失敗★蓮ストール 32-Ⅲ-if
【 雨宮蓮へのインストールに失敗しました! 】
♯夢小説 ♯ペルソナ5ロイヤル ♯女主 ♯成り代わり ♯微改変✕ ♯オリジナル混合中!
夢主は周回プレイ記憶者です。
\前回までのあらすじァ!!/
パァンッ!! ガラガラガラガラ!!
「 フギャアアアアアアアアッ!!! 」
「━━ッ!?」
『ひいぃぃぃ!?』
フラッシュが閃き、今まで一番の落雷の轟音が落ちた。
合わせてモナの絶叫、少女らが驚きに跳ね、少しビクついた俺の胸にあるのは一種の安心感。ネタバレを踏むところだった……。
校長が顔を真っ青にして尻もちで後ずさる。
向こうで、ふらっと彼が立ち上がると、ぽんぽこ毛玉のモルガナを抱きかかえ、やはり片足を引きずりながらこっちにゆっくり歩いてくる。…いや、その歩く速さだとこっちが待ってられない。
「行ってくる」
と俺が1人彼の元へ走る。
彼が俺の来るのに気付き、耳をかきかき大口を開けて欠伸をする。
駆け寄ればモナが体毛を膨らませながら目を白黒させている…それを片手で抱きかかえている彼がちょっと面白い。俺の到着と共に呆れ返った顔で少しこちらを睨む。ごめん。
「フニャニャニャニャニャ……」
「【…アルセーヌ、その様子だとまだかかっているのか。それにしてもどうしてゾロはこんなに毛深くなっているんだ?】」
「決定打に欠けていてな。彼は今猫っぽいんだ」
「【……? こいつは人間だろ……】」
ウィリアム〜、とモナが目をキラキラさせて彼にしがみつく。彼は歩む速度と方向はそのまま、
「【正義漢が来ちまったから反射的に全力使って追い返しただろうが……、こっちでの力の行使は竜司が疲れるから使いたくないのに、お前らがすっとろいから】」
「正義漢……、ってもしかして『黒いヤツ』が来てたのか!?」
モナが彼の腕の中でモゾモゾする。
んー、と少し彼は考える。大丈夫かな、あいつ焦げパンケーキ通り越しておこげになってないかな。
「【『正義』の『逆位置』。其奴はいつもそうだ】」
「それは中指の正位置」
「【奴は躊躇いなく人を殺す。俺たちも殺す。それでは困る】」
「お、オイッ、ウィリアム。ソイツはペルソナ使いなのか? 名前は?」
少し身震いして、体を伸ばしたモナの頭を、彼はぐいと抑え込んだ。
「【…今生の名前と顔がわからないではな。それに、不用意に情報を話してお前たちを混乱させたくない。……それでいいか、アルセーヌ】」
俺に確認を取る。
歴戦の勘だろうか? 俺が“知っている”ということを、何となく、何気なく、感じ取っているのだろうか?
「……そうだな、『正義漢』が帰ってくる前に説得を終わらせて還すべきだろう」
「おい、いいのかジョーカー!? ヤツについて、情報を得られるチャンスじゃ……」
「『チート使ってるウィリアムが全力張らないと自分ら皆殺しにされる相手』━━ってことが、俺たちの中でわかっただけでも収穫だろう。みんなを不安にさせたくないし、問題の早期解決と皆の安全確保が先だ。『正義漢』がまだパレスのどこかに隠れていて、俺たちを殺るチャンスを狙ってないとも限らないからな」
確かに、とモナが耳を伏せる。
と、着いた。
「も、モナ、もふもふ……」
「どうしたの?」
「敵の乱入を感じたから追っ払ったってさ」
目を輝かせるパンサーに、彼が静電気ぽんぽこのモナを渡す。だる、と呟いてコキコキ肩を鳴らす。
「こちらはまだ、こいつが還らん」
「…勝負はついてるのにね」
『ひっ……船長……!』
シャドウ校長はもはや腰が抜けて、ガクガクと震えるしかないようだ。困惑した顔で、何を言ったんだ、と問う。真さんが口を、
『……わ、私は罪を償うことも出来ないと言われたんだ! 鴨志田教諭のようなはっきりした罪状もないから…私はずっと許されないまま…後ろ指を指されながら生きていくしかない、おまけに、お前が呼んだお前たちが言った通りだ、私は無能なんだと!』
ワッ、と、ついにその場に丸まって泣き出してしまう。
彼は足を引きずって、痛めた膝を軽く叩いて…その場にゆっくり、慎重に、足を開いて座る。
……ぽん、と彼の素の手のひらが、校長の背中に乗った。
「【俺は許す。あいつらも許す】」
『ひぇ━━?』
ひぇ、
と言いたいのは俺たちの方でもある。どういう意味だ……?
