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小説:おっきなヴィランときっかいな姫 1

夢旅チロルがお送りする
パルデア・アカデミー・ヒーロー 第2作目


〘 ちっちゃなヒーロー・ナッツ 第2話

おっきなヴィランときっかいな姫  〙






『……本日は良い雲がパルデアを覆うでしょう』

 天気予報の映像を指して、クラスメイトが首を傾げる。

「これどういうこと?」

彼は食堂出て少し先の、窓の向こうの青空を指差した。白い雲は朝日を受けてきらきら光っている。まるで宝石の粉をまぶしたみたいに。

「あれかぁ! “たからぐも”だね。『大穴』から出てくる雲なんだって! 財宝が眠るってロマンある穴から綺麗な雲が出てくるわけだから、昔からこの雲の日は、いいことあるよー!って言われてるの!」
「へ、へえ〜……」

彼は少し目を白黒させながら、抱っこした鉄色のニャースと顔を合わせた。「その内慣れるよ!」とわたしは朝食後の散歩としゃれこむべく、足を早めた。


 おっと、自己紹介が遅れました。
わたし、チャンプルタウン出身のリト。

世界的にも自然豊かなパルデア地方、の世界有数のアカデミーに通う一般女子、夢を叶えるため日進月歩!

「ぽぐるーぅぅぅ…ぷっ」

 こっちの肩に大きなヨロイを着たちっちゃな人型ポケモンは、わたしのパートナー、グレンアルマのナッツ! みんなのヒーローを目指すほのおのせんしポケモン、生まれつきの体の弱さにも負けずがんばる私の幼なじみ!

「うげー……」

 で、朝の日差しに負けてる黒紫のトゲっぽくて丸っこいゴーストポケモンは、ゲンガー。前に野生から、私の家族になった。元々わたしたちを襲ったのは、共通のヒミツだ。





   ☆ 前回のあらすじ ☆


 パルデア地方、チャンプルタウンで生まれ育った少女『リト』。彼女は小さい幼い頃、ハイキングの時に体が半分ほどの小ささの“カルボウ”を拾い、『ナッツ』と名付けて世話し始める。
ちっちゃな「ヒーロー」を目指すナッツは、とてもバトルが強いポケモンだったがしかし、補いようのない虚弱体質だった。
 子供のワガママと我慢し続けていた両親も我慢ならず、ついに「あずかりや」にナッツを連れて行くことに決める。寸前で止めたものの、生死不明になったナッツ。

リトはすっかり投げやりな性格になってしまったが…。

 12歳でアカデミーに通うことになり、初めて一人で遠出したリトは道中、強力な野生ポケモンに襲われてしまう。
そこに現れたのが、“グレンアルマ”に進化したナッツだった!
進化してもリトより背が低く、まだ体は弱いものの、立派な力を得たナッツは一躍テーブルシティのヒーローに。そしてくだんの野生ポケモン“ゲンガー”も一緒に、

 心機一転始まった、リトたちのアカデミー生活はいかに…!?





「━━ポッポウ?」

 ふと、ナッツが足を止めた。頭の炎が桃色に強く光り輝く時は、サイコパワーで何かを察知している。つまり…「どうしたの? 何か起きてるの、ナッツ?」…ナッツが助けに向かうべき、困りごとが。
キョロキョロして、私を見上げて炎のまつ毛をパチパチさせる。ぐいっと私の背中の向こうを指(ほぼ手のひら)差した。

「……わかった」

私は口を固く結ぶと、同じくナッツの首元のヒモを固く結び直した。ネクタイのようにぶら下がるのは、誰かの助けが必要なポケモンの『プラスマーク』。

「誰かに助けてもらうんだよ」
「グルルマゥ」

 互いに頷き合って。
 両の手をパンッと叩き合って。


「ポウ、クルゥ、グルマ!!」
 ジャブ、フレア、サマーソルト、 ヒーローナッツ、出撃!!


