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ワールドトリガー考察⑥ 疑問その4 消えるトリオン、見えないトリオン

⚠️この記事は漫画「ワールドトリガー」の設定考察です。設定上の情報に関しては掲載本誌の最新話分まで触れる場合があります。間接的なネタバレになる可能性もありますので、ご注意ください

【シリーズ最初の記事】はこちら↓

 前回からかなり期間が空いてしまいましたが、引き続きよろしくお願いします。

 今回のお話は、トリオン弾の射程について。


〇トリオン弾の射程限界

 射程距離の話をするにあたって、再びトリオン弾の構成のお話をします。

 弾の威力を決める「弾体」、その弾体が空気と反応することを防ぎ射程を伸ばす「カバー」、そしてその2つを飛ばすための「噴進剤」

 トリオン弾のカバーに割くトリオンが多いほど射程距離が伸びるとされています。

 トリオン弾が物質化していないことはここまでに明らかにしていますから、この「カバー」は物質ではないようです。

 物質ではないから、空気抵抗を受けない。

 普通の銃の射程距離は、空気抵抗と重力の影響を受けます。それがないからこそ、トリオン弾の射程距離を決める要素は、恐らくカバーのみであると思われます。

 ここで、「弾速が上がれば射程も延びないとおかしくないか?」という疑問にも一応の回答が得られます。空間を進むものは、速けりゃ速いほど遠くまで届くもの。「カバー」の厚みより、「噴進剤」の量の方が大事なんじゃないの?

 しかし、「カバー」の解釈次第で話は変わります。次の3パターンを考えてみます。

①消費型 ……弾丸が空間を進むほどにカバーの耐久値が消耗していき、徐々に剥がれてやがて消え、そこが射程限界になる。

②上限設定型 ……カバーはすぐに損耗するものではなく、射程距離の限界に到達したら即時解除するように設定されている。

③ 複合型 ……①と②の両方が当てはまる。基本は①だが射程上限が設定されている。

 もしも①の仕様なのであれば、弾速が上がれば当然飛距離も伸びるはずです。速ければ速いほど、空間内でカバーが消耗し切るまでに飛距離を稼ぐことができるからです。この場合、弾速特化のライトニングが、イーグレットに射程で劣る理由がわかりません。

 一方、②・③の仕様なら弾速がいくら速くても関係ありません。弾丸が速かろうが強かろうが、あらかじめ設定した射程限界まで届いたらすぐに消え去る。
 なるほど、ライトニングの射程がイーグレットに負ける理由はこれか。「弾速特化と射程特化が区別されている」という違和感が解消されました。

 あぁすっきりした。これなら、基地の外壁をぶち抜くほどの威力の弾丸が、貫通後にすぐ消え去ってしまうのも頷けます。

「そこってそんなに重要か?」という声が聞こえてきそうですが、ええそのとおり重要です。

 なぜなら射程距離の問題とは、流れ弾の問題でもあるからです。

 ふたたび千佳に登場してもらいましょう。莫大なトリオン能力をもった人間が、射程距離特化型の狙撃トリガー「イーグレット」を使うとどうなるでしょうか。

 そりゃもう果てしなく遠くまで飛ぶんでしょ。
 でも相当な技術がないと当てられないよね。
 基地周辺の防衛任務がほとんどのボーダー隊員には超長距離狙撃とか別に要らないよな。
遠征任務なら役に立つかもしれないな。

 こんな感じでしょうか。
 この辺りについて語っても楽しそうですが、ここではそれよりも大事なお話がひとつ。

無闇に飛距離が伸びることの危険性、すなわち流れ弾の問題について、お話したいのです。

 仮に千佳のような高トリオン能力者の撃ったイーグレットの弾丸が、トリオン能力次第で数km先の警戒区域外まで届き得るとしたら大事です。

 いくら安全処理があるとは言え、民間人が往来でトリオン弾に撃たれて倒れるなんてことが起これば大騒ぎ。「気絶するだけ」とは言っても、車道の横断中、階段昇降中、シチュエーション次第で最悪の結果を招くことになります。

 直撃よりもさらに恐ろしいのは、実は対物被害です。自動車、電気系、ガス管。街路樹、信号機。砕けた瓦礫、ガラス片。壊れたそれらをきっかけに起こる被害は、人を傷付ける範囲がより広い。