「【貴様には思い切り暴れさせてもらった。あやつらも、おのおのの理由で貴様を存分に殴った。もしかしたら、現実の方では既に、先ほどと同じく貴様への糾弾が始まっているかもしれんな】」
そんなに本人と密接なシャドウ連れてきて…水に流したの、お前……?
「【加害者というのは往々にして、殴った相手のことは忘れるものだ。シャドウを集めたのはお前への、大衆からの意見を集める目的もあったが…彼ら自身にも嫌な相手を殴り飛ばしてすっきりしてもらう、という意味も、今ではあったのかもしれん】」
『で、では、私は……?』
モナの静電気がパンサーの髪に移ってぽんぽこに膨れている。
ぐしょぐしょの涙を垂らし続ける顔をわずかに上げる校長に、あるいは興味なさげに彼はフンと鼻を鳴らした。
「【恨みを晴らした相手に用はない。つまり、貴様はもう許されているのだよ】」
それは断言するには詭弁で、それでも校長が顔を伏せてまた泣き始めたのは、さっきとは別の意味でだった。
「【━━俺はな、最期まで格好ばかりつけて死んだ男だ。この…この少年、竜司もな、俺に期待して失望したが、それでも俺を無二の相棒と慕う。…俺はお前だ、と言うのに。なあ、いつも己を過大評価して、口ばかり大きくて、低俗な男だろう?】」
「そ、そこまでは思ってないけど……」
「こっちに話を振られたら…ああ、『そう』、だな。だから俺は竜司の横か上として、竜司のやることの責任は持たないといけないと思っている」
「竜司と蓮、そういう風に思ってたんだ……」
パンサーが意外そうな顔をするのは予想できる範疇だが、彼にもそんな顔をされるのは予想外だった。少し恥を指でかき上げて、苦笑いして前髪を整え直す。
「それに、俺だって竜司に怒られることはある」
「【…なんだ、期待した答えが得られんではないか。果報者め……】」
彼も少し、照れた様子で笑った。
さて、と、先ほどより前のめりで。
「【つまり貴様は俺と違って、自分が無能だという気付きを、死の過ちを犯す前に得られたのだ。世に、これほど幸福なことがあるものか。自分を有能と傲り成長をやめていた貴様は、再び努力をする機会を得たのだよ。医療が充実し、比較的平和なこの国では、その歳からでも遅くはないのだろう?】」
そんな中でも、悪知恵を働かせて人をひどい目に遭わせる輩がいるから、怪盗団が生まれるんだけどな━━、
…しかし、ウィリアムの時代にもそういう人間はいたのだろう、そしてもっとひどい目に遭っていたのだろう。何なら彼も、加害側だったかもしれない。彼が己の力の行使のために、容赦なく味方の舟を海に沈めたように。
彼は校長の頭に手を置く。
「【俺が許す。そして命じる。誠に、有能な人物になれ。文句を言われども、軽口ですませられるほど、無能より有能が際立つ人間にだ。貴様の自意識過剰は、己を信じる力の強さでもあるのだ。芯が弱くてぶれのある者より、よほど強くなれる】」
『…………、…………君は、誰だね……』
……泣き崩れながら、校長は問いかける。彼は俺たちを見上げた。そして、……ニカッと幸せそうに笑う。
「【レッテルを貼られた、ちっぽけな海賊団の頭で…今は、賊の一団の1人だ。自慢の、大好きな仲間たちに囲まれて幸福な男だ】」
『……そう、か……』
シャドウ校長が、ゆっくり…顔を上げる。
スマートフォンが光り、校長先生も光り始める。
『もう…「先生」の言葉は、必要ないね……』
「━━校長先生!」
真さんが校長先生の肩を掴もうとした。だが、泥に触れるように、完全には掴みきれない。
「私……わたし、私も、校長先生が、此度の件で謝罪されるなら…例えば、終業式で……! 私、生徒への姿勢を正すことを、生徒会長としての役目を果たすことを、改めて宣言します!」
『新島君……?』
「真さん……」
「私、人生をやり直すことも、生徒会長としてやり直すことも決めたし、だけど、それはまだみんなに伝えてない! それを知らしめてこそ…ううん、みんなの前で誓えばこそ……! みんな…私に頼ってくれるようになると思うんです。私も、生徒会長としての務めを立派に果たせるようになりますから!!」
必死に訴えかける、ゆく人への言葉。
そして、残る自分への誓い。
真さんは、叫ぶ。掴んでいた肩がなくなって、その手が床に落ちる。
「学校のこと……私も、責任持って預かる1人に、なります━━!!」
『そうだね…、君ならきっと立派な人になれる。私も、……を、繰り返さないよう━━━
……消えた。
「【…ッ……】」
「ウィリアム!!」
ズンッ━━ドドドドドド……!!
