デジタルツールとビジネス慣習
東京都がデジタルファースト条例を施行したことなどをはじめ、いまやICTが、一般の人や事業者にとって電気ガス水道などと並ぶ生活上の必須インフラとして一気に浸透し始めています。
当然それは企業活動にも波及していて、ICTを取り込んだ働き方の見直しをどう進めていくかが大きな社会課題として活発に議論されています。その流れを受けて、ICTを駆使したデジタルコミュニケーションにビジネスマナーをどう融合していくか?も大事なトピックになってきています。
具体例として2点、その議論の補助線となるような事例を見つけたので取り上げてみます。
1点目は、オンライン会議の画面の構成パターンを通して参加者の「地位の序列」を可視化しようとするケースです。以下のようなイメージで、リアルな会議体に存在する、「上座」や「下座」といった座席の位置によって役職順を表すコミュニケーションをデジタル空間に再現しようという試みを指します。
これはオンライン会議のホストが参加者の表示順を並び替えられる機能を利用することで、「上座」や「下座」といった序列性を可視化できています。つまり、ICTの身体性を伴わない環境でありながらも、顔写真の位置関係から「地位の序列」を会議参加者が自覚するリアルな認知特性をそのまま取り入れられているわけです。
2点目は、電子印鑑のUIにおける「お辞儀ハンコ」の再現例です。「お辞儀ハンコ」とは、一部業界で慣習的に行われるとされる、お辞儀を示すように斜めに押印することで、承認者への敬意を示す振る舞いの俗称です。
一部の電子印鑑のシステムは、押印の配置と角度の操作に関する権限が与えられているため、この機能を使うことで、稟議上の序列的立場をデジタル空間に再現する試みができるわけです。
これらの事例では、「位置」や「傾き」の操作によって、そのコミュニティの中での序列関係のコンテクストを巧みに組み込むことに成功しています。その意味ではプロダクトデザインとして、どちらも日本人の認知特性や文化をうまく取り入れているという解釈ができるわけです。
でも、これはやっちゃダメなやつなんです。あまりにも本物ぽく再現し過ぎたがゆえに、リアルな慣習の意義を同時に損ないもしているんですね。
なぜなら、オンライン会議参加者の表示順や押印の角度などというものに元々何の意味も備わっていないことを、ツールを利用するユーザーは直感的に知っているからです。それ、後付けでしょということで。
つまり、生産性向上という本来の企業内活動のICT利用文脈からすれば、こういう慣習は生産性の低い行動様式にすぎないという、別の視点をデジタルツールが与えてくれているわけです。(お世話になっております。〇〇です。 のようなメールの定型文も、チャット慣れしている人からすると、すごくめんどくさがられますね。)
デジタルに慣れた人にとってみれば、アナログな価値観に取り残されてデジタル時代に適応できていない人たちを炙り出すリトマス試験紙にデジタルツールの使い方次第ではなってしまうということで、見る人によって異なる捉え方をするというのは興味深いですね。
新しいデジタルツールに触れるときは、マインドセットを変えるつもりで向き合おう!ということで。