「狙撃トリガーの射程距離」は、絶対に組織単位での規制が必要になります。

 結論は「千佳にイーグレットを使わせるな」ではありません。「絶対に何か対策をしているはず」ということを提言したいのです。

 対策とはつまり「設定した射程距離の限界に到達することで、弾丸が即消えるような使用」。上に挙げた②と③がそれです。

トリオン弾は、必要以上に飛んでいって流れ弾被害を出さないため、「途中で消える」ように設定されている。これはほぼ間違いないと見ていいでしょう。

 問題は「だから何なんだ」という話なんですが、この前提がないと次の話に移れないのです。

 トリオンが「消える」瞬間を、読者は何度も目撃しています。

「ワールドトリガー」16巻 第134話「林藤 陽太郎②」より
両断されトリオンが漏出する戦闘体
「ワールドトリガー」4巻 第34話「雨取 千佳③」より
基地外壁を貫通し、あっさり消えるトリオン弾

 特に注目したいのは外壁貫通アイビス。 

 これがまた不思議なところで、トリオンの弾丸はあまりにも突然フッと消失します。余波の描写すらない。

 効力を失い、目に見えなくなる。まさに「消えた」としか言いようがありません。

 これってどういう仕様になっているんだ?

 前半に触れた「射程距離問題」を踏まえて、この疑問について確かめていきたいと思います。

○トリオンが「消える」とはどういうことか

 傷ついたトリオン体から漏出したトリオンは煙になって、空気に溶けるように消えていきます。

 射程限界に達したトリオン弾は跡形もなく消失します。

「トリオンエネルギーの消滅」らしき瞬間を読者は何度も目にしていますが、これってトリオンが「ゼロになった・無になった」と読み取るべきでしょうか?

 僕が気にかかるのは本当に消えたのか、ただ見えなくなっただけなのか、その違いです。

 元から目に見えないのが通常状態であるトリオンがまた見えなくなったとき、それを「消えた」と見做していいんでしょうか。

 トリオンは通常の物理だけでは説明がつかない存在ですが、あくまでエネルギーです。物理的に世界へ作用する力です。それなら、基本的には現実の「エネルギー保存の法則」に従った振る舞いをするのではないでしょうか。

 揺れる振り子がやがて止まるように、電気エネルギーが熱となって、それから徐々に冷めていくように。
 多少の余波、影響を残しながら、緩やかに消えていくのが自然、と考えられませんか?

 要するに、「めちゃくちゃすごいことができるエネルギーなのに、そんな一瞬で消滅するっておかしくない?」と言いたいのです。

 この疑問を得たことで、さらに次のお話。

 消えたトリオンはどこへ行くのかを考察してみます。

〇消えたトリオンの行方

 トリオンは通常、目に見えない。

 その状態のトリオンを観測する手段は限られています。

 空閑遊真のサイドエフェクトは、嘘をついた者の口から黒い煙のようなものが見えるそうです。
 また、天羽月彦の眼は「敵の強さが色で識別できる」と言います。

 それぞれ、他の人間には視えない何かを視覚で捉えている。これはトリオンが「彼らだけには見える状態」になっていることを示しています。
常人には見えなくなっても、少なくとも一時的にそこにはトリオンがある、ということです。

 その後はどうなるんでしょう。

 ここまでの推論に沿って考えるなら、トリオンに込められた「情報」が失われ、現実への影響力がゼロになって放散していくイメージが連想されます。

 後はただ消えるのみ? そうかもしれませんが、「トリオン超光速説」ならもう少し面白い解釈ができそうです。

 超光速説に従うなら、トリオンが消えたとき、つまり「通常状態」に戻ったとき、トリオンは再加速していることになります。光を超えた速さまで。

次の瞬間には彼方へ消え去っている。光は1秒で約30万㎞進むそうです。地球から月までが約38万㎞らしいので、一瞬で消えたエネルギーの行き先、その答えは「たぶん月の向こうまで行ってる」ということになります。

 と、同時にトリオンは現実の物理法則に干渉できない状態に還ってしまうというのが「超光速説」の理屈です。

 エネルギーが無になったのではなく、一瞬で「トリオン側」の世界に行ってしまう、という風にも表現できます。

 この発想は、莫大なエネルギーが一瞬でゼロになってしまうよりは納得しやすいと考えます。エネルギーが消耗されて失われるのは、遥か彼方へ飛び去ったその後、というわけです。

