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憲法改正せずに合区問題を解消する方法6選

 現在、選挙期間中である参院選。この参院選では常についてまわる、ある問題がある。一票の格差と合区問題だ。現在、最高裁が参院選における一票の格差の許容範囲を3倍以内としている。その範囲に収めるため、人口が少ない鳥取と島根、高知と徳島はそれぞれ合区、一つの選挙区として扱われている。結果、参院選における一票の格差は3倍以内に収まったものの、ここ数年の各都道府県の人口増減により、再び3倍を超えてしまった。今度は、石川・福井が合区となる必要がある。さらには山梨や佐賀が合区対象となるのも時間の問題であろう。
 この問題に対して、自民は合区を解消するには、憲法を改正するしかないという。憲法改正と合区解消がどのように関係するのか。憲法第14条にはこう書かれている。

第十四条
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
② 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
③ 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

日本国憲法

 一票の格差とは憲法第14条を根拠としている。そのため、自民党は憲法にこの14条とは別に、例外的に参議院の一票の格差を認める条文を盛り込むことで、合区解消を目指している。つまりは法の下の平等に特例を設けようとしているのである。
 果たして、そういった解決方法が法学的に正しいのか、また そもそも、政権与党の立場にあって地方の人口を減らし続けた自民が、地方の声を守るとして、その実 票田を守ろうとしているだけではないのか、気になるところだが、これも置いておこう。本稿では、この合区問題を解消するための方法を、既に各党が提案している案から私案まで紹介したい。

①定数増

 身を切る改革が声高に叫ばれる昨今ではあるが、地方の議席を減らさずに一票の格差を解消するには、総定数を増やすのが手っ取り早いのもまた事実だ。具体的に何議席まで増やせば、合区は解消されるのか見ていこう。2倍未満が理想であるものの、最高裁は3倍を基準としているため、今回はそれでシミュレートしてみる。

🔴総議席 定数300改選150
選挙区  定数200改選100

北海道  定数8 改選4 2.36倍
青森県  定数2 改選1 2.24倍
岩手県  定数2 改選1 2.19倍
宮城県  定数4 改選2 2.08倍
秋田県  定数2 改選1 1.74倍
山形県  定数2 改選1 1.93倍
福島県  定数4 改選2 1.66倍
茨城県  定数4 改選2 2.56倍
栃木県  定数4 改選2 1.73倍
群馬県  定数4 改選2 1.72倍
埼玉県  定数10  改選5 2.62倍
千葉県  定数8 改選4 2.80倍
東京都  定数18  改選9 2.74倍
神奈川  定数12  改選6 2.74倍
新潟県  定数4 改選2 1.99倍
富山県  定数2 改選1 1.85倍
石川県  定数2 改選1 2.04倍
福井県  定数2 改選1 1.37倍
山梨県  定数2 改選1 1.45倍
長野県  定数4 改選2 1.84倍
岐阜県  定数4 改選2 1.76倍
静岡県  定数6 改選3 2.15倍
愛知県  定数10  改選5 2.66倍
三重県  定数4 改選2 1.57倍
滋賀県  定数2 改選1 2.52倍
京都府  定数4 改選2 2.30倍
大阪府  定数12  改選6 2.62倍
兵庫県  定数8 改選4 2.45倍
奈良県  定数2 改選1 2.39倍
和歌山  定数2 改選1 1.67倍
鳥取県  定数2 改選1 最小区
島根県  定数2 改選1 1.21倍
岡山県  定数4 改選2 1.70倍
広島県  定数4 改選2 2.51倍
山口県  定数2 改選1 2.42倍
徳島県  定数2 改選1 1.30倍
香川県  定数2 改選1 1.71倍
愛媛県  定数2 改選1 2.41倍
高知県  定数2 改選1 1.25倍
福岡県  定数8 改選4 2.31倍
佐賀県  定数2 改選1 1.47倍
長崎県  定数2 改選1 2.37倍
熊本県  定数4 改選2 1.57倍
大分県  定数2 改選1 2.03倍
宮崎県  定数2 改選1 1.94倍
鹿児島  定数2 改選1 2.87倍
沖縄県  定数2 改選1 2.64倍
比例代表 定数100改選50

