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【回想日記】夏の蓼科旅行(後編)
3年前の蓼科高原を回想する旅も、後半戦へ。
前日はトレッキングで元気よく過ごしたので、3日目はのんびり過ごそうと決めていた。歩き回るのも好きだけど、好きな景色に囲まれて何も考えずに過ごす時間はもっと好き。
ゆっくり起きて、ラウンジのテラスへ。朝日を浴びながら高原の空気で深呼吸する。どこかから、低い声をした野鳥のさえずりが聞こえる。
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毎日こんな風に一日のスタートを切れたらいいのにと思いながら、南アルプスの山麓と夏空の境界線に目を馳せる。この景色を眺めてるだけで心は安らぐし視力も回復してくる(気のせい)。
何枚も撮った写真の中で、上の一枚は特にお気に入り。noteのクリエイターページのヘッダーにも使っている。山の際がぼんやり白み、そこから空が高くなるにつれて青が濃くなっていく様子は、夏を象徴してるかのようで。
お昼、少し車で山奥へ行ったところにある蕎麦屋さんを訪れた。
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信州そばをシンプルにざるでいただく。十割そば。流石に3年前だから味の細かいことまでは覚えてないや。でも美味しかった。辛味大根だろうか。薬味に鬼おろしが映ってた。漆のお盆が、うつくしい。
お店は背の高い草木に囲まれていて、木組みの建物が映えていた。テラス席と呼んでしまうとちょっと違う気がするのだけど、濡れ縁ともまた違う。ここなんて呼ぶのが正解なんだろう。昨夜の酒器も然り、雰囲気づくりはほんと食をゆたかにするなあと思う。
お腹も心も満たされて、向かった先はここ。御射鹿池(みしゃかいけ)。予測変換で「身社会毛」って出してきたIMEはどんなに謝っても許さない。
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蓼科山麓の奥地にひっそり佇むこの池は、東山魁夷の名画「緑響く」の舞台としても有名。白樺並木が鏡のように湖面に映る様子はまさに静謐さそのもので、時間が止まったかのような錯覚に陥ってしまう。
この日は午後から陽が陰ってきたこともあって、より神秘的な空気が立ち込めていた。きなこも妻のバッグからもそもそ出てくた。柵の上から湖面を眺めたいと(妻が)言うので、座らせてあげた。その後ろ姿をパチリ。
ここは原田マハさんの小説『生きるぼくら』の舞台にもなっていて、物語を重ねるとまた違う味わいのある場所になること請け合い。とても素敵な場所なので、蓼科にお立ち寄りの際はぜひ。
ここまで書いて気づいた。3日目はのんびりとか言っておきながら、割と移動してる。お蕎麦屋も御射鹿池もそんな離れてはいなかったから、近くを散策してるぐらいの気分だった。
ホテルのそばに戻って、庭のテラスに腰掛けながら妻と読書。ようやくゆっくりした時間を過ごす。何読んでたかは忘れたなあ。それぐらいにはリラックスしてたということだと思う。マイナスイオンマイナスイオン。
夕飯も、そばにあった信州料理のお店で。たしか、鹿肉の季節鍋とわかさぎの天ぷら。美味しそう(自分が食べたくせに)。
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写真に写ってる「七笑」は長野の地酒で、一合瓶(180ml)で提供してもらった。ちょっとだけってのが、いいよね。純米酒の旨味が、あつあつになった鹿肉の野趣あふれる味をぐぐっと高めてくれる。真夏だったけど、高原の夜は涼しいからお鍋でも大満足だった。
ほろ酔いの夜が明けたら、あっという間に最終日。惜しむように蓼科の山麓を下りて、諏訪湖ICから中央道に乗った。
立ち寄ったのは、山梨県北斗市の清里。こちらも高原として有名な場所だけど、また山の上に行って散策する元気はなかったから近くをドライブした。途中、稲穂アート(田んぼアート)をしているところがあった。最終日も天気が良く、伸びやかな空色と稲穂の明るい緑がきれいだった。
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この旅行最後の食事は、古民家を改装したカフェでのお昼ご飯。事前に調べていたわけでもなく、ふらふらしてたらたどり着いた。
内装はこんな感じ。
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欄間の下で古民家の情緒を感じるか、お店の名前のとおり縁側を楽しむか迷って、後者を選んだ。縁側で、冷や汁に始まるおばんざい定食を二人で注文する。庭から吹いてくる風が心地よいから、暑いけど、暑くない。運ばれてきたご飯は、どれもおいしい。なんか食べてばっかだな。
書きながら調べてたら知ったのだけど、この店、入口に山羊がいたらしい。noteを始めてから山羊は特別な動物というか人だと知ってしまい、どうしてもスルーできなくなった。今度行くときはお目にかかりたい。
食後、縁側の扇風機にあたりながらゆっくりして、帰路に就いた。例年お決まりのコースで、談合坂SAで休憩。高原を離れるほどに夏の空気は密度を増していく。それは、旅の終わりが近づいている知らせだった。
--*--
初めての試みだった回想日記を終えました。この年の蓼科も、変わらず良かったなあとしみじみ。3年前のことでも、写真を見返せば割と思えているもんだという発見もあった。
2019年は都合がつかず蓼科には行けなくて、去年はもちろん旅行の予定すら立てられなかった。今年も、難しいだろうな。
そう思うほどに、こうして言葉を紡ぐことの意味を実感する。
日常のワンシーンを切り取った写真たち。そこでの時間は止まってしまっているけど、言葉を添えることで時計の針は再び動き出す。
もっと書ける回想、書きたい回想がたくさんある。思い出は、いつでも鮮やかにできるのだ。