パァンと足元をニトロチャージに爆発させて駆け出した。「がんばれー!」と我が友達の声援を背に、自分も彼を追う。
 ━━曲がり角、開けっぱなしの窓に、わずかな焦げつき。よたよた歩きのゲンガーの短い腕を引っ張って、3階から見下ろした。
……騒ぎはまだ本格的になっていない。けど、『光の壁』のドームが貼られていて、

「……ボッカ!ボッカー!」
「ん、……ゲンガー、起きて」
「えげぇーっ」

ナッツが、ゲンガーを呼ぶ強い声があった。チカラが必要だって。深く考えるのは、あと。勇気と無謀の違いを考えるのも、あと! 「よし!」
私は困り顔のゲンガーを持ち上げて(なぜゴーストポケモンに堂々触れられるかも、あと)、開いた窓に乗っける、短い手をジタバタさせてトゲがピンと突き出る。ゲンガーにぴったり抱きつく。
ナッツが、ちょっとフラついてる…!
私も、ガッと窓のふちに足を引っかけた。深呼吸は一度。


「跳ぶよ!!!」
「んげぇああああぁぁ!?」


 これがアカデミーでの、グレンアルマ・ヒーロー・ナッツを大きく知らしめる、
いや、このゲンガーの物語になることは、私はまだ知らなかったのである━━!




「━━……ギリセーフ」とんっ、「ナッツ、ゲンガー連れてきたよ!」「う、うえ〜〜……」

 普通の家の2倍はある“3階”。
うん、ちょっと足首が痛いな! 私もしょっちゅう無茶に跳ぶ。ゴース族にそなわる“ふゆう”能力をズルして、だ。
すっかり縦にツン出たゲンガーのツノから手をはなして、一歩踏み出した私の足は「べちゃっ」て感覚を踏んで「うえ!?」笑顔を溶解された。

「なにこれ!! ヘドロえき!?」

 ……ヒーローの助手たるもの、状況もすばやく理解しなきゃいけない!
まず、『味方を特殊攻撃から守る』『光の壁』が逆向き…つまりドームの外に出ないよう貼られている。でもその割には、中でポケモンが暴れてるようには見えない。
いるのは…ただでさえ小さいナッツより、小さな、毒タイプのポケモン…“ひとがた”ポケモン?金色のヨロイで隠れて見えないな…。

「ぽっぽう! ぷう、くうくう、ぼっかー!」
「え、げえ… しゅげえ〜……」

集まってきた人たちを見回す。様子のおかしい人はいない? 野生のポケモンじゃなくて、人が原因のポケモン騒ぎっていうのも時々ある。“やじうま”以外の人はいない?
 ━━パアン、と大きな音がして、私含め人たちがビウクッと反応する。

「ルルルル……!」
「ナッ━━」

上げた声は、途切れる。振り返ったナッツが膝をついていた。光の壁をすり抜けてしまった毒液に、またみんなが感嘆の声を上げてザワつく。ナッツは一度ぶわっと頭の炎を膨らませ、毒液を拭い、目を優しく細め、ポケモンを撫で続けていた。
ナッツが、「くる」私たちの……いや、影の中を見た。そして私も…ちがうものを捉えていた。時間がない。ナッツも…苦しそうにしてる。

「ゲンガー、助けてあげて。お願い!」

声をあげて、人たちの方へ…距離を取った。
ずるっとゲンガーが影から這い出て、よたよたナッツの方へ向かう。傍からはトレーナーが避難したように見えるだろう。私は私のなすべきことへ意識を向ける。
 標的は数歩先…人ごみの中では大きな数歩の先を、後ずさる。

 …………久しぶりにやるか…………。

「 (チャンプルタウンガキ大将必修項目━━!) 」

私はこちらの動きに気付かない姉妹の後ろで低く腰を落とし、深く息を腹に込める。
ゆっくり伸ばした腕から拳に力がみなぎるのをイメージする(※イメージ)。そして一瞬腕を引っ込め、その場に取り残された波動(※イメージ)を思いきり━━

「秘伝! テツノカイナ!!」
パァン、と私の張り手がお姉さんをもろしたたかに打った。

「きゃあ!!」と彼女はよろめき、そのまま膝をつく、妹ちゃんの方も背面取りを食らったように今私に気付いた様子…!

