大手企業DX推進のリアル:現状重視vs理想重視の狭間で揺れる成功の型
最近大手企業の組織・グループ横断型のDX組織にいる方と会話することが増え、共通の課題感があることに気づきました。今回、久しぶりにこのテーマについて投稿します。
大手企業の中央集権型DX組織の基本業務は、社内外のプロジェクト整理と優先度判断です。筋が良さそうなところにリソースを割り当てて加速させ、筋の悪い場合にはその原因を調査し、事の次第では終了に向かわせることが基本実務になります。
こうした仕分けを経て、筋の良いとされるDXプロジェクトには、共通して次の2つのパターンが見られます。
1. ボトムアップ型:業務起点のDX
このパターンでは、日々の業務を細かく見直し、システムに任せるべきところをシステム化し、代替可能なプロセスについてAI導入を試行することが進められます。実績のある技術を安定的な業務に組み込むため、ハズれにくいという特徴があります。また、「業務」起点であるために実行しやすく、既存業務と比較して効果を証明しやすいことからも、「筋が良い」と判断されやすい印象です。
さらに、DX施策の効果が短期間で現れるため、単年度の評価にも適しており、2年ほどのスパンで結果が明確になる場合が多いです。ただし、既存事業に対して数%の改善が見込める程度に留まりがちなので、プロジェクトは一巡した後、業務部門に引き継がれることが一般的です。
2. トップダウン型:意志起点のDX
もう一つのパターンは、DXやデジタル化の前に「こうなりたい」という事業ビジョンを誰か(できれば高役職者)が持ち、それを起点に進められるものです。中身としては、事業構想で描いたワナビーに基づき、スタートアップさながら既存の成功例がない技術や挑戦的なアプローチを取り入れて、「だれもやったことがないこと」にチャレンジする、あるいは「自分たちだからこそできる」事業変革を目指すものです。このように、安定とは無縁の朧げな革新を目指すビジョンが出発点となり、それがプロジェクトを推進する「意志=Will」となります。
この種のプロジェクトでは、まずこれが自分の欲しい成果だという「要望」を見つけ、そのためにこういうコトがしたいという「要求」、それをどのレベルで達成したいかという「要求水準」と段階的に整理されていきます。プロジェクトオーナーとリーダーが以心伝心で連携し、構想が他メンバーにも共有できるよう「事業計画」や要求水準を満たすための機能と構成の関係性といったシステム的な「要件」として、また実現方法が「仕様」として具現化・バトンタッチされていく流れです。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を経てビジネストランスフォーメーション(BX)に至るには、このようなトップダウン型の成功が多いと感じています。
ただし、「トップダウン」型アプローチにはリスクも伴います。顧客や市場が本当にその成果を望んでいるのかが確実でないため、規定演技の業務を好むいち企業人の立場からすれば必ずしもクレバーな進め方とはいえません。後ろ盾となる強力な政治力や組織内の高位者のサポートが求められる場合が多く、青写真が中期経営計画に盛り込まれることで進むか、あるいは組織No.2の懐刀としてプロジェクトが水面下で進められ、やがて組織内で大きなポジションを得るための手段として進められることも少なくない印象です。
コンサルティング会社のアプローチ
興味深い点は、コンサルティング会社もこの2つのパターンに引っ張られることが多い点です。
1つ目の業務刷新やツール導入を目論む企業は、現状の課題を詳細にヒアリングし、「理想」ではなく「現状」に合わせた施策を提案することが多いです。そのため、部分最適の小規模な改善策となりがちで、現場の満足度は高いものの、経営層の期待に応えられないギャップが発生します。このギャップを埋める発展策を考えることがDX組織の役割となります。
一方、戦略的な提案を得意とするコンサルティング会社やプラットフォーム系企業は、顧客と共に「何を目指すべきか」という意志を深く考え抜きます。ただし、ここで得られたワクワクするような結論が現場や顧客の視点が欠如した提案になると現場から乖離してしまい、擦り合わせや改良が必要です。このような社内力学(現場と経営との利害衝突)のサポートもまた、DX組織の重要な役割です。
結論
DX組織は役割論が不明確になりがちですが、こうしたように、現場と経営層、あるいは自社とコンサルとの間を埋め、プロジェクトを前進させるための橋渡し役を担うことが大きなミッションとなります。このミッションを曖昧にしたまま、DXのプロジェクトのモニタリング業務だけに徹すると、良い面ばかりが強調される、実態を反映しない形骸化した定期タスクへと管理業務が堕ちていきます。
また人間は過去の成功体験に縛られる性質があるので、「ボトムアップ型」、「トップダウン型」どちらかの成功体験がある人はおなじ型をまた繰り返したくなります。この過去のしがらみを振り払い、自社/事業にとってどちらが今大切か?をニュートラルに発想できる機能を担保しておくことは、DX変革を定常的に進める上で大事なポイントです。