失敗★蓮ストール 26-Ⅲ-if
【 雨宮蓮へのインストールに失敗しました! 】
♯夢小説 ♯ペルソナ5ロイヤル ♯女主 ♯成り代わり ♯微改変✕ ♯オリジナル混合中!
夢主は周回プレイ記憶者です。
\前回までのあらすじァ!!/
「・・・・・」
「…大丈夫か、レン。ずーっとボーッとしてるじゃねえか」
「……まずい、手につかない……」
「明日からワガハイはユースケんちだぞ〜? ……ま、待遇次第じゃ引っ掻き倒して渋谷駅に戻ってきてやるけどな。しっかりしろ、しっかり。素は悪くないとは言え、本番で呆けてたらテスト用紙が真っ赤だぜ〜?」
…………。
7月13日
今日から期末試験である。
のだが……まずい。いつもの時間には寝たのだが、眠りが浅い……!
目を擦りながら、〈早くに渋谷駅で待っている〉という祐介を探す。肩に乗るモルガナが心配そうに鳴いた。彼を預けるための荷物を紙袋に入れ、きょろきょろしていると、「おはよ!」とドンッと肩を叩かれた。
「およ? どうした蓮。寝不足の顔じゃん」
「……祐介見てないか?」
「え? んー…そういえばモナモナ、お泊まりだっけ」
まあこの辺にいれば湧くんじゃね、と敵モンスターみたいな呼ばわり方をして壁に背もたれるので俺もそれに倣ってモルガナを腕に抱く。俺の腫れぼったい目を横目でじっと見てから竜司が「なあ!」と声を上げた。
「さっき聞いたんだけどさ、今度肉フェスあるらしいぜ! なんかもうやべーんだって! ケバブとかステーキがアツい…みたいな!」
「アツアツで?」
「そりゃそう…ってそーじゃなかったらやべーだろ!? ははは、ったく…あぁ〜…肉のことしか考えられねぇ…すげー美味いの食いたい……!」
「へえ〜、ワガハイも視察に向かいたいところだな。オマエ1人で行動させると、危なそうだしな!」
「え、モルガナ一緒に来てくれんの? ありがとー!」
「ち、ち、ちちげーよ!!」
素っ頓狂な方に進んだ話に思わず吹き出しつつ、モルガナの顔をこれでもかと撫でる。というか朝起きてからも撫でてたし、朝食中も膝の上に乗せて撫でてたし、以下略
「蓮ーーー!!」
お、あの大きく手を振っている彼は… 祐介! 彼はトタタタッとすぐに駆けつけてくれる。
「来ているなら来ていると連絡をくれれば良かったのに! ホームを探したぞ」
「そういえば、よく会うのはそこだったな。すまない」
「……祐介、モルガナと俺には挨拶なしかよ?」
「なんだいたのか。竜司、モルガナ、おはよう」
……竜司が機嫌を損ねてしまった。つーんと文字通り唇を尖らせている。意図的に無視したなら叱りようはあるが、完全に意識の外だったのならそれは何とも言い難い。
とりあえずモルガナに、彼の方に行くよう促す。
「ユースケのカバン、すげえ独特のニオイするからな…あんまり入りたくないぜ。さあ、土曜日までの間、ワガハイを丁重にもてなすがいい!」
「何たる光栄」
「マ、マジノリされるとちょっと…その」
よろしくな、と抱っこされたモルガナと祐介を撫でる。竜司も撫でる。
「ついでやめろや、この親子…」
「……なんか、すまない」
謝罪を口にすると、「あーっ」と竜司は思い切り伸びをして、
「じゃ、俺先学校行ってっから! 肉フェスと打ち上げ楽しみにがんばってやるもんねッ!」
と、早足にこの場を去っていく。祐介が首を傾げるので改めて撫でてやる。俺たちの関係性で竜司に心配をかけているのは申し訳ないが、それで祐介に一歩引いてほしくない。
紙袋を渡す。細かい注意事項はメモに書いてある。
「では、任された。蓮も、期末試験がんばってくれ。信じているぞ」
……そうだな。少し眠たいが、自分の地力を信じるとしよう。
信じました。
…帰ったらカレーの材料買おう。
「へえ、モルガナほんとに祐介のところ行ったんだね。大丈夫かな」
「今のところ『問題ある』ってチャット送られてきてないから大丈夫だろ」
