逃げ馬なら距離が短い方が有利?

結論から言います。逃げ馬なら距離は長い方が絶対に良いと私は思っています。

力の足りない逃げ馬が短距離で勝つことはまず不可能ですが、距離が長くなるほど後方の有力馬につけ入る隙が出来るのです。


この記事を書こうと思ったきっかけは、この前のテレ玉杯オーバルスプリント2021
僕はネットで競馬の情報収集するのが趣味なので、色んな人の意見などを見ているのですが、こんな一言が。
「アランバローズは前走の2000mでもう厳しそうだった。1400mになる今回は絶対にプラス!」と

説明しておくと、アランバローズというのは今年の地方競馬の最前線にいる馬の1頭で、昨年の全日本2歳優駿や、東京ダービーの勝ち馬です。逃げることが多く、この2競走も逃げて勝っています。

で、↑のコメントを見た僕は憤りを感じました。絶対そんなことないだろ!と。そしてこの記事を書くに至ったわけです。
(ちなみにこのレースのアランバローズは3着でした。)


まず、なぜ多くの人には「逃げ馬は短距離が有利、長距離は不利」という考えがあるのでしょう?

おそらく多くの人が見ているのは、例えば「いつも1600mを前方で走っていた馬が、急に2000m戦に出てきた」パターン。この場合は、1600mで力を使い切る走りをするので、当然途中から沈んでいきます。

自分の主張と逆のことを言ってしまうのですが、確かに「逃げ馬の距離短縮は買い、差し馬の距離延長は買い」なのです。ただこの「買い」というのは、2000m戦を先頭で走り切って買ってしまうアランバローズには通用しません。なぜなら、2000m戦で勝つというのは「2000mのペースで走っている」から。

少し話がそれるが、「逃げ馬の距離短縮は買い」というのは、もう少し詳しくいうと「逃げたが途中でバテて沈んだ馬」のような場合。なぜかというと、この馬は前進気鋭が強すぎて「2000mのレースを1600mのペースで走って結果バテている」ような馬だからだ。
これが「2000mを逃げて勝った馬」の場合、多くは「2000m戦のペースで走って勝っている」ので、距離短縮はプラスではないのだ。これがアランバローズの距離短縮がプラスではないと言った理由のまず一つだ。
あのサイレンススズカはあのペース(1000m通過が58秒前後)で2000mを走り切るから鬼のように強いのであって、1200mを走っても別に勝てないだろう。マイルでも勝てるタイムは持っているのだが、マイルチャンピオンシップでは、キョウエイマーチに先頭争いで勝てるスピードを持っていなかったので大敗したのだ。


次に逃げ馬の強みについて考えよう。たまに言われるのが「競馬は基本的に逃げ先行が有利。後方にいる馬はより長い距離をより速く走らないといけないから勝つのは難しい」なんて言われることがある。距離的な問題で逃げが強いのだろうか?それならディープインパクトがあんなに強いはずがない。

逃げ馬の強みはズバリ「自分でペースを作ることができる」ことなのだ。よく、強いはずの逃げ馬が他の馬に無理に競りかけられて負けることがある。ラップの話をすると長くなってしまうので割愛するが、2021年だと大阪杯のレイパパレやジャパンダートダービーのキャッスルトップなどだ。先頭を自分の進みたいペースで走り、少し休憩をいれたい地点でペースを落とし(←これが大事!!!)、スパートをかけたいところからスパートをかけていく。まあ大体ゴールに近づくと後方から他馬が進出してくるので、スパートは自分の思い通りにならないことも多いが。弥生賞のタイトルホルダーなどは、このペースメイクの極みだろう。

また、これは別の記事で書いたが、早いタイム決着が得意な馬や遅いタイム決着が得意な馬がおり、例えば2020年セントライト記念のバビットは、遅いタイム決着が得意なため先頭に立ちスローの展開に落とすことで勝てた。勝ちタイム2:15.0というのはここ10年でも抜けて遅いタイムだ。ただし、この遅いタイム決着(いわゆる スローペース=前半が遅い)の時は余力を残しているためゴールよりかなり前からのロングスパート戦になることが多い。その結果、本当はスローペースなのだが、前半3ハロンと後半3ハロンのタイム差が少なく"スローペース"とは言われないことがあるのだが、どう考えてもスローペースである。これも先ほどの別記事で書いてある。