 図らずも、キリのいい数値となった。ただやはり、最小区は改選1の鳥取であり、この定数増という対応であれば、際限なく定数を増やすことは避けられない。

②比例代表制

 一票の格差を完全に無くすには全国比例代表制しかない。ただ、衆院選のようにブロックごとに区切っても、一票の格差は小さく収まる。ここでは、参議院総定数を維持したまま、10ブロック区切った場合を計算してみる。衆院選と同じ11ブロックも考えられるが、それだと四国の改選数が4と少数意見を汲み取るべき比例代表制の機能が不全となる。参議院改革協議会報告書でも「合区を解消し、多様な民意を正確に反映させながら、一定の地域性の確保や有権者との距離感を考えて全国 10 ブロックの比例代表制で非拘束名簿式とする」という意見があったと記載されている。

🔴総議席  定数248  改選124
北海道  定数10 改選  5 1.09倍
東北   定数18 改選  9 最小区
北関東  定数28 改選14 1.03倍
東京   定数28 改選14 1.02倍
南関東  定数32 改選16 1.05倍
北陸信越 定数14 改選  7 1.07倍
東海   定数28 改選14 1.09倍
近畿   定数40 改選20 1.06倍
中国四国 定数22 改選11 1,03倍
九州   定数28 改選14 1.06倍

 比例代表制の問題として、イスラエルのように政権が安定しなくなるのではないかと言われることがあるが、参議院であれば、問題ないだろう。法案ごとに各派に賛成を呼び掛け過半数を形成する丁寧さが求められ、良識の府の役割を果たせると言える。また、無所属の候補が立候補できない問題点も挙げられるが、前回参院選のオリーブの木や今回のNHK党のように諸派党で一つの名簿を形成したりや社民党の名簿に新社会党候補が推薦という形で登載されたりと、比例代表も党派を超えて対応している。選挙法の改正の際に、複数政党・無所属の個人で一つの名簿を作成できるよう、整備すれば充分、対応可能だろう。
 ここでは、10ブロック分割を提案したが、全国比例も無論、検討に値するだろう。(その場合、候補者のしんどさは今と変わらなくなってしまうが…)

③10ブロック中選挙区制

 参議院の存在意義は貴族院から改められた時から問われ続けた。ただ、現行の選挙制度はすでに一つの答えを出しているのではないかと考える。
 衆議院はご存知、小選挙区比例代表並立制だ。この小選挙区では一つの選挙区に同一政党から複数の候補者が出馬するということは、基本的にない。結果、有権者の投票基準の意識は候補者の人物性より、所属政党に注がれることになる。当然、小選挙区でも人物本位で投票する人も少なくないだろう。しかし、市区町村の大選挙区制であれば、同一政党から複数の候補者が出馬していることが多く、所属政党だけでは投票先が絞れない。結果、最終的な投票は候補者の人物性によって決められることになる。一方、小選挙区制であれば、所属政党で投票先を決めてしまえば、それで誰に投票するのか決まるわけだ。また、衆議院の比例代表は拘束名簿式、政党名での投票しかできない。つまり、衆議院の選挙制度はいずれも人物より政党本位なのである。
 一方、参議院は元々、小選挙区は一部でほとんどが中選挙区であった。前述の通り、大・中選挙区制での投票先の最終決定の基準は候補者の人物性となりやすい。また、比例代表制も非拘束名簿式であるため、有権者は政党だけではなく、候補者まで吟味して投票することになる。(実際は政党票割合が多いが)
 つまり、衆議院は政党本位、参議院は人物本位、というのが現行法の設計思想でははないか。
 しかし、近年 地方の人口減少により、1人区が増大している。小選挙区(1人区)と中選挙区では当然、政党側の戦略も投票行動も変わってくる。このアンバランスが人口の少ない地方県が強い政党・自民党に一方的に有利な状況を生んでいる。
 そこで、全国どこでも中選挙区制となるよう、さっきと同じように選挙区を10ブロックに分割してみるのはどうだろうか。

🔴総議席  定数248  改選124
総選挙区 定数148  改選74

北海道  定数  6 改選  3 1.12倍
東北   定数10 改選  5 1.11倍
北関東  定数16 改選  8 1.11倍
東京   定数16 改選  8 1.10倍
南関東  定数20 改選10 1.03倍
北陸信越 定数  8 改選  4 1.15倍
東海   定数18 改選  9 1.04倍
近畿   定数24 改選12 1.09倍
中国四国 定数14 改選  7 最小区
九州   定数16 改選  8 1.14倍
比例代表 定数100  改選50

 問題点としては、改選4の北陸信越と改選12の近畿と実に3倍の開きがあることか。

④11ブロック中選挙区制

🔴総議席  定数248  改選124
総選挙区 定数148  改選74

北日本  定数16 改選8 1.12倍
北関東  定数16 改選8 1.12倍
千葉   定数8 改選4 1.00倍
東京   定数16 改選8 1.10倍
東海東  定数16 改選8 1.09倍
北陸信越 定数8 改選4 1.16倍
東海西  定数14 改選7 1.02倍
近畿   定数8 改選4 1.00倍
大坂兵庫 定数16 改選8 1.14倍
中国四国 定数14 改選7 1.01倍
九州   定数16 改選8 1.15倍
比例代表 定数100  改選50

