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メキシコの最新治安情報を一次情報から読み解く
メキシコと言えば「危ない」「怖い」「麻薬」「カルテル」「誘拐」・・・などなど、イメージが絶えませんが、しっかりとデータに基づいて、どれほど危険なのかを理解している人は少ないでしょう。本稿では、メキシコ国立地理情報統計院(INEGI)の公式データの一次情報を元に、死亡数や殺人数を見ながら検証します。
メキシコの死亡要因ランキングの8位が殺人
毎年INEGIからは、メキシコ在住のメキシコ国籍の人の死亡要因を発表しています。それをランキングにしてみました。男女ともに「心臓に関連する病気」から亡くなる方が最も多く、次いで「糖尿病」と「悪性腫瘍」が入ります。この順位は毎年同じです。一般的なメキシコ人の食生活は高カロリー・高血糖・多脂なので、こうした生活習慣病が原因と思われる病が上位を占めます。
ただ、メキシコは経済協力開発機構(OECD)に加盟していますが、他の加盟国と大きく異なる点は、死亡要因に「傷害(殺人)」が男女総合で8位、男性で6位にランクインしていることです。年間3万人以上が殺人が元で亡くなっていますが、男性が87.6%を占めています。
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殺人の件数は日本の40倍
この3万人ラインは2017年から7年連続で上回っています。2024年のデータは、2025年8月頃に発表されますが、恐らく8年連続に至るでしょう。メキシコの人口は2024年時点で約1億2,900万人であり、日本の人口とあまり変わりません。では、日本の殺人件数はどれくらいでしょうか。警察庁が毎年公開している「刑法犯に関する統計資料」によると2014年度~2023年度の平均殺人認知件数は、概ね900件で推移しています。そのため、例えばメキシコで数字が最も大きかった2020年(36,773人)の場合、日本では認知件数929件ですので、メキシコでは日本よりも40倍の殺人が発生している計算になります。
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殺人による死亡件数は35歳未満の男性が6割超
殺人による死亡件数の年齢層と性別で比較してみると、25~34歳の男性が26.38%を占め、次点の35~44歳(19.56%)と合わせると、約46%も占めています。15~24歳(16.50%)の若年層まで含めると62.5%です。残念ながら、35未満の男性が大半を占めている状況です。
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殺人による死亡者最多の州はグアナファト州
2023年の病気などを除く外的要因を元に死亡した件数のうち、1位が事故(47.5%)で、2位が殺人(37.3%)でした。メキシコは32州あり、州別で殺人が原因で亡くなった人数が分かります。人数ベースでは、世界遺産が複数あり、自動車産業を中心とした日本企業が多数進出している中央高原のグアナファト州が最多でした(3,746人、外的要因死の55.9%)。そこから、メキシコ州(2,849人、同33.6%)、バハカリフォルニア州(2,642人、同53.8%)となっています。メキシコ州は32州のうち人口が最多の州で、バハカリフォルニア州は米国と国境を接する都市ティファナがある州です。
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正しく判断するには人口10万人当たりの比率を用いる
殺人による死亡件数の絶対数だけでは判断できないものがあります。それは人口に対しての発生比率です。一般的に、人口10万人当たりを指標にします。そうすると、メキシコ全体では2017年以降で40~50人(男性)、6人程度(女性)、30人弱(男女合計)となっています。
州別で見ると、人口が少ないものの、殺人で死亡する人数が多いコリマ州(114.8人)が群を抜いています。そこから、モレロス州(77.3人)、サカテカス州(68.9人)、バハカリフォルニア州(65.6%)、チワワ州(61.9人)となり、6位にグアナファト州(59.1人)が入りました。死亡者数の絶対数では1位だったグアナファト州も、人口10万人当たりでは6位であり、2位だったメキシコ州も同じく17位まで下がります。こうした比率を見て状況を判断する必要があります。
また、絶対数で下位だった南バハカリフォルニア州(47人)、ユカタン州(52人)、ドゥランゴ州(89人)は、10万人当たりで確認しても下から4位、1位、3位であり、こうした州では安全に暮らすことができると言えます。また首都メキシコ市は下位から5番目に位置しており、都心イコール危険のイメージが少し変わります。
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油断をしてはいけないが、メキシコ全土が危険とは限らない
これまで殺人の死亡者数の一次情報をベンチマークとして見てきました。もちろん、日本と比較してしまえば危険だらけの国と思えますが、州や町ごとに治安の濃淡があります。油断をしてはいけないことは変わりませんが、メキシコ全土が危険地帯である、という思い込みは、一旦横に置いておき、データに基づく判断も重要となるでしょう。