「蓮、疲れてない?」
「んー……その内、何とかなる」
と思う。時間が解決する何とやらだ。
「あ、そうだ! 昼から空いてる〜?」
「パフェ食べるとかだったら付き合うぞ。俺は料理の支度があるから…」
「ウグッ……!」
モデルの道を信じ始めた杏に突き刺さる甘味処の誘い。もちろん、一緒に勉強してほしいという意味なのはわかっているが、個人的に今の俺は癒やしを優先したいのだ。申し訳ない。
俺はテストの点数には自信があるし…どっしり構えて向き合っている。…今日の点数は、少し低いかもしれないが。今更切り詰めてじたばたするよりも、今夜の安眠のための自己カウンセリングである。カウンセリング、かぁ。
「……やっぱボーッとしてない?」
「大丈夫、今夜はモルガナのクッションを抱いて寝るッ!」
「それ前にウチにモルガナ来た時にやって引かれたやつじゃん!」
あはは、と杏が吹き出して笑う。
「やっぱモルガナの存在デカいね〜」
「思う思う」
伸びをすると大口を開けての欠伸が出て、少し恥ずかしくて口元を擦る。
「さて、カレー作らないと…」
「ルブランカレー?」
「んー、いや…あえて言うならレンカレー」
「ぷふっ……」
「アマミヤカレーでもいいぞ」
「あ、甘そう……ウフッ」
本当に鍋に水を入れる所からやるのは、今回が初挑戦になる。調理のレシピの基本はルブランカレーだが、間違いなく俺がイチから手掛けたカレーになるのだ。パレスでの効能クソでかそう。
最終目的は恩師のオッサンに食わせることなんですけどね、というのは杏には秘密だ。
ルブラン。
「お帰り。こんくらいあればいいか」
俺が帰るのを見るや否や、新品の圧力鍋が目の前にあった。佐倉さんがカウンターの机の向こう側にドドンと置いている。
「・・・・・?」
「この間知り合いと色々話した時によお…そんくらいさせるなら、専用のやつ買い与えろだと。ネットレビュー、あと料理研究家からも高評価?とかの鍋…らしいぞ」
と、仏頂面の眉をしかめて自分で首を傾げながら話してくれる。
カウンター席に身を乗り出すと、裏に畳まれもしていない鍋の箱が置かれている。俺が帰ったらすぐ出せるようにしていたらしい。
知り合い…ネットレビュー…… ふ……
双葉? 双葉か!?
「ちょ…………説明書見せてください」
「へいへい…、じゃねえ、お前、今日のテストの調子は?」
文字通り前のめりで両手をカウンター向こうに伸ばす俺に、佐倉さんが少し引きながら話題を変える。で、説明書を箱から取り出す。
「今日はちょっと、少し、集中できなかったかもしれません。眠りが浅くて。でも今晩はぐっすり寝て、明日は確実に取りに行きます」
「おめえ表情も声色も変わらねえままクリスマスプレゼント目の前にした子供の目になってるのわかってる?」
「じゅるり」
「チキンはもう作ってねえよ」
つーかカウンター乗んな、と額を手のひらで押し返される。
あうー。
説明書を渡され、学校カバンも膝の上に表紙から読み始める。今年の最新版。機械のわからない老人や子供にも扱いやすいかんたんアナログ設計。
「テスト期間中に、教科書じゃなくて鍋の説明書熟読するやつがあるか…」
後ろで常連のおばあちゃんが笑っている。
容量は何リットルで、カレーやシチューなら…おお、最大8人前。追加の器具を用いて蒸し料理にも…おおおお?
ルブランカレーは、本当に、ただのでかい鍋で作られている。すごいでかい鍋Aにでかい鍋Bで作ったカレーを継ぎ足していくシステムだ。俺が許可されているルブランカレーは、鍋Aと鍋Bから少しもらって小さい鍋Cに自分で買ってきた材料を入れて作るルールだ。
なんで最初から極上カレーなのかって? 知らないなぁ
それにしてもコレなら、カレーだけじゃなくて色んな料理が充実させられそうだ。期間限定メニューの再現とかもしてみるか……?