逆にこのようなロングスパート戦では弱いが早いタイム決着が得意な馬もおり、このような馬は自分でハイペースを作り出すのが理想だ。よく「スローペースは逃げ・先行が有利」と言われるが、このような馬にとっては全く有利ではない。
たた、このような馬に乗っているジョッキーが、なぜ先頭の馬にスローで落とされた時にペースを上げていかないかは分からない。(後方にいる馬がスローに落とされるのが嫌で前に進出していくのが、いわゆる捲りだ。)

ということは、逃げ馬は「捲り」に合うと基本的に脆いのだ。自分のペースでレースを作れないことに加え、休憩区間を作ることが難しくなる。捲りでなくても執拗なマークに合うとこれも厳しく、地方競馬になってしまうが先日の戸塚記念(キャッスルトップがギャルダルの執拗なマークに合い潰される)や、帝王賞でダノンファラオの執拗なマークに合ったカジノフォンテンなどが上げられる。(つまり、このようなマークで負けた馬は力を出し切ってないので次走買いです!)


そろそろ逃げ馬は長い距離の方が良いと言った理由が分かってきただろうか?
短距離の場合、後ろの馬に邪魔されず走れることなどほぼ無いのだ。結局、高松宮記念のモズスーパーフレアがなぜ勝てたかと言うと、あれは9人気の大穴で全くマークされず楽に逃げられるという短距離らしからぬレースだったからである。

では本題に戻る、1600mと2000mで、後ろから突っつかれずに楽に走れるのはどっちだろう?
もちろん後者だろう。
穴の逃げ馬を狙うなら、短距離より中長距離をおすすめする。
(ただし内枠×先行馬の場合は)



余談だが、クィーンスプマンテやビートブラックのような明らかに力の足りない馬が勝つ大波乱が起きるのも距離が長い時だけだ(とまで言い切ると嘘で、異常なトラックバイアスの時もある※)。あれは後方にいた騎手のミス(離れた3番手にいた騎手の責任が大きいことも多い)でしか起こりえない。金鯱賞のギベオンやジャパンダートダービーのキャッスルトップも、明らかに力が足りないとまでは言わないが少し似ている。
ダイタクヤマトがいるだろ!と言う人はクィーンスプマンテやテイエムプリキュアやビートブラックと、ダイタクヤマトのその後の成績を見てください。ダイタクヤマトは力足りてます。


※芝というのはとにかく異常なほどバイアスがかかりやすい。新潟千直の外枠有利ぶりが分かりやすいが、同じくらい逃げ有利/差し有利/内枠・外枠有利になることがある。2020年夏のアユツリオヤジやラブカンプーの激走などはこの芝のせいで起こった。


〈おまけクイズ〉



では過去10年のスプリンターズSで逃げて先頭に立った馬が勝ったのは何回でしょう?



…答えはゼロ!もしくは1回。
2010年のスプリンターズSではウルトラファンタジーが逃げて勝っていますが、この馬に関しては少し特殊です。レース映像を見て欲しいのですが、最初に押して先頭に出した後、一瞬後方からのローレルゲレイロに抜かれます。そう、この馬の勝因は無理に先頭を維持しようとせず「自分のペースで走っていたこと」。黎海栄騎手の好騎乗だったわけです。


次に、過去10年の高松宮記念で逃げて先頭に立ち、勝った馬は何頭?




はい、これも1頭だけ。記憶に新しい2020高松宮記念のモズスーパーフレアです。
知ってる方も多いと思いますが、1着入線したのはクリノガウディーだったものの、進路妨害により4着に降着したという特殊レース。


別に短距離は逃げ有利じゃないんですね。



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