雨宮蓮へのインストールに失敗しました! 31-Ⅱ
【 雨宮蓮へのインストールに失敗しました! 】
#夢小説 ♯ペルソナ5ロイヤル ♯女主 ♯成り代わり
夢主は周回プレイ記憶者です。
\前回までのあらすじァ!!/
「そういや明日の学校だけどさ、井の頭公園に集合だったよな」
「清掃活動だっけ」
「そうそう」
ぴぴぴぴ。
渋谷駅・駅前広場。
日曜夜は寅さんに会いに行くと決めている。
原宿で買わされた服はさすがにそっと棚に閉まって、人前に出るにはしっかりした格好に着替え直し、来ていた。
プラカードを掲げ、吉田寅之助先生の声に耳を傾ける…。
「━━大人世代が作った社会問題を子供世代に押し付けること…それは間違っていると、私は思います! 今すぐは無理でも、少しずつでも変えていかなければ……!」
俺との『取引』の際に『自分を信じてみよう』と話していた吉田先生の語りは、朗々としたより良いものになっていると感じた。
………… …………。
「演説、参考になったかな」
台を降りた吉田先生が、愛嬌のある顔で笑ってくれる。顔には少し汗が滲んでいるが、達成感を思わせる。
「たとえ聴衆が多くても少なくても、つねに一対一の気持ちで伝えなければいけないよ。…そうだ、この間は聞き忘れたが、君はなぜ、政治家を目指しているんだ?」
先生の真似をして、買った小さなノートにメモを書き込んでいた俺は顔を上げる。
「世の中を変えたいんです」
政治家如何、はともかく、その気持ちに嘘偽りはない。堂々と笑って答えられる。
「ちょっと漠然としているね…」
「そ、そうかもしれませんね」
笑った顔が、そのまま照れ笑いになる。
「まあ、具体的なことは。今後、詰めていくのかもしれないね。ついでに、もうひとついいかな? どんな政治家になりたい?」
「それは、信念のあるような」
「うん、その考えを忘れないでほしい。大事なのは、中身だけどね」
優しく話してくれていた吉田先生が、「少し、アドバイスさせてくれ」と真剣な面持ちで丁寧に言う。
「政治を志すなら、中心になる主張が必要だよ。何を成し遂げたいのか…。これは演説の基本でもある。覚えておいてくれ」
「ためになります」
…素早く書き記す。
「よろしい。ちなみに、私のモットーは…わかってもらうまで、諦めない…! 粘り強く、わかりやすく。何事も、まずは伝わらなければ意味がない。主張を明確にして、あきらめずに伝える。交渉術の基本中の基本だ」
深く頷く。今の言葉に、スマートさとは違う骨の太い格好よさを感じた。
「すごく、いいと思います。粘り強く、わかりやすく、それが吉田先生のやり方なんですね」
「はは、なんだか自分も初心に帰れたような気がするよ」
聞いてくれてありがとう、こちらこそありがとうございます、と頭を下げ合う。この人は遥かに年下の自分にも、敬意を払ってくれていると感じる。
この人の期待に応えたいし、俺と関わって、良い方にことが動いてほしい。
「━━演説は終わったんなら、さっさと帰れよ。このダメ寅!」
ビクッ、と吉田先生が強張る。
「ダメ寅…!」
声を上げた男の方を振り返ろうとしたが…先日の、武見先生とのやり取りを思い出して、抑えた。それに、この人が何より自身に寄って争いが起こることを望まないだろう。
「ダメ寅…か…。ああ、すまない。今日はもういいよ。お疲れ様、また、よろしく頼むよ」
「…はい。失礼致します」
少しだけ吉田先生を心配したが、彼の顔が心配いらない、心労をかけてほしくないと伝えている。
俺は姿勢を整え、深々と頭を下げた。
ピピピピ。
『やあ、今日はありがとう』
『吉田先生』
と、呼ぶと、彼は照れ臭そうに遠慮するのだが、呼び続けている。
『君には偉そうに高説を垂れておきながら、不甲斐ない姿を見せてしまったね。申し訳ない…。だが、私もあきらめの悪い男でね。この際、今日みたいなところも反面教師にして私の言動全てが糧になれば…、…と考えているんだが、どうだったかな? 何か掴めたかい?』
