#ミスiD
エイトビートがわからない
共に過ごす時間が生活のほとんどを占める学生時代において、好みが殆ど被らないことはある種好都合だった。
同時期に発症した厨二病にしても、私は洋楽で彼女はボカロ、私はエセサイコパスで彼女はファッションメンヘラ、私は金髪で彼女は姫カット、と各々方向性の違う黒歴史を残していた。
好きな芸能人も好きなテレビ番組もアニメも、漫画も映画も音楽も、全然違うからこそわたし達は飽きもせず5年も仲良くやってきたのだ
恋したら可愛くなるんじゃなくて可愛いから恋するんでしょ
私の方が可愛かった
ママの友達の娘より
好きな男子の好きな女子より
彼氏の元カノより
いつも私の方が可愛かった
ママはよく
「さなちゃんのお顔はママとパパのいいとこ取りで良かった」
と言った
ママの綺麗なアーモンド型の目に、パパの高いけど大きすぎない鼻と薄く形のいい唇。
それが丁度良い配置でママの卵型の輪郭に収まった私の顔は本当にいいとこ取りだった。
クラスで一番だとか学年で一番だとか、男
どうやらナチュラルメイクの女の子が好きみたい
今日もどうせいない
いない
いない
先頭車両の二番ドアは統計上1番いい場所だった
それでも朝からわざわざ落ち込みたくないからいないと思って電車に乗り込む
いない
いない
今日もどうせ
いない
あ
いた
今日はいた
いた
いたいた
心臓は大きくリズムを崩した後、今までより遥かに速いスピードで全身に血を送る
前髪とおでこの間がジワリと湿って、指先の神経が異常なほど冴え渡った
いないと
センチメンタルなオータムに
この時間の小田急線はかなり混雑する
後ろのおじさんの鼻息をつむじ辺りで感じながら
一本遅らせてもどうせ座れないし。
とギリギリで乗り込んだことを少し後悔した
携帯もいじれないし、イヤホンはカバンの底にあるから、どうにも手持ち無沙汰で今日のことを思い返してしまう
2年ぶりに会った友人はあの頃と変わらず元気そうで、新しくできた彼氏と同棲するかもという話や、バイト先の先輩が作ってくれる賄いが美味しす