 定数4~8に収めた。千葉や北陸信越のあたりを工夫すれば、さらに選挙区間の定数の開きを抑えられるのだろうが、今回は衆議院ブロックとの関係性を最大限、考慮した。定数の開きを抑える区割りも様々、考えられるがキリがないので、ここでは挙げないものとする。というのも、この定数の開きを抑えることによるデメリットはこれだけで充分、分かるからだ。北日本ブロックは北海道+東北であるが、津軽海峡を挟んだ結びつきはそこまで強くない。東海東(神奈川・山梨・静岡)も普段は見慣れない区分だ。このように、このやり方であれば、都道府県間の結びつきの強弱を無視することは避けられない。

⑤東西改選

 ここまでは既出であったり、読んでる方も真っ先に思いついたりするような案だったと思う。ここからは、少し変わった改正案を紹介したい。また、今までは都道府県の枠組みにとらわれず、選挙区間の様々な差異を最小限にすることを目指していたが、都道府県の枠を維持したまま、一票の格差を最小化の目指したい。これらの案も、既に分かり切ったものであったら、そこは申し訳ない。
 さてさて、憲法改正しないで合区解消する案として、参議院の最大の特徴である半数改選を止めようという案を見かけたことがある。当然、その意見には違憲だよとツッコミが入っていたが。では、改めて半数改選に関する条文を確認しよう。

第四十六条
 参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。

日本国憲法

 まあ、この条文が参議院の一票の格差を大きくしている一因といって差し支えないだろう。ただ、小タイトルから既にお察しだろうが、この条文、半数の分け方には言及していないのだ。であれば、毎回、全国一斉改選ではなく、東日本で半数・西日本で半数という分け方も可能ではないか。そうなれば、奇数の定数が可能となり、格差が小さく抑えられるのだ。

🔴総議席  定数248  改選123/125
東日本 選挙区72 比例51 改選123
北海道 定数6 1.70倍
青森県 定数2 1.21倍
岩手県 定数2 1.18倍
宮城県 定数3 1.49倍
秋田県 定数1 1.88倍
山形県 定数2 1.04倍
福島県 定数2 1.79倍
茨城県 定数3 1.84倍
栃木県 定数2 1.86倍
群馬県 定数2 1.85倍
埼玉県 定数8 1.76倍
千葉県 定数7 1.72倍
東京都 定数14 1.90倍
神奈川 定数10 1.78倍
山梨県 定数1 1.56倍
長野県 定数3 1.32倍
静岡県 定数4 1.74倍
西日本 選挙区76 比例49 改選125
新潟県 定数3 1.43倍
富山県 定数2 1.00倍
石川県 定数2 1.10倍
福井県 定数1 1.48倍
岐阜県 定数2 1.89倍
愛知県 定数8 1.79倍
三重県 定数2 1.69倍
滋賀県 定数2 1.36倍
京都府 定数3 1.65倍
大阪府 定数9 1.88倍
兵庫県 定数6 1.76倍
奈良県 定数2 1.29倍
和歌山 定数1 1.80倍
鳥取県 定数1 1.08倍
島根県 定数1 1.30倍
岡山県 定数2 1.83倍
広島県 定数3 1.80倍
山口県 定数2 1.30倍
徳島県 定数1 1.40倍
香川県 定数1 1.84倍
愛媛県 定数2 1.30倍
高知県 定数1 1.35倍
福岡県 定数6 1.66倍
佐賀県 定数1 1.58倍
長崎県 定数2 1.28倍
熊本県 定数2 1.69倍
大分県 定数2 1.09倍
宮崎県 定数2 1.04倍
鹿児島 定数2 1.55倍
沖縄県 定数2 1.42倍

 東西日本の定数が同じになるよう調整しようと思ったが、それだと本案の容易に定数調整ができるというメリットを阻害しかねないため、あえて完全同数とはしなかった。アダムズ方式のその特徴から、比例定数は東日本が多く、選挙区定数は西日本が多くなっている。
 デメリットとしては、国政選挙でありながら日本の残り半分では、選挙が行われていない状態となるため、盛り上がりに欠けることになりかねない。
 亜種として、比例代表だけは毎回、全国で行うという案も考えられるが、これは投票率の面で比例代表の不均衡を生みかねない。
 よく、参議院改革として、アメリカ上院を真似て、都道府県ごとの定数を一律4、改選数2とすべきというものがあるが、連邦制のアメリカの制度を単なる行政区分にすぎない都道府県の日本に当てはめることはできない。学ぶべきは国政選挙は全国いっぺんに行うべきという固定概念を取っ払うことではないだろうか。