「そうですね…。意識が変わった気がします」
『おやおや、そこまで言ってもらえるとはね。いずれにせよ、君の力になれたら嬉しいよ。これからも、私から盗めるものがあればどんどん盗んでいってくれ。では、次回もよろしく頼むよ。それでは、また』
吉田先生との電話が終わる。
さて、明日は少し特殊な日だ…。学校への準備は、工夫しなければ。
5月30日
「おはよう……なんで朝から全身真っ赤なんだ」
「学校が清掃活動を。井の頭公園でするそうで、着替える場所がなさそうで仕方なく」
「ハァー……そっちの学校もがんばっていらっしゃるみてえだな」
と、言いつつ、外に出られる部屋着の長袖長ズボンは仕込んである。さすがにずっと赤色は恥ずかしい。
「カレー」
「はい、いただきます」
「昼は?」
「炊き出しだそうです」
うん、毎日おいしい。
━━渋谷駅でいったん降りる。一度駅前広場を経由する。
電車の置いてある方へ、足を運ぶ。モルガナが「どうした?」と言うが、そのまま。
そこに彼女はいた。
「すみません、急いでるので」
「君、秀尽の子だろう? 暴力事件以来で大変みたいだねぇ。よかったら相談乗るよ?」
「お気遣いどうもです。けど、本当に急いでるので失礼しますね」
大きなリボンで髪を上げた、毅然とした態度の、かわいらしい少女。それに朝っぱらから話しかける中年男に、周りがひそひそと噂話しながら距離を取っている。
━━ガッ……!
「……っ!」
「遠慮しなくていいんだってぇ…」
男が、彼女の手首を掴んだ!
引き下がりかけるが、強く引き戻され…キョロキョロ周りを見るも、人が散っていく……
「━━何やってるんですか」
グイッ、 と、 男の手首を掴みに行っていた。
「あ……」
「彼女、嫌がってますよ」
キッ、と眼鏡の奥で男を睨む。
「人聞き悪いな、ただの親切だよ」
「…………」
男の手首を引く。「うっ!」と呟いた拍子に指がほどかれ、少女は慌てて…俺の後ろに隠れる。彼女は自分の手首を気にしている様子である。
「なんなんだよ…大したこともないのに、お高く止まりやがって…!」
……男が去っていく。こっそり舌打ちを送ってやった。
「……、ひゃっ」
しがみついていた彼女が、ぱっ、と離れる。
「すみません! 本当に、ありがとうございました!」
綺麗なお辞儀。
「大丈夫か」
「はい、もう大丈夫です! ちょっと怖かったですけど… ……、」
良かった。ポケットに手を突っ込み直す。どこか、良くない顔をしているが。
「あ、あの! ひとつ…お聞きしてもいいですか? その…どうして助けてくださったんですか?」
「見て見ぬふりができない性分なんだ」
おかしいだろ。
彼女にほほえみかけてやる。「なる、ほど…」と彼女からは煮え切らない返事が返ってくる。
「あ、変なこと聞いてしまってすみません。先輩も清掃活動ですよね? ……せいそう、かつどう?」
少女がカバンからスマホを取り出す。「もうこんな時間!」と叫んだ。
「すみません、全然お礼もできてないのに…! 私、ジャージ学校に忘れたんで、取ってから行きますから! また後で、先輩さえよければお話させてください! ……失礼します!」
やっと彼女が、警戒心… “色々な”警戒心を解いたらしい笑顔を見せてくれた。
井の頭公園…。
杏と竜司が仲良く話し合っているところに、「おはよう」と声をかけた。
「よぉ、遅かったな」
「もしかして家からジャージ?」
「もちろん」
「いいなぁ、男子は」
ぷう、と杏がふくれる。
「フツーじゃね? つかお前、その格好でやんの?」
「まさか、ジャージ持ってきてるよ。トイレで着替えようと思ってたけど、いま、すごい行列になってて……」
「そういうことか。女子はたいへんだな」
竜司が申し訳なさそうな顔をする。
「……イヤミなくらい、いい天気だねー」