「いたい!いたい!!急に何!?めっちゃ響く!!」
「当たり前よ、これはポケモンすら時々まひ状態にする技」
「なにそれ!? こわ!!」
「私はゼロゲート秘密警備隊エージェント!!治安を乱す者は即座に鎮圧する!!」
「なに言ってんの!? こわっ!!!」

私の後ろで大人のお兄さんが、「アレまだ続いてたんだ…」と呟くのが聞こえた。

「……この“トラブル”、あなたたちの仕業だよね?さっきから、向かい合ってケンカしてた。面白そうとか怖いってヤジウマ顔じゃない。先生に知らせにも行かず、逃げもせず、この場に居続けて怒って喧嘩してるって変。責任押し付けあってる、とか?」
「な、な、なんのこと……」
「そーよ!お姉ちゃんがアタシのせいだって……!」

 ━━墓穴。「バカ!」と叫んだお姉さんもろとも取り囲まれた輪を抜けて、ナッツの方へ向かう。

「ゲウゥゥゥ……」「キリリリ……!!」
「ナッツ、ゲンガー、だいじょうぶ……!?」

 ひとがたポケモンの甲高い声。おびえ、いかり、くるしみ……。なにか、既視感だ。なんだろう。
ゲンガーは大きな半月型の目を妖しく光らせて、踏ん張っていた。『さいみんじゅつ』だ。ナッツは、とにかくちっちゃな子を落ち着かせたいらしい。でも「キリキリ」の鳴き声はまだ続いていて、光の壁は割れかかっている。爛々とポケモンの目が光っている。

「…………ゼエッ! ゼェ、ゼェ、ゲゲェーッ……」

 淡い紫のオーラが、ゲンガーから途切れる。べたっ、と短い手をついて、

「……ぷ、ぅ!」 ぱんっ!!

 ドームが……!!

「ナッツ!! ムリしないで!!」

あの二人は聞き耳立てる限り捕まってるみたいだけど… ナッツはともかく、ゲンガーまでバテたら…
私だって、毒液の臭いに目を回しそうだ。こっちを見上げるナッツが訴えかける、くやしいって。息絶えだえになりながら威嚇を続ける、そのポケモンが、

「キリリリ……ゲボッ!」

……毒液。を、大量に口から、吐き出した。ゲンガーがとっさに覆いかぶさる。咳が続く。どうしよう、誰に助けを…

「ペルシアン、さいみんじゅつ!」「ピニャァーゴ!」
ふわっ、 ってピンクの波動と、 耳をキンッと痛める、 音のない波動、 くたん、とポケモンが力を失う。

 少し先に聞き覚えのある男の人の声。くたびれた毛並みの、しかし気品ある足取りの四つ足のポケモンが毒沼を抜き足でナッツたちに歩み寄る。

「……やあ、僕はゼロゲート秘密警備隊の、元撹乱部隊隊長さ」

気恥ずかしそうに言う同じアカデミーの制服の男の人は、私より一回り以上年齢差があるように見えた。
片眼鏡のペルシアンがその人の足元に絡みつく。頭の玉が鈍く輝く。私が目も口もレアコイルになっていると、彼は人溜まりに声をかけた。

「校長室? 職員室? それとも保健室かい? お嬢さん、その子たちはポケモンセンターでいいかな?」
「えーっと…… まず職員室に連れて行きますねー! 二人とも容疑を肯定しましたー!」

 ……勘違いじゃなくてよかった。
私は苦しそうに眠るポケモンを見下ろす。頭の中のポケモン図鑑を…… ……この子は、キルリア? どくタイプに、なんの縁もないはず……。

「同年代同士で解決しようって思ったのかい? その努力は認めるけど、無理だと感じたら意地を張らずに僕らを頼ってほしいな。大人の方が情けなくなっちゃうよ」

ペルシアンの頭を撫でながら、男の人は私にほほえみかけた。
ナッツのプラスマークが揺れる。…ナッツの心得は、私の心得でもあるのに。恥ずかしくて、顔が赤くなる。

「さあ、ペルシアン、彼らを助けてあげよう。ええ?嫌かい?もうトシなんだから汚れたってそんなに気を使わなくてもイタタアイタタ」

 困り顔の男の人は自分のポケモンと冗談みたいなやり取りをしながら、腰を落として、そっと私に囁いた。

「あの二人、ポケモンを“買った”みたいなんだ」




「お預かりしたポケモンはだいたい元気になりましたよ」
「だいたい」
「嘘をつくわけにもいきませんので」
「いつもすみません……」
「今回は別件もありますからね。色違い、テラスタイプ違いのポケモン、の売買、アカデミー生徒が購入、となると動く警察が違うでしょうから。ボールはその姉妹さんからもらうしかありませんね…しばらく眠っていると思いますので」

