景品
UFOキャッチャーが得意だった。
別に欲しい景品はなかった。
いつもあの子が好きなキャラクターを捕まえた。
あの子が好きなキャラクターは全然可愛いと思えなかった。
プリクラが苦手だった。
顔が加工されることが気持ち悪いなんて理由じゃなく、物理的にあのまばゆいライトと緑のカーテンに手順の説明をする高い声が絶え間なく響く空間が、苦手だった。
入るときまってめまいがした。
あの子と行くのはどうせゲームセンターだ。
いつだって人の多い大通りの方じゃない、少しだけ型遅れの機械が並ぶあのゲームセンターだ。
UFOキャッチャーはたまにしかしなかった。
あの子はとても下手だったし、それにもかかわらずどうしても自分で取りたがったから。
いつも600円分だけやると、お店で可愛い顔のを選んだ方がお得かもしれないと言って諦めた。
あの子の取れなかった景品は全部うちにあった。
あの子が欲しがったものを他のやつに取られるのが気に食わなかった。
だけどそんなこときっと知らなかった。
うちに呼ぶこともプレゼントすることもなかった。
一度だけお目当ての景品が取れたことがあった。
いつも必ず600円分しかやらないのにもう一回だけと言って700円目のコインを入れた。
その日のプリクラは殆ど落書きをしなかった。
代わりにあの子の大好きなキャラクターが2人の顔を隠すほど大きく写っていた。
学校を卒業してもたまには会いたかった。
だけどあの子は多分そうでもなかった。
他の知り合いが増えた。
他の友達ができた。
他の遊びを知った。
ゲームセンターにはもうあまり行かなくなった。
うちにあった大量の景品は去年引っ越した時にまだ幼い従兄弟にあげた。
別に元々好きじゃなかったからなんとも思わなかった。
勉強机に挟んだプリクラだけはなんとなく取り出して持ってきた。
もうUFOキャッチャーは他の子の方が上手いからやらないし、プリクラに入ってもめまいはしない。
だけどあの子の700円目はどうか他の人と一緒に写らないで欲しいと願ってしまう。