センチメンタルなオータムに
この時間の小田急線はかなり混雑する
後ろのおじさんの鼻息をつむじ辺りで感じながら
一本遅らせてもどうせ座れないし。
とギリギリで乗り込んだことを少し後悔した
携帯もいじれないし、イヤホンはカバンの底にあるから、どうにも手持ち無沙汰で今日のことを思い返してしまう
2年ぶりに会った友人はあの頃と変わらず元気そうで、新しくできた彼氏と同棲するかもという話や、バイト先の先輩が作ってくれる賄いが美味しすぎて皆んなに食べさせたいという話をしてくれた
「あやちゃんはさ、なんか、大人になったね!」
話を聞いた私が「相変わらず楽しそうで安心したよ」と言うと、彼女はそう返した
大人、
大人かぁ
なんとなく言いたいことはわかる
私は大人になった
容姿もだけど、中身が
大人 は言い換えたら、普通 なんじゃないかなと思う
最寄駅について改札を通ろうとすると残高不足で止められてしまった
安定した生活が欲しくなってフリーターから正社員になったけど、こんなに低い位置で安定してどうする
私が舞台女優を諦めて手にしたのはSuicaの残りが180円を切る度に千円をチャージするのがやっとの日々だった
「パンでいっか、、、」
容姿を磨く目的が無くなってから、私は5キロ太った
マツエクもまだ完了してない脱毛も
疲れた夜のファミレスでの散財に勝てなかった
大人になったね
エレベーターの鏡に映った自分を見ながらその言葉がなんとぴったりなのだろうと思う
普通になりたくないと思って20年くらいはそう生きたはずなのに、たったの2年でこんなに完璧な普通になれちゃうんだもんな
夢を諦めた代わりに手に入れた新宿まで15分の私の部屋は、昨日焼いた秋刀魚の残り香がした
窓を細く開けると僅かに滑り込んでくる金木犀の香りが私の部屋に混ざり、どうでもよくなる
普通を選んだのは私だ
何を羨んでいるんだろう
24歳なんて、大人だ
何が悔しかったんだろう
窓の近くでタバコに火をつけるとさらによくわからない香りになって私の存在感を薄めた
プラスチックのボトルに入った648円のワインをマグカップに注ぐ
ただのブドウジュースの味がした
私もう大人だから、今日は4時まで起きてやる
私は普通だから、明日はきっと昼過ぎまで寝てしまう