 ペルシアンを連れたお兄さんは、深夜から朝帰りということで名刺をくれて帰っていった。
 で、ここ、ヒーロー活動の後にいつもお世話になっているポケセン。このシンラツなジョーイさんは、以前お世話になった人とは別の方である。制服や髪型とかが決まってるからそっくり…に見えるのかと思いきや、あの人のお姉さんだった。
私はボールと、キルリアを預かる。おかっぱ頭にミニスカートのひとがたポケモンは、真っ白な肌と、細い腕と足そして頭の角が人との違いを表している。キルリアは、角で人の感情をキャッチして、シンクロして、サイコパワーに変える。あんなに興奮していたのは、そのせいだ。

「あの……テラスタイプ違い、というのは……?」

 色違いはわかる。私の知るキルリアは緑の髪だけど、この子はちがう。

「━━そもそもテラバーサクをご存知ですか?あ、知りませんよね、滅多にありませんから」
「知りませんけど、なんか引っかかる言い方なんですけど…」

 テラスタル。
 この地方で起きる、ポケモンがチカラを宝石のようにまとう現象。
人間がポケモンを安定して『テラスタル』させられるようになったのはここ10年くらいの話らしくて、昔はポケモンの暴走とも言われていたらしい。というか私のゲンガーが『野生のテラスタルポケモン』。

「まずテラスタイプ違い、というのは、そのポケモンが本来持ち得ないタイプでテラスタルできる素質がある、ということです。アカデミー生徒なら半分ほどは見覚えがあると思っていましたが」
「半分ほど」

ぽん、と思い出す。
 そうだ。俗に『フカマル先輩』と呼ばれるドラゴン・じめんタイプのあの子はテラスタルの力で『こおりタイプ』に変化できる。頭にタイプを模したような冠がつくのだ。
突拍子あって顔を上げた私に対し、ジョーイさんはだるそうに机に肘をついている。頷く代わりのようにまばたきした後、再度口を開く。

「苦手なことってありますよね?」
「はい?」
「テラバーサクというのは、このテラスタイプ違いによって起きる発作やかんしゃくのようなものです」
「はい……?」

左右にブン振れた話に、私は二の句を告げずにいる。ジョーイさんは回復装置の裏からガチャガチャガラガラと音を立てて機械を取り出し、


 ━━ラルトス族は、基本的にどくタイプの技を覚えない。だから自分のタイプをどくに変えることにメリットはほぼない。
そしてエスパー・フェアリータイプ(エルレイドを除く)。フェアリーポケモンは、どくの攻撃をこうかばつぐんで受けてしまう。フェアリー技もどくタイプには効果いまひとつだ。
そんな矛盾した内在するタイプ傾向に、成長したポケモンや適応したポケモンなら耐えることができるものの、幼いポケモンにとっては心身を蝕む要因になってしまう。
だから苦しみのあまり暴れたり倒れたりしてしまうことがある。周りにテラスタルの力を撒き散らして。

 それがテラバーサク━━。




  → Go Fire & Go Fight WIN!


#ポケモンSV #パルデア #二次創作 #グレンアルマ #ゲンガー  ♯再掲


★リト (女) (中学生並) (パルデア)

 チャンプルタウン出身の、たぶん一般的なアカデミー生。
バトル学、生物学、歴史、家庭科、課外授業などが好き。成績が伴っているかは出席数とは別。運動できる方。社交的だが、ある意味孤独。パンより米。料理はスイーツ。
ニホンちほー三世。一般より上級家庭な実家の方針と性格が合わず、幼くしてグレて(諦観して)いたことがある。とはいえ、きょうだい揃って正義感の強い性格なのは協調している。
チャンプルタウンの伝統的クソガキ集団『ゼロゲート秘密警備隊』に所属していたことがあり、謎の体術を習得している。子供が開発したにしてはろくでもない。
 手持ちはグレンアルマ/ナッツ、ゲンガー
家族構成は父母に兄

 アカデミーからテーブルシティにかけて『ヒーロー・ナッツ』の活動をしている。人助け、救助、ショーなど。活動を始めたのはナッツの方で、後からすずしろが正式にリーグから依頼を受けている。ゲンガーは裏方サポートや、ヒーローショーの悪役などを務める。
そのため時々『監督』『リーダー』『ヒロイン(?)』『彼女(???)』と呼ばれたりする。
ヒーロー業は苦労が多く、裏で準備や作戦を練るなども大変で、理解されないことも多い。本当は女の子らしく学生らしい生活をみんなとしたい。

 「『プラスマーク』ポケモン・サポーター」

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