「一人言漏れてるぞ……」
「え? あ! はいっ!?」
「ネコは友人に預けたんだっけ?」
「はい!!」
そこのでけえ絵くれた奴だよな、と言われて頷く。モルガナは祐介の絵のモデルとして預けられているということになっている。特待生だし、学校も違うから、納得させられる理由だ。
「料理に夢中になりすぎて、勉強おろそかにすんじゃねえぞ。…火使ってる最中に勉強して物焦がすんじゃねえぞ」
「は、はい!!」
「…あと、台所は俺帰ってから使えよ……」
佐倉さんの顔が俺に圧されて疲れているが、とにかく俺と来たら。佐倉さんから早めに期末試験終わりのご褒美をもらえたようで、とても嬉しかったのだ。双葉も、関わっているだろうし…!
「ああもう、鍋はここに置いといてやるから、お前は学校の荷物置いてこい! 勉強でも説明書読むでも何でもしろ!」
よし!
カレーの材料買お!
7月14日
木曜日 ━━ 順調。
材料を全て切り、焼いたり切ったりする。スパイス、ヨーグルトやリンゴなどを混ぜ合わせ、カレースープがひとまず完成。ここから、野菜や肉から出る出汁で味を調整していく。
カレーのコンセプトを決める。やはりオーソドックスで。
材料の煮込みに入る。とろみつけは玉ねぎやジャガイモが溶けるのに期待するが、やはり一晩ではとろみがついたとは言えない。
夏場というのもあって傷ませないように、食器や料理器具はしっかり洗って使う。
祐介から、モルガナを描いたというスケッチの画像が送られてくる。優雅かつ野性的なポージングが魅力的だ。
モルガナの方も不満なさそうだ。が、祐介もモルガナも、互いに同じ布団で寝るのははばかられるらしい。
俺と言えばモルガナが寝るクッションを抱いて寝ている。モナの声がなく静かな間、リンが話し相手になってくれるが、がんばっても『夜更かし』は1時間が限界らしい。
竜司からの勉強妨害チャットが止まらないので真さんに告げ口したら男子怪チャットが始まった。話題は「最近のアニメのエロい女」でリンが寝た後の1時間くらい駄弁ってしまった。で、【俺のスク水って興味ある?】って送ったらしばらく返事がなかったから失言でもしたのかと思ったら、【需要あるかもしれねえ】という言葉を熟考の末送られてきた。祐介的にも見てみたくはあるかもしれない、らしい。
7月15日
金曜日のテストが終わって、教室を出る。
ウーーーーンッ…………!
相変わらずここの教師陣は、トンチキ豆知識のような物をテスト問題に混ぜるのが趣味か伝統らしい。ノートの端にそういうのをメモっておいて良かった。
「……お、お疲れ様〜……」
ビクッ。 !
「……丸喜先生?」
「あ〜…ハハ……、元気〜…? テストの調子、どう……?」
…思わず驚いた反応と共に振り返ってしまったが、下手くそな作り笑いを浮かべる丸喜先生がそこにいた。別にただの丸喜先生なら怖くないのだ。しかし先生の顔からは、申し訳なさが拭えていない。というよりむしろ…探り探りのような。俺に対する引け目を感じている…のか?
