【第1回】チュルリョーニスの世界へようこそ
2025年、リトアニアの偉大な作曲家・画家チュルリョーニスは生誕150周年を迎えます。この特別な年に、彼の音楽や絵画、生涯について週に一度のペースでご紹介いたします。これを機に、チュルリョーニスの芸術の魅力に触れていただければ幸いです。
ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス(Mikalojus Konstantinas Čiurlionis, 1875-1911)は、リトアニアを代表する作曲家・画家であり、彼独自の視点から音楽と絵画の境界を越えた表現を追求しました。一人の芸術家がジャンルを越えて音楽と美術の両方で優れた成果を挙げた例は、世界的にもほとんど例を見ません。わずか35年の短い生涯の中で、音楽の分野では交響詩、弦楽四重奏曲、ピアノ曲、オルガン曲、リトアニア民謡を編曲した合唱曲など、約350曲におよぶ音楽作品を生み出し、絵画においてもテンペラ画を中心に400点近い作品を制作し、幻想的かつ象徴的な表現を追求しました。彼の作品には、夢や宇宙、神秘的な要素が織り交ぜられ、視覚芸術としての革新性を持っていました。また、彼は文筆活動や写真にも関心を寄せ、多岐にわたる創作活動を行いました。
チュルリョーニスの作品は、19世紀末ヨーロッパの象徴主義や神秘主義の影響を受けながらも、リトアニアの伝統や自然観を取り入れた独自の世界観を持っています。彼の交響詩『森の中で(Miške)』は、リトアニアの風景や民族的情緒を描いた作品として知られ、絵画においても『星のソナタ(Sonata of the Stars)』などを制作し、視覚と音楽の融合を探求しました。初期の作品には自然や神話的なモチーフが多く見られ、後期に向かうにつれて、より抽象的かつ象徴的な表現が顕著になります。晩年には、彼の精神的な世界観を反映した壮大なテーマの作品が増え、結果的に集大成となった『王(Rex)』を描きました。
日本では、1992年に池袋のセゾン美術館で開催された「チュルリョーニス展 リトアニア世紀末の幻想と神秘」をきっかけに、彼の名が広く知られるようになりました。また、リトアニアの映画監督ジョナス・メカスの映画『リトアニアへの旅の追憶』(1972)の中で、ヴィータウタス・ランズベルギス教授の演奏によるチュルリョーニスのピアノ曲がサウンドトラックとして使用されていたため、彼の音楽を耳にした方もいらっしゃるかもしれません。
今後、週ごとに、彼の音楽や絵画作品、生涯についてご紹介いたしますので、ぜひご注目ください。
チュルリョーニスの作品を通じて、リトアニアの芸術と文化の魅力を感じ取っていただけたら幸いです。