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架空の人々の日記

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実在しない人たちがしろいこを通して綴った文章です
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#ミスid2019

優しい温度の水が飲めない

玄関のドアを開けると昨日の暴風雨で飛んできたらしい汚れた下着が落ちていた。

私の左手はそれを拾う気などさらさらなく、入れたはずの鍵を探してリュックのポケットのメッシュ生地を手で満遍なく撫でる。けれど2周半をすぎてもヒンヤリと固い感触にぶつかることはなかった。

どうやら"通帳を絶対忘れないぞ"、と思って鍵と一緒くたに置き、その両方を置いてきたらしい。

「やっぱ鍵と一緒にしてて正解」

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エイトビートがわからない

共に過ごす時間が生活のほとんどを占める学生時代において、好みが殆ど被らないことはある種好都合だった。

同時期に発症した厨二病にしても、私は洋楽で彼女はボカロ、私はエセサイコパスで彼女はファッションメンヘラ、私は金髪で彼女は姫カット、と各々方向性の違う黒歴史を残していた。

好きな芸能人も好きなテレビ番組もアニメも、漫画も映画も音楽も、全然違うからこそわたし達は飽きもせず5年も仲良くやってきたのだ

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ロンリーロングヘア

長い髪が好きな人と別れてから、髪を伸ばし始めた。

後悔させたいとかじゃなくって自分が自分を肯定できるように、私の髪が短かったから終わってしまったんだと勘違いできるように。

あの人は、私が髪を伸ばそうか悩む度
「短い髪でも君のこと好きなんだから、これって本当に君が好きってことだよ」
と言った
だから私は彼とお付き合いをしている間一度も美容院で「毛先を揃えるくらいで」と言わなかった

彼は好きな人

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どうやらナチュラルメイクの女の子が好きみたい

今日もどうせいない
いない
いない

先頭車両の二番ドアは統計上1番いい場所だった
それでも朝からわざわざ落ち込みたくないからいないと思って電車に乗り込む

いない
いない

今日もどうせ

いない



いた

今日はいた
いた
いたいた

心臓は大きくリズムを崩した後、今までより遥かに速いスピードで全身に血を送る
前髪とおでこの間がジワリと湿って、指先の神経が異常なほど冴え渡った

いないと

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私がお家の中で一番好きな場所は
普通のそれとは水と空気がちょうど真逆の船

私はその中で考えたり考えることをやめたり
怖くなったり悲しくなったり
音楽を聴いたり歌を歌ったりする

歌を歌えばよく響くし、考え事はシャワーに流される
1番自分にとって良い温度を満たしているからか、気付かぬうちに沈み、浮く

実家に住んでいた頃にはこんなに長く居られなかった
別に決まりがあったわけじゃないけど、順番が回っ

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景品

UFOキャッチャーが得意だった。
別に欲しい景品はなかった。
いつもあの子が好きなキャラクターを捕まえた。
あの子が好きなキャラクターは全然可愛いと思えなかった。

プリクラが苦手だった。
顔が加工されることが気持ち悪いなんて理由じゃなく、物理的にあのまばゆいライトと緑のカーテンに手順の説明をする高い声が絶え間なく響く空間が、苦手だった。
入るときまってめまいがした。

あの子と行くのはどうせゲー

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日記

暑いから1日家から出なかった。
今日は気温が35℃を超えたようだ。
まだ7月なのに私は残暑に似た気怠い気分で差し込む光が減り始めたカーテンの隙間を見ていた。

今日が終われば夏休みだ。
二年生からは補習があるので実際はまだ暫く学校に通わなくてはならないが、名義上"17歳の夏休み"が明日始まる。

大人になりたいと思っているうちは子供で、子供に戻りたいと思ったら大人だ。という言葉を聞いたことがあるが

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