ワンデーコンタクト

君は目が悪かった
君は眼鏡をしなかった
君は大事な日にだけコンタクトを入れた
君は、
君に最後まで大事にしてもらえたら
私は、


暖かい日の記憶が概ね良かったことのように思い出されるのは、気温と心情の上下が相対関係にあるのか。それとも単に私が寒がりだからなのか。
彼は冬でも割と薄着で、私が横で震えていても「大袈裟だなぁ」というそぶりをし、気休めに私の背中をさする程度だった。
初夏に行った旅行は幸せな二人をありありと思い出せるが、冬に行った旅行は嫌だった場面だけ切り取られて他はモヤがかかったように不鮮明なのは、実際に私の眼鏡が白息によって曇っていたからなのかもしれない。
君がタバコを吸う間、寒さを堪えて大人しくそばに居たのは、いつかみた"受動喫煙は緩やかな心中"という言葉を真に受けていたからだ。

私は本当に可愛くて思いやりがあって、ワガママで面倒な彼女だった。

気持ちが離れていくのが分かった、なんて分ったようなことを言いたくなかった。
それ以外に何か大きな理由があれば、私はちゃんと君を嫌いになったのに。
じわじわと減っていく束のコンタクト、待ち合わせで私に気がつくまでの距離、ゆっくりになって、短くなって。

君は大事な日にだけコンタクトを入れた

最後の日、君の瞳を近くで見る勇気がなかったのは、目を合わせるのが嫌なんじゃなくて、そこに薄い青い輪っかが無いのが怖かったからだよ。

いいなと思ったら応援しよう!