグラウンドを打ち出している人たちは、もしかしたらアイデアが枯れるみたいなのってあるのかもしれないなって、今その話聞いてて思った。スタイルを決めちゃっていたり、世界観があるとそのコンセプトから抜け出せないみたいなところが、一長一短としてあると思う。小説家とかだったら大きな題材を変えるみたいなことで、対処することはできるかもしれないけど。

スタイルを決めちゃってる人にはアイデアが枯れるというのが、起こりうることだと。

T:デザインの仕事のように何か明確な行き先があらかじめ提示されてれば確かに何案でも出せると思う。それはアイデアではなくて、ソースやリファレンスだから。でも0から1を生み出していくアイデアの場合には、そういう特定の条件の人たちはアイデアが枯れるってことが起きるかもしれない。そういう場合には全然別なことをやるのも大事だと思う。僕らもバンドとしてはそういうやり方が多くて、焼き増しはしないようにしてる。あれはやったからもうやるのやめて、自分たちを飽きさせないようにしてる。でも僕らみたいな人たちだらけではないだろうから、そういう人たちってどうしてるんだろうな。そこで詰まっちゃうと、よく評論とかで言われる「何枚目で枯れた」みたいな状態に陥るんだろうと思う。

恋愛ソングばっかり歌ってる人は、自分の恋愛経験なくなったら終わりだろうし。だからテイラースウィフトとかは意図的に次々と彼氏を作っては別れてっていうのをやってるのかもしれない。

T:それって、自分から積極的にちゃんとネタを作りに行ってるってことですよね。

ロリィタ族ってお笑いの女性がいるんですけど、その人の芸風がフリップ芸で歌にのせて元カレの芸人の名前を言いまくるっていうのをやってて。やっぱり意図的に芸人の彼氏を作るようにしてるみたいで、そもそも芸人の男の人が好きだっているのもあると思うけど。芸人さんとしては恐ろしいですよね。でも自分のやりたいことの為にそうしてるらしい。

T:ちょっと話がそれちゃうんですけど、この前帰国してきたときにPIXIESの前座でライブして、その後ステージが六本木だったので、食品まつりとか何人か見に来てくれた友達と飲みに行ったんですね。盛り上がっちゃって終電もなくなったから、朝までサウナでも行くかってなって。そしたら場所柄全身刺青のちょっとヤバイ感じの人しかいないんですよ。いやーどうしようかなって、なんか中で携帯回してビジネスとかの話とかしてるし、これ俺たちここにいていいのかなって。でも終電もないし、何とかやり過ごさなきゃいけな。まあ自分はこんな格好なので、何とか因縁だけはつけられないようにしないとっていう、今までの人生で味わったことのないような緊張感の中で、サウナと水風呂を繰り返してたんです。そしたら段々キマッってきちゃって。

すごい体験ですね(笑)

T:今日の話で何度も挙げたように、ヒップホップってリアルな経験を歌にしていて、以前そんな話を知り合いのアイドルのプロデューサーとしてた流れから、まさにこのサウナでの経験も話したんですね。そしたらそのプロデューサーが言うには、結構半グレの人たちは大変らしいよって話になって。どんどん悪いことのレベルを上げていかなきゃならないから、自分が追い込まれていく。だから辞めたりすると、憑き物がとれたってなることもあるみたいで。ロリィタ族さんとかテイラーもだけど、もうほとんど自傷行為に近いことだから。

今度Brexit(イギリスのEU脱退)とかありますけど、なにか影響はありそうですか。

T:本当に国内にイギリス人しかいなくなったら、成り立たないだろうなと思います。どの会社でも組織でも分野でも、純粋にイギリス人だけで構成されているなんてところはないので。大丈夫かなって。僕らは今イギリスにいますが、外国に行く時は当然日本のパスポートなので不自由しませんけど。イギリス人は困るよねって。でも暮らせなくなっちゃうのは嫌だなと思います。

でもBrexitで情勢が不安定になったら、それをカウンターに素晴らしい音楽が生まれるかもしれない(笑)。

T:本当に、またパンクみたいなのが出てくるかもしれない(笑)。けど、ただそれは政府が転覆するくらいのパワーがないと。単純にイギリスからみんな離れてっちゃって、魅力がなくなるのはやばい。その割は食いたくないな。元々僕らは日本人でイギリスに居づらいから、それは僕らの音楽のカウンターになっているとは思う。

今日色々お話をうかがって、Taigenくんが色々なものに興味があるというのが改めてわかりました。でもそんな中で音楽を選んだ理由とかはありますか。

T:たぶん今日話に出て来た人たちみたいに、僕も音楽しかできなかったんだと思う。音楽に救われたっていうのはあるけど、人間的にも変わったし、一番褒めてもらえたっていうのもある。

だいぶ長くなってしまったので、そろそろ最後にしようかと思うんですが、Taigenくんから言っておきたいことありますか。

T:これからロンドンに帰ってアルバム作るぞ!ってことくらいかな(笑)。

インタビュー収録日:2017年4月2日



Taigen Kawabe

ロンドンを拠点とする4 人組サイケデリックロックバンド“Bo Ningen”のBass/Vocalであり、日本のアイドルとプロレス、そしてイギリスの低音音楽を愛する31歳。Bo Ningenの他にも河端一(Acid Mothers Temple)との“Mainliner”、 食品まつり a.k.a foodmanとのKISEKI、Jan st werner(Mouse on Mars)との“miscontinuum”等のサイドプロジェクト、個人名義のソロや、Faust、でんぱ組.inc、downy、Aqualung等へのRemix提供など活動は多岐にわたる。ソロ名義のライブではベース弾き語り、ラップトップを使った演奏など、機材とジャンルの幅に囚われない即興演奏を行う。またモデルとしてAlecander McQueenやClarksのキャンペーンモデルをはじめ、i-D, Dazed & Confused, Another man, New York Timesなどでモデルも務めた。
http://boningen.info/

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