ガクン、と彼の体が倒れかけ、すぐ傍の真さんが支える。続けて、パレスが揺れ始める…倒壊だ。
「オタカラは持ったか? 皆、身の安全は…脱出口は!?」
彼が、フォックスにスマホを差し出す。鳴り続けていた人の声が、聞こえなくなっている。彼が浮かべた笑みは、苦しそうだ。フォックスは頷いてそのスマホを受け取り、しっかりと懐に仕舞う。
「『ココ』への出入り口なら、『正義漢』が使ってたぜ…って、ワガハイは直接見てねえけど。ワープみたいなモンだし、今すぐ行けばダイジョウブなはずだ!」
「彼は……!?」
真さんが、彼に肩を貸して、少しよたついて立ち上がる。彼の目は少しぼんやりしていて、苦しげに呼吸して、ぐったりしているのに、冷たい汗を垂らしていて……。
「【……元から、こういうさだめだったのだよ。彼奴が、竜司の…力を、暴走させていたからこそ、俺は…現れることができたのだ……】」
「…結局、ウィリアムと竜司と…真が、全て持っていったな」
「私がおまけみたいじゃない、もうっ!」
文句を言いながら、真さんが歩き始める。「私も!」とパンサーが彼のもう片方の肩を持つ。
先に駆け出すモナが、跳ね回ってあちこち見渡す。
「だんだん、洗濯機は傾きつつあっけど…ヒビとか崩れたりは今んとこなさそうだ! 急げっ!」
顔をしかめながら、足を引きずりながら、それでも顔を上げて、彼も己の足で進むことを試みる。ひと足、ひと呼吸、荒く息をつく。
俺もモナのところまで走って、問題ないことを確認して戻って来る。
「【……竜司にも、お前たち、にも、すまなかった。……だが、同じくらい…感謝している……】」
「勝手に遺言みたいに言うなバカッ! そして竜司は真性のバカ!!」
「【は、はは……もう死んでいる相手に……。ああ、良かった…今の怪盗団と、面と、話せて…良かった……! “俺”が如何に愛されているか、止めてくれる相手がいるか、“俺”が確かめ…られて…良かった……!】」
そして、悪意なく穏やかに笑っている……。
「ほんと、貴方って人は…さっきもそうだったけど、恥ずかしげもないこと、言えるタイプよね……ッ」
クカカ、と笑い声を上げた彼の膝が崩れ落ちかける。
手を出しかけた俺に、彼は振り払うように頭を振る。
「【……さ、最後に、教えろ、“ジョーカー”、その名を! カルメン、ヨハン━━】」
ズンッ!!
