ロンリーロングヘア
長い髪が好きな人と別れてから、髪を伸ばし始めた。
後悔させたいとかじゃなくって自分が自分を肯定できるように、私の髪が短かったから終わってしまったんだと勘違いできるように。
あの人は、私が髪を伸ばそうか悩む度
「短い髪でも君のこと好きなんだから、これって本当に君が好きってことだよ」
と言った
だから私は彼とお付き合いをしている間一度も美容院で「毛先を揃えるくらいで」と言わなかった
彼は好きな人ができた、と謝った。
私はその人を知っていたし、好きのバランスがサラサラと向こう側に流れていくのも感じ取っていた。
彼女は彼女によく似合うボブヘアをしていた。
「せめてロングだったらなぁ、、」
すぐに終わるドライヤーの時だけ口に出せる言葉は、誰にも聞こえることなく水分と一緒に熱風で溶ける。
失恋は髪を切るものだと相場が決まってるから、私の恋が失われた事に気付く人は殆どいなかった。
私の方も言うタイミングを逃して、いる程で振られる話を曖昧に目線を浮かせ、答え続けた。
「髪、伸びたね」
髪を伸ばしている理由を答えなくちゃいけないとしたら、きっと今がそうなのに、私はちっとも報われなかった。
「伸ばしてるの」
思いがけないタイミングだったからとか、昨夜ドライヤーせずに寝ちゃったとか、今日は満員電車の隣が汗かきの男だったとか、沢山の言い訳が頭を巡る。
「長いのも似合ってるよ」
あぁ、まだ好きだ
まだ好きです、もう好きじゃないんですか
「でしょ、よく褒められる」
長い髪、暗い色で、ストレートがいいって、なに、私と正反対じゃん
「よかった、元気そうで」
それでも好きだって、いってたよ、たぶん
「こちらこそ」
その日変わったらしい彼のラインのアイコンで、一斉に友達から連絡が来た。
「ごめんね、隠すつもりなかったんだけど」
「ねぇこれどういうこと?」
と一緒にやってきた彼の横には相変わらずボブヘアの似合う女の子がとても良く彼に似合っていた。