「…もしかして、この間の件、気にしてるか?」
「……せいか〜い、アハハ……」
「それならもういい。自分でも驚くほどビビっただけだ。あの時は色々重なりすぎた」
「ごめん! ほんとにごめん!」
……そういえば。
俺たちはちょうどT字路+階段前のど真ん中であるので、後ろからヒソヒソ話が聞こえてくる。要約すると通行の邪魔だ。(※違います)
スッと歩み寄ると、彼とさほど身長差がない。
顔を寄せ、耳を寄せて、そっと囁く。
「……場所変えないか? 先生」
「…………ピェ」
そんなわけで。
階段を降りて、中庭を通れば、保健室に着く。
「あの武見って先生、容赦ないね。すっかり怒られちゃったよ。……でも、君のことをすごく信頼してるんだね。つまり、君の強さみたいな物を」
「強いだろう?」
「はは…僕もそう思うよ。━━でも、時々君のそれは堅固すぎるゆえに、危ないようにも見える。この間の君みたいに、突然壊れそうな危うさも感じる。アキレウスのかかと」
「痛いところを突かれると即死する、か……」
そう言われると、そう。
「って、試験中なのに話に誘っちゃってごめんね。でも、その、君って好成績だし…学校で楽な生活を送ってもらうために、僕と話すような気晴らしも必要かな? みたいな、というか…」
もじもじしてどうした、オッサン。俺は足を止める。彼も足を止める。
「……君と話すと楽しいし、参考になるし、…その、今回は、僕の相談に乗ってほしいん、だ?」
言い切るはずが、最後の発音が変なことになってしまった。それでまた、先生は恥ずかしそうに頭を掻く。
まったく俺には、手に負えないオッサンの知り合いが多い。
「……カウンセラーからの『相談』か。面白そうだ、その話、乗った」
そう答えると、ウソ抜きで彼はぱあっと笑う。
「ありがとう! 悩んでて君のこと探してたんだ、話はすぐだから!」
そして保健室へ。
2人でソファに座る。今日は対面ではない。
それでも少し身震いしたのは、この間の━━「やっぱり」と言いかけた丸喜先生を止める。いいからと腰を落ち着けている間に、彼はお菓子や何やらを用意してくれた。小さなティーポットに、ティーバッグ、りんごの香りがする。ふうー、と丸喜先生は長く息をついた。
「梅雨明けしてから、一気に暑くなったよね。今月から電気代上がるな……」
保健室の中は、心地良い空気が吹いている。先生にとってはこの部屋に残って作業する方が捗りそうだ。だが、残業扱いされたらややこしいだろうし、『カウンセラー』は夏休みの間求められない。
「さっきも言ったけど、今日は僕から相談、いいかな?」
「お金の相談?」
「それはまあ…相談したいけど、今回は違うよ!」
ブンブンと手を振る。彼はすっとお菓子の入った籠を差し出してくれた。お金の相談ネタ擦りすぎだな。
「最近どうも気になることがあって……じゃあ、話すね?」
俺はクッキーをひとつ取って膝の上に乗せ、ソファの背もたれに体を預ける。
…彼は俺に目配せをして、ゆっくり、丁寧な言葉で、話し始めた。
「周囲から何かを『期待されている』子がいるとして…その子は、周囲の期待に応えようと、必死で努力している。もちろん周囲は期待に応えてもらうために、本人の望みとは関係なく、その子を優遇するけど…もしその子が、十分に彼らの期待に応えられなかったとしたら…どうなると思う?」
ふうん……?
『何かを期待されている。』
『その子は期待に応えようとする。』
『周囲は優遇をする。』
『しかし、応えられなかった場合』━━怪盗団のことか!(※違います)
冗談はさておき。
「手のひらを返される、と思う」
「期待が一転して蔑みや憎しみに変わる、って感じかな。……うん、確かにそうなんだ」
…彼の顔は、間違いなくここにいない誰かのことを見て、哀しんでいる。
彼はティーバッグを引き上げ、あらかじめ置いた皿に置くと、2人のティーカップに注ぎ始めた。紅茶の湯気が、ほのかに彼の眼鏡を曇らせる。
「……カウンセラーなんかやってるとね。いつも『この人の心が壊れてしまわないように』って考えるんだけど、これが難しくて。この間の君みたいに…好意と思ってやった行動で、心を乱してしまうことだってある」
「………… …………」
「世界は本当に残酷だよ。どんなに本人が前向きさを手に入れて、努力を惜しまなくても、ほんの少しの出来事で……、そんな出来事に直面するたび、僕はどうしてもカウンセラーって職業に限界を感じてしまうんだよ」
アップルティは俺の前に差し出されたものの、2人とも口をつけない。まず、熱すぎる。
理想と現実…、それに折り合いをつけている。納得している。そんな風に、初日の丸喜は俺に診断を下したっけ。
そんなことはない。━━俺は俺の知らない、『知れない』出来事に直面するたび取り乱すし。━━俺の『知る』物語がいつ明後日の方に曲がるか、怯えている。━━そして『ジョーカー』でも『雨宮蓮』でもない『俺』のせいで、この体が脅かされることを恐れている。
何箇所あるんだ、『アキレウスのかかと』。
それでも、
「それでもがんばれ。その子のこと救いたいんだろ」
「…………!」
☆★ To be continued!! ★☆