傾きが強くなる。つるつるした床では、滑り落ちかねない。
「……俺は、アルセーヌは、“ここ”に! 『ジョーカー』…雨宮蓮!」
俺はコツコツと武器を叩いた。一番名乗りに、みんなが顔を合わせる。…多少の差はあれど、結局みんな、彼の遅くなった足取りの傍にいる。
「…『フォックス』だ! ペルソナ、ゴエモン! 名を喜多川祐介と言うッ!」
「うん…、ヨハンナ、じゃなくて、新島真! ここでは『クイーン』って名乗らせてもらってる!」
「私、高巻杏…『パンサー』、怪盗団の名女優だよ! カルメンと一緒…忘れないでね!」
「ウィリアム、ワガハイは、モルガナだ! 『モナ』だ! ワガハイがゾロだっ!」
続けざまに、みんなが名乗る。
彼は嬉しそうに、何度も、みんなの名前を口の中で反復する。
「【怪盗団…『ドリームキャッチャー』……、か、良い名だ……】」
「知ってるのっ?」
「【……俺は、『竜司』だから、な。…だ、が…どうしてもお前たちの名前だけを忘れてしまって、】」
「……そうか」
ズン、ズズン……!!
「やばっ、あぶなっ……!!」
「もうソコだ、ミンナ引っ張れぇっ!!」
扉と言えない出入り口は、取っ手などなく口を開けている。そこへ━━
「しっかりして……!」
……彼はぐったりして、どうにか薄目を開けている。
「大丈夫だよね? 竜司は、大丈夫だよね……!?」
ランドリーの洗濯機は、全て何かしら、壊れていた。黄色い塗装が剥げている。道が傾き、天井がパラパラと落ち始めている。
「【……間違うなよ、“竜司”……、こ、こんなに、幸せで……】」
…俺も、彼に寄り添う。
ウィリアムに、なのか、
体の深層で死力を尽くして疲れて眠っている竜司にか?
ワシャワシャと頭をかき回す。
彼は、枯れた喉で笑ってくれる。
「【か、怪盗団…この時代の仲間たちよ……、皮を剥がれ、肉を食われ、骨の髄まで煮立てられても、…ど、どうか…、諦めてくれるな……、『ドクロの旗』が、反逆の証だ……!】」
「……あんたっ……」
━━バチンッ。
ヒクリと彼の指が動いて、パンサーの涙が伝う頬を静電気が掠める。
「痛っ……! こいつ…」
「【……か、み、に……も……あらが…………】」
「……カミ……?」
「竜司っ!!」
真さんが彼の体を揺さぶる。揺さぶって、そして、ハッと手を見る。不格好に嵌まったままの、分厚い黄色い手袋。手甲のついたそれを見つめる。
ガリッ、と手を噛んだ。
本当に指を齧るほど強く、手袋に噛みついて引き抜く。
…モナが、カミ、と一言呟いてから、ぼんやりと立っている。
一対の手袋を、真さんがスカルに嵌め直した。手袋は彼の手に綺麗に嵌まる。そっと口元に手を当てて、穏やかに笑って、目を閉じる彼の額をそっと指でゆっくりと撫でた。
ボウッ━━ボワアッ!!
「非常口、使える!?」
叫んで立ち上がった彼女は、白い手袋に鉄の仮面。ぼんやりしていた面々が、鋭い声にハッとする。
「……こ、このままでは、あの非常階段では、いつ崩れてもおかしくない…な」
「生きて帰るの…みんなで…そうよね!?」
たじろいで答えたフォックスに、彼女は強く頷いた。
「そうだな、クイーン……!」
「バカ竜司は私に任せて!」
まだ目を覚まさないのが1人いる。…モナだ。他に悟られないようさり気なく、ポンポンと頭を叩く。彼はビクッと跳ねて、プルプルと体を振る。
「俺はしんがりを務める。モナは一番先に行ってくれ。俺は何かあったらワイヤーフックでどこかに掴まって、復帰する。モナは誰か落ちたら風で元に戻してくれ!」
「わ、わかった。……パレスのイセカイとしてのチカラが弱くなってきてるからな! 油断は禁物だぜッ!」
非常階段の扉を開ける。
階段が、俺たちを逃すまいとするように緩やかな螺旋の錆びついた階段となっている、だが皆ためらいなく走り抜ける。
少し階段が落ちたところですぐ次の足場にしがみつくか、飛び越えるか、もうすぐに下の段の階段に着地している。
「階段、落ちるぞ━━!」
「もうみんな、これくらい大丈夫でしょ!?」
「大丈夫って何が!?」
「みんなの脚力! ……とか!?」
━━非常階段が崩れ落ちた。
そしてみんなが落ちる。
☆★ To be continued!! ★☆