冬が来る
北風が、家々の戸を荒々しく打ち鳴らした。窓ががたがた震え、冷たい息吹がわずかな隙間から部屋に忍び込む。
祖母に抱かれた少年の頬には赤みが差している。ぶるりと肩を震わせた彼の、その柔らかな絹糸のような茶色の髪を、しわが刻まれ、節くれだった手が撫ぜた。
「寒いかい。そうさね、ここんとこ、急に寒くなったからね」
少年はもぞもぞと身体を動かし、囲炉裏の火に手をかざした。
「お日様もあんまり照らなくなった。ぼくたちは死んじゃうの?」
「いいや、死なないさ」
何枚もの古びたショールにくるまれた婆は、そう言いながら、炉の灰をかいて火を大きくする。
「今年も女王がやってきたんだよ。冬の女王がね」
「女王?」
頭をめぐらせて見上げた少年の、青い目をのぞきこんで、婆はしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして笑った。
「そうさ。ほうら、お前にも聞こえるだろう?」
しいっと婆は口元に人差し指を立てた。少年はそっと目を閉じて、耳をすませる。
それは、家が寒さに震える外から聞こえてきた。
「女王だ! 女王がいらっしゃるぞ!」
北からの使者が告げるそばから、道路際のたんぽぽも、空を悠然と泳ぐ綿雲も、風に乗って進む鳶も、みな残らず歓喜の声を上げた。
秋の王女が微笑んで膝を曲げる。
「さあ!」
王女はみなに呼びかける。しゃらしゃらと紅葉が舞い落ちた。
「女王を迎える宴の用意を!」
雷鳴が轟き、知らせに森の木々たちはざわめいた。
「宴を! 女王がやってくる!」
「歓迎の宴を! 冬の女王の、お出ましだ!」
雲が空を覆い、ばらばらと雨が落ちたかと思えば、湖に太陽が照り映える。
次なる使者が雪娘たちを引き連れてきた。
「我らが女王のお通りだ!」
娘達はみぞれを降らせ、狼達の吠え声は吹雪となる。
秋の王女は跪いた。
真白いマントをはためかせ、冬の女王がやってくる。
「お待ちしておりました」
女王はそっと、王女の頬を撫でた。
「よくやった」
冠が日差しを受けて、きらきらと光った。虹色に反射する、あたたかくも冷たい結晶。
「さあお前達! これから忙しくなりますよ!」
降り積もるは初雪。
北の大地に、今年も冬がやってきた。