⑥奇数定数

 さて、東日本・西日本に分割することで、定数を奇数にし、格差を抑えられることは上で見た。しかし、現行のような全国一斉の選挙でも奇数の定数は可能なのだ。 今回の参院選では、神奈川選挙区で珍しい事例が発生した。改選4+1。ご存知、任期6年の参院選において、5位当選者は補欠選挙当選扱いで半分の任期3年となる事例だ。また、遡れば貴族院が廃止となり、参議院が出来た際も、下位当選者を任期3年とした。
 これを準用すれば、例えば定数1改選数0.5の鳥取選挙区奇数回選出議員は、任期3年を迎えたところで、任期の途中で失効し、残り3年は補選扱いとして、偶数回参院選にて議員を選出し直す、ということも可能ではないだろうか。これなら、一票の格差は2倍以下となり、都道府県の枠組みを維持される。

🔴総議席  定数248  改選124
選挙区 定数74      改選148
北海道 定数6 1.70倍 改選3
青森県 定数2 1.21倍 改選1
岩手県 定数2 1.18倍 改選1
宮城県 定数3 1.49倍 改選1+任期半分
秋田県 定数1 1.88倍 任期半分
山形県 定数2 1.04倍 改選1
福島県 定数2 1.79倍 改選1
茨城県 定数3 1.84倍 改選1+任期半分
栃木県 定数2 1.86倍 改選1
群馬県 定数2 1.85倍 改選1
埼玉県 定数8 1.76倍 改選4
千葉県 定数7 1.72倍 改選3+任期半分
東京都 定数14 1.90倍 改選7
神奈川 定数10 1.78倍 改選5
新潟県 定数3 1.43倍 改選1+任期半分1
富山県 定数2 1.00倍 改選1
石川県 定数2 1.10倍 改選1
福井県 定数1 1.48倍 任期半分
山梨県 定数1 1.56倍 任期半分
長野県 定数3 1.32倍 改選1+任期半分
岐阜県 定数2 1.89倍 改選1
静岡県 定数4 1.74倍 改選2
愛知県 定数8 1.79倍 改選4
三重県 定数2 1.69倍 改選1
滋賀県 定数2 1.36倍 改選1
京都府 定数3 1.65倍 改選1+任期半分
大阪府 定数9 1.88倍 改選4+任期半分
兵庫県 定数6 1.76倍 改選3
奈良県 定数2 1.29倍 改選1
和歌山 定数1 1.80倍 任期半分
鳥取県 定数1 1.08倍 任期半分
島根県 定数1 1.30倍 任期半分
岡山県 定数2 1.83倍 改選1
広島県 定数3 1.80倍 改選1+任期半分
山口県 定数2 1.30倍 改選1
徳島県 定数1 1.40倍 任期半分
香川県 定数1 1.84倍 任期半分
愛媛県 定数2 1.30倍 改選1
高知県 定数1 1.35倍 任期半分
福岡県 定数6 1.66倍 改選3
佐賀県 定数1 1.58倍 任期半分
長崎県 定数2 1.28倍 改選1
熊本県 定数2 1.69倍 改選1
大分県 定数2 1.09倍 改選1
宮崎県 定数2 1.04倍 改選1
鹿児島 定数2 1.55倍 改選1
沖縄県 定数2 1.42倍 改選1
比例代表 定数100  改選50

 デメリットとしては、6年間腰を据えて政策に取り組めるという参議院の利点が損なわれてしまうことか。

おわりに

 以上、6通りの解消方法を紹介させていただいた。いずれの案も一長一短ではあり、一筋縄ではいかない問題である。しかし、硬性憲法を現行の選挙制度と辻褄を合わせるために、安易に改正して良いものなのか。憲法の一文一文に無意味なものはなく、そこには込められた理念がある。その理念を汲み取り、如何にして選挙制度を憲法の枠の中に収めるか、知恵を絞るのが国会議員の仕事であろう。
 合区解消はほとんどの国民が必要性を感じている政治課題であろうが、もし憲法改正する他、道はないと考えている人がいれば、本稿がそれ以外の道を探す一助となればと思う。
 また、一人の人間が思いつく案にも限界があるため、別案等あればコメント欄に是非、書いてほしい。それに基づいて加筆・修正するかもしれない。

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