「自然に入ってきすぎだろ」
と、突っ込まれた新たな参入者は三島だ。
「熱狂的に掃除好きなヤツが、テルテル坊主作ってお願いしたとか?」
「やあ。みんな、おはよう」
自然に入ってきたな丸喜拓人。
「あれ? 先生も清掃活動ですか?」
「そうだよ」
「その格好で…?」
再放送。
今の丸喜先生はいつもと同じ白衣姿だ。
「ああ、僕は違う係を…」
「 …いた、丸喜先生〜」
「モテる男は違いますね」
「ええ!? そんなことないよ雨宮く…えっと…」
「そろそろ仕込み始めますよ」
速攻でからかって動揺した丸喜先生が、ゴホン!と咳払いし、「仕込み?」と呟いた杏の問いに答える。
「実は僕、調理係なんだ。腕を振るうから楽しみにしててよ。じゃあね」
そのまま、呼びに来た女子生徒と歩いていく…。
「すげえ人気だよ…」
「いずれ怪盗団が追い抜くさ」
「いや、その人気とあの人気は別じゃないか?」
天秤様のジェスチャーをしたところで、……メガホンからの声が響き渡った。
『秀尽学園の皆さん、おはようございます。間もなく清掃活動を開始します。班ごとに決められた区画のゴミを拾っていってください。清掃活動終了後は、昼食の豚汁があります』
新島真生徒会長の声だ。
杏が嬉しそうに顔を綻ばせる。
「豚汁か。その『仕込み』ね」
「ちなみに班の構成は、学校側が適当に決めた男女4人組だ」
「そ、そうか…」
アウトローは辛いなあ(棒読み)
確か…事前にメモをもらっていたっけ。その人たちと集合して、掃除区域に向かう。
『それでは各班に分かれて、清掃活動を始めてください』
「チャチャッと終わらせて、豚汁いただいて帰ろうぜ」
………… …………
「あいつ…いやあの人って、例の転校生…?」 「そうです…」 「それって、色々ヤバすぎるって噂の…」
ふーむ。結局こんなもんか。
ニャア!
「モゴモゴ!(レン! 雑誌落ちてたから拾ってきたぜ)」
「器用だなあ…」
「ぷはっ! それから、あっちにペットボトルと、空き缶! あ、茂みの中にも捨ててあったな。ワガハイじゃないとムリだな、取ってきてやるよ」
「わざわざ働かなくて良かったのに」
「なに言ってるんだ。紳士がこんな活動、参加しないわけないだろ」
「うわ、猫と喋ってる…」 「猫かわいい…」 「超賢くない、あの猫?」
変な噂が生えそうだ。ありがたいが、とりあえずゴミを仕分ける別の袋をもらってこないと…。
……すっかり午後。
『時間です。皆さん、お疲れ様でした。各班の班長は人数分の豚汁を取りに来てください』
班長は俺にそそくさと豚汁を渡し、他のメンツもそそくさとどこかへ散って行った。ちょうどいいところにベンチがある。トスッ、とその場に腰を降ろした。
「おっと……」
思ったより重くてこぼれそうだ。濃厚な味噌と出汁の合わさったにおい、たっぷり注ぎ込まれた具。
「ふふん」
自然、頬が緩む。ルブランでは汁物はほぼ作れないのだ。カレーは汁物にカウントしないし。
「━━あ!」
少女の声。
ジャージに着替えた、芳澤s…かすみ。今朝暴漢に襲われていた、彼女だ。
「やっと会えました。今朝のお礼、ちゃんと言いたくて探してたんです。…あの、他の班の人は……?」
「どっか行ったよ」
「あー…なるほど。…私も似たような感じです」
似たような感じ……。
「良かったら豚汁、一緒に食べませんか?」
「食べようか」
「はい!」
ニコッ、と笑いかける彼女は、本当にかわいらしい。俺も笑い返して、ベンチの空いている方の席をぽんぽんと叩いた。
豚汁を持ってきた彼女が、「いただきます」と口を開く。豚汁は吸い物だっただろうか。バキューム。
「…改めてなんですけど、今朝はありがとうございました。ああいう状況、実際になってみると考えてたよりずっと怖くて…ですので、本当に感謝してます! ありがとうございました!」
ちょっと照れる。「どういたしまして」