 ここまでが可能性その1、「消えたトリオンは超光速で彼方へ吹っ飛ぶ」です。

 可能性は他にもあります。

 例えば、トリガーの使用により「消費」され放散したトリオンは、実は他の誰かに受け止められて再利用されている、とか。

 というのも、登場人物たちのトリオン能力に個人差が大きすぎることが気にかかるのです。

 作中でも屈指のトリオン能力を持つ雨取千佳は、白米が大好き。小柄な姿に似合わずかなりの量を食べています。消費したトリオンは休息や食事によって回復するそうですから、彼女の高いトリオン能力は食事による摂取エネルギーに支えられているのだと予想できます。

にしてもデカすぎない?

 そもそも、トリオン器官は人間の体内にある臓器です。
 必要だからそこにある。

 決して、トリガーというカッコいいガジェットをカッコよく使いこなして戦うために存在する、そのためだけにある都合の良い装置ではありません。そこから生まれるトリオンだって、必要だから作り出されていると考えるのが当然です。

 そう考えたときに、「生きるために必要以上のエネルギーを生み出す臓器」という存在はかなり不自然な存在です。

 仮に、生命活動に必要なトリオン能力を1としましょう。
 主人公の三雲修は、データブック「ボーダーブリーフィングファイル」(以下BBF)内のパラメータでトリオン能力2とされています。千佳のトリオン能力は数値にして38。修の19倍です。

 いくらなんでもデカ過ぎる。

 どれだけ丈夫で優れた内臓機能に恵まれたとして、「常人の19倍の血液を生み出す骨髄」なんてあり得ませんし、必要ない。人体の仕組みとして違和感があります。

 トリオン器官がただの「トリオン工場」なら、生命活動に必要な分だけを生み出せばいい。「生産」という意味ではオーバースペックな印象です。ですが、「集積」の機能に注目すれば話は別。

 トリオン器官は「工場」であると同時に「倉庫」でもある。

 生産力よりも大きな差がつくのは、実はこのトリオン容量と「他から取り込む力」ではないかと考えることができます。

 自家生産だけじゃなくて、他から飛んできたトリオンも仕入れているのでは? なんかこう、綿飴みたいに絡めとったりして。

 トリオンは、恐らくあればあるだけ良いものなのでしょう。トリオン器官を奪われた人間は死亡してしまうそうですから、トリオンは人間の生命力と密接に関係していると思われます。でも、自分で生み出すには相応のコストがかかりますから、生きるための必要以上を作る必要はないはず。
 ですが、他所から取り込んでいいなら話は別です。キャパの許す限り多く受容すればいい。器を大きくすることにはちゃんと意味がある。そう進化するだけの理由があります。

 ここまでを可能性その2「消えたトリオンは再利用される」とします。

 この説の面白いところは、近界の一国家「アフトクラトル」の技術、「角トリガー」に通じるという点です。

モロに人体改造、トリガー角

「角トリガー」。またの名を「トリオン受容体」

「受容体」という表現については作中でもデータブック「BBF」でも、その他のQ&Aでも詳細が語られていません。

 ですが、受容体とは読んで字の如く「受容」が役割。特定の物質や信号をキャッチするためのセンサーのようなもの。

 これって要するに「他からトリオン綿飴を多く搔き集めるための棒」なのでは?

トリオンを搔き集める力&集積する容量=トリオン能力

 これが全然違ったとしても「受容体」という表現は「トリオン」という存在の背景に繋がるキーワードになりそうです。今後注目していきたいところ。

 と、このようにふたつの可能性をご提示しましたが、いずれにも共通しているのはトリオンが見えなくなっても「ただ消えるわけではない」ということ。

 トリオンという存在の、人間に見えない部分、読者の知らない部分、そんな「トリオン側の世界」に目を向けると、かなり考察の余地が広がります。

 しかし実際のところ、「消えた後」に関しては作中から読み取れる情報が限られるため、検証を深めることができません。
 トリオンの由来=タキオン説、それに連なるトリオン超光速説を補強するにはまだまだ弱い。

 そこで次の記事では、「トリオンがなぜ光るのか」を考えていきたいと思います。

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