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翼鯨の最期
ラフィアが渾身の力を込めて投げた氷槍は、稲妻を纏い、翼鯨ニアルスに深々と突き刺さった。
ニアルスは尾をばたつかせ、のたうち回る。
右のこめかみから、勢いよく血が吹き出した。先ほど、カイナが短刀で抉った傷である。
巨大な皮膜でできた翼を何度も雲海に叩きつけ、身体を捻り、吼え猛る。数百匹の結晶魚がその腹の下敷きとなって死んだ。
だが、凍れる槍は鯨の腹にしっかりと埋まり、その身を冷熱で灼き続ける。
やがてニアルスは、ゆっくりと、しかし確実に動きを鈍らせ、少しずつ、雲海の中に沈み始めた。
リューン族への激しい憎悪に燃えていた目も、今では虚ろで、誰もが翼鯨の死を悟った。時間の問題だった。
日没とともに、翼鯨ニアルスは死を迎えた。
海面から突き出ていた氷槍に大きな亀裂が入り、砕け、崩壊していく。
レルムの空は、その日、初めて本当の静寂を知った。