現役時代×退職後 第9回 ■組織と定年退職
退職という概念
現在,建設会社に勤務しているが,大学から建設会社への転職組の私にとって,これまで定年退職が身近ではなかった.これまで接してきた大学の先生方は,定年退職後も引き続き研究や教育活動を続け,行政の委員会等は継続する方が多く,企業でいう定年退職のイメージとはずいぶん異なる.定年による退職はひとつの区切りではあるものの,研究・教育活動や研究室とのつながりはこれまで通り継続しつつ,ゆるやかに次のステップ(民間企業の研究顧問や関連団体等)に移行することが多い印象である.名誉教授となる先生も多く,退職を機に大学と関係がきれるということは稀である.
また,大学の教員が定年を迎える際は,よく最終講義や退官記念講演などが開催される.退官する教員の希望にもよるが,卒業生や関係する企業・大学関係者など様々な方が参加されることが多い.これまでお疲れ様でした,という意味合いとこれからもよろしくお願いします,という意味合いの両方が込められていると感じている.
一方で,会社を退職する場合,退職祝いの会を会社や部署を巻き込んで行うことは珍しいのではないだろうか.退職祝いの意味合いも,これまでお疲れ様でした,というニュアンスが強い.定年退職や再雇用終了は会社との関係の区切りであり,これを機に次のステージへ移行していく印象である.最近,入社前からお世話になった方が退職され会社を離れることとなった.このとき,会社を退職するということは明確に社外の人間として扱われるということを実感した.民間企業においては退職日を境に社内と社外のラインがあることに改めて気づいた.もちろん人間関係が切れるというわけではないのだが...
組織と終身雇用...
採用から退職までを考えると,民間企業の場合,まだまだ終身雇用の風潮が強いが,大学の教員は一度大学に採用されれば順調に出世できる仕組みではなく,基本的に上のポジションに上がるためには公募に応募し,採用されなければならない.キャリアアップや任期満了に伴い所属する組織を変えるということは珍しくない.そんな背景もあり,大学の教員は,組織の一員として研究活動をしているというより,研究活動をする中で,一組織に所属しているという感覚だろう.大学の教員が退職の前後で周りからの扱われ方があまり変わらないのは,所属先はあくまで仕事をする看板であり,○○先生として周囲が認識しているかもしれない.
生涯のモチベーションとネットワーク
過去にインタビューを受けていただいた方々を振り返ると,現役時代から,退職後もしくは生涯について考え行動された方が多い印象を受ける.会社員を全うすることが軸ではなく,自分がどうしたいか,どうなりたいか,ということを軸にしている方が殆どである.まさに,組織の一員としての自分ではなく,技術者として一組織に所属しているという感覚である.少し前に,退職技術者を中心に構成された“土木学を広めよう”と活動している団体の会合に参加した.現役時代の所属はゼネコン,コンサル,行政,大学と様々であるが,後世に何が残せるか,後輩たちに何ができるかを考え,土木に貢献したいという思いに溢れていた.自分の専門と経験に自負があり,自分のやりかいこと,興味関心のためにどうするのかを常に考え行動する姿勢が,生涯にわたって,研究者・技術者として輝き続ける秘訣ではないかと感じた今日この頃であった.何はともあれ,組織の安心感にあぐらをかくのではなく,楽しく自分らしくやりたいことのために日々精進ということだろう.そういうネットワークを大切にこれからも邁進していきたい.
2023.6.6 執筆:しぶ