「はい! それと、なんですけど…この前は、すみませんでした!」
ベンチの小さなスペースをめいっぱい使った『ごめんなさい』。汁を啜っていた口をはなす。
「この前?」
「前に鴨志田先生とお話しされていた時のです。あなたのこと、関わらない方がいい前歴持ちの…って。他でもクラスの子とかが噂で話しているのを聞いてしまって…」
「なんか、そうらしいな」
「知らないところで噂されてるだけですもんね。勝手な決めつけとか噂とか、嫌なんですよ」
そうか…そう信条に思っているなら、俺の印象に対して噂に流されてしまったのは、確かに申し訳ない気持ちだろうな。
「それに、会ったばかりの私が言うのも変ですけど先輩は噂されてるような人じゃないと思います。先輩が本当に噂通りのことしてたら、話は別ですけどね。なんでしたっけ。強盗、殺人、象牙の密売…?」
思わず吹き出してしまった。話、広がりすぎだろ。高校生の『アウトロー像』が夢見てるのかな。
「無免許運転もやってる」
「ふふ、さすがにそれは冗談だってわかりますよ」
ちょっとモルガナの入ったカバンが揺れる。うん、豚汁おいしい。後でごはん食べようなモルガナ。
「…あれ? とんでもないことに気付いたんですけど、私、まだ自己紹介してなかったです!」
「2年の雨宮蓮だ」
「あ、すみません。先輩の方から…雨宮先輩ですね。遅くなりましたがよろしくお願いします!」
ころころ表情が変わる。かわいい。
「私、1年の芳澤━━」
……ふわっ。 「あ!」
風船が……
彼女が立つ。“飛ぶ”。はしっ━━。
ぽかんとする小さな子の前で彼女は前転加えて受け身を取ると、風船の紐をその子に差し出す。
「間に合った…はい、大事なものは放しちゃダメだよ?」
「な、なんだアイツ…ん? おい」
スポッとモルガナが顔を出した。クイクイと鼻先を向ける先に、生徒手帳が落ちている。
【 芳澤かすみ 】
彼女の名前は、芳澤かすみ……
なんてな!!
“俺”はミーム汚染除去済なんですけどね!!
(後方腕組みネタバレ顔)
…とにかく、芳澤かすみらしい。彼女がとことこと戻ってくる。
「すみません、話の途中で」
「はい、落とし物」
「え? 先にばれちゃいましたね。そうです、私、1年の…芳澤かすみです!」
「すごい動きだったな」
笑って、素直に賞賛の言葉を送る。
「さっきのですよね。私、新体操をやっていて。でも、コツさえ掴めば簡単なんですよ。こう、トントーンって」
「新体操か…なるほどな」カバンの中でモルガナが鳴く。「なあ、あの動き…覚えておいたら役に立つんじゃないか? ちょうど怪盗団も戦力アップが必要だと思ってたんだ」
「…雨宮先輩、どうしました?」
カバンの上からモルガナを揉む俺を、彼女は不思議そうに見る。
「というか…猫いるんですかね? なんか鳴き声が」
「なあ。よし…か…よ……芳澤…ちゃん、さっきの動きを教えてくれないか?」
「芳澤…ちゃ……? !? 雨宮先輩、新体操に興味があるってことですか?」
よ、呼び方が不自然になってしまった。
少し小首を傾げた彼女は、ぱっと驚いた顔をする。そしてぱあっと笑顔になる。
「嬉しい…! 私でよければぜひ! …と、思ったんですけど。もしよければ私からもお願いがあって…いいでしょうか?」
「ん。なに?」
「実は最近、演技の調子があまり良くなくて。色々考えてしまうんです。なので、都合のいい時にちょっと相談に乗ってもらえたらなって…」
「俺でよければ」
「よかった! 技術的な指導というよりも、時々話を聞いていただければなって」
安心した表情の彼女に、いたずらっぽく笑って、
「よし、それで取引成立だ」
「お、押忍! …いや、押忍は言いすぎでした。よろしくお願いします!」
1年生、新体操、特待生。可憐で、表情豊かな、『後輩のヒロイン』。
芳澤かすみ。
【信念】コープの相手だ。
☆★ To be continued!! ★☆