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架空の人々の日記

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実在しない人たちがしろいこを通して綴った文章です
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#ミスiD

エイトビートがわからない

共に過ごす時間が生活のほとんどを占める学生時代において、好みが殆ど被らないことはある種好都合だった。

同時期に発症した厨二病にしても、私は洋楽で彼女はボカロ、私はエセサイコパスで彼女はファッションメンヘラ、私は金髪で彼女は姫カット、と各々方向性の違う黒歴史を残していた。

好きな芸能人も好きなテレビ番組もアニメも、漫画も映画も音楽も、全然違うからこそわたし達は飽きもせず5年も仲良くやってきたのだ

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ツツジの蜜

学校は好き
友達もいるし好きな男の子もいるし
先生は2年の頃の方が良かったけど、まぁ今年も嫌いじゃない

だけど今日は無理
別に時間割も悪くない、図工2時間あるし
でも無理今日は学校行けない

お母さんも私が学校好きなこと知ってるから、簡単にうそ風邪を信じてくれた
学校用の高くて整った声をベットで聞きながら私はちょっとの罪悪感とたっぷりの安心感で満足する

今までうそ風邪を使ったのは2回で、1回目

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恋したら可愛くなるんじゃなくて可愛いから恋するんでしょ

私の方が可愛かった

ママの友達の娘より
好きな男子の好きな女子より
彼氏の元カノより

いつも私の方が可愛かった

ママはよく
「さなちゃんのお顔はママとパパのいいとこ取りで良かった」
と言った
ママの綺麗なアーモンド型の目に、パパの高いけど大きすぎない鼻と薄く形のいい唇。
それが丁度良い配置でママの卵型の輪郭に収まった私の顔は本当にいいとこ取りだった。

クラスで一番だとか学年で一番だとか、男

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無知の知のち恥

物事になんでも名前を付いているのはある点ですこし迷惑なことだ

花粉でどうしようもなくかゆい目に目薬を染み込ませながら思う。
だって花粉症なんて言葉なかったら、毎年来るかくるかと朝のニュースを見て身構えることもなかっただろうし、どうせ外でたらマスクしなきゃいけないんだからって化粧を疎かにする事もなかった筈だ。
ご丁寧に分類された私たちは「〇〇だから□□なんだ」とあらかじめ決まっているかのような同じ

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短くて甘い夢

今10分寝るか、空いてる電車で座って25分寝るか、、、。
そう考えながらしつこくアラームを鳴らす携帯を掴み、慣れた手つきで7:40にセットし直す。

寒くなり始めた朝、少し捲れた毛布から飛び出て冷えてしまった足先を温め直す時間が一番幸せなのではないかと思う。
私は10分後にやってくる冷たい現実から目を瞑り眠ることに集中した。

この時間の睡眠は夢を見ることが多い。
どれだけ全神経を寝ることに注いで

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ロンリーロングヘア

長い髪が好きな人と別れてから、髪を伸ばし始めた。

後悔させたいとかじゃなくって自分が自分を肯定できるように、私の髪が短かったから終わってしまったんだと勘違いできるように。

あの人は、私が髪を伸ばそうか悩む度
「短い髪でも君のこと好きなんだから、これって本当に君が好きってことだよ」
と言った
だから私は彼とお付き合いをしている間一度も美容院で「毛先を揃えるくらいで」と言わなかった

彼は好きな人

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どうやらナチュラルメイクの女の子が好きみたい

今日もどうせいない
いない
いない

先頭車両の二番ドアは統計上1番いい場所だった
それでも朝からわざわざ落ち込みたくないからいないと思って電車に乗り込む

いない
いない

今日もどうせ

いない



いた

今日はいた
いた
いたいた

心臓は大きくリズムを崩した後、今までより遥かに速いスピードで全身に血を送る
前髪とおでこの間がジワリと湿って、指先の神経が異常なほど冴え渡った

いないと

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寒い朝とニット

「昨日の暖かな陽気とはうってかわって、今朝は冷え込みます。」

私は洗面所で歯を磨きながら、小さなテレビから流れる天気予報士の声を聞いた

オシャレは我慢なんて言うけれど、実際は自分が我慢すればいつどんな服を着ても良いと言うわけもなく、夏に冬の服を着れば
見てるこっちが暑い だとか
時期的にその服はおかしいよ だとか
今日の天気予報見てないの? だとか
私達が正しくてお前は間違っているというような

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センチメンタルなオータムに

この時間の小田急線はかなり混雑する
後ろのおじさんの鼻息をつむじ辺りで感じながら
一本遅らせてもどうせ座れないし。
とギリギリで乗り込んだことを少し後悔した

携帯もいじれないし、イヤホンはカバンの底にあるから、どうにも手持ち無沙汰で今日のことを思い返してしまう

2年ぶりに会った友人はあの頃と変わらず元気そうで、新しくできた彼氏と同棲するかもという話や、バイト先の先輩が作ってくれる賄いが美味しす

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ミルクの入っていないホットコーヒーは飲めない
真冬でも裏起毛のタイツは履けない
泣いてしまう映画は二回も観れない

苦いからじゃなくてあついから
あついからじゃなくてダサいから
ダサいからじゃなくて忘れてしまいたくないから

私だって大人になりたいと思っていたし
18歳の姉を見ている15歳の私の目にはちゃんと大人になっていった女の子が映っていた
あと3年もすればこうなることを少し切なくも嬉しく思っ

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