手紙 〜動物とご家族のために日々奮闘する動物看護師の方へ〜
日々動物のため、そして、ご家族のためにお仕事して下さりありがとうございます。私はサーカス動物病院を経営している豊田と申しまして、臨床現場は退いた獣医師です。
動物とご家族の幸せ、豊かな生活、思い出作りを語る上で、臨床現場の話を欠かすことはできません。私は臨床現場を離れて10年になりますので自分で診察をするのは不安で、犬猫の飼い主として現場の獣医師、動物看護師、ケアスタッフ、受付の方々にお世話になっています。
『犬の診察』と言葉で書くと簡単ですが、犬といっても2kgのチワワも30kgのゴールデンレトリーバーも同じ『犬』であり、保定の仕方から入院管理の仕方、採血や留置とするやり方まで違いますし、更には、動物病院内の出会い頭の事故を防ぐための細心の注意が必要になったり、覚えることも実践することもとても多い職場/職業ですよね(猫と犬でも大分違いますしね)。
最新の薬や検査も毎年出てくるので、覚えることは増える一方で、「ナンジャコリャ!?」と思われる方もいるのかなと思います。「命に関わる仕事なので一生勉強が必要」と言われれば正論の気もするのですが、これを当たり前とすると、自分の出来ていないところばかりに目がいってしまい、自信を無くしてしまう気もします。
ですから、毎日出来たことを「当たり前」にはせず、しっかり数え、成果を受け取り、「ご家族1人1人のありがとうございました」を真に受けて、動物たちの完治ではなく「快方」に注目して、毎日を加点法で過ごして欲しいと思う次第です。
臨床現場を離れたからこそ、現場のを支える皆さんの凄さを実感するし、心からリスペクトしています。
遅ればせながら自己紹介
私は、豊田陽一と言います。
2012年に獣医師となり、臨床現場で働いていました。
朝7時30分に出勤し、夜は基本的に22時以降まで働く、たまに21時台に終わると「今日終わるの早い!何しよう!?」と無意識的に思うほど、ガムシャラに働いていました。
地域の中核動物病院で働いていたこともあって重症患者さんも多く、毎日必死に働いても治せない/救えない若手時代でしたので、どんなに夜遅く帰ってきても毎日1時間勉強するなど、修行の日々を過ごしていました。家のコタツや椅子が結紮だらけになるくらいには、手術の練習もしていました。
担当していた患者さんが亡くなった時には、ご家族と一緒に涙を流してしまうような獣医師でした。家族の絆の美しさ、大切な存在がこの世からいなくなる喪失感、自分の無力さからくる怒りや哀しみなど、とても一言で表すことが出来ない感情と毎日過ごしていました。
ただ、それと同様、 多くのやりがいを感じていました。 大好きな動物と接することができるだけではなく、ご家族に多くの感情報酬をいただき、それでいて金銭報酬もいただくことができる。こんなに素晴らしい仕事は、獣医師や動物看護師以外にないのではないかと思うほどでした。
しかし、天職だと思っていた臨床獣医師をわずか2年3ヶ月で辞めることになります。
笑顔の人って増えたらいいよね、が唯一の持ち物
こういうと誤解されるかもしれませんが、私は特にやりたいことがありません。ただ、笑顔の人が増えたら嬉しいな、という想いは強く思っています。 笑顔じゃないことに対してダメ出しするつもりは一切なく、笑顔を押し付けるような価値観は持ち合わせてないのですが、「自分は笑顔の人に囲まれていた方が嬉しい」というエゴを持っており、「だから笑顔の人を増やそう(自分のために)」と思っています。
笑顔を増やすために
10代後半で献血始めて、現在90回くらい(輸血でしか繋げない笑顔がある)
大学時代に漫才を始め、起業後にM-1でナイスアマチュア賞もらう(面白い方が笑顔の人を増やせる)
社会人のキャリアは獣医師から(動物が快方に向かう事で笑顔の輪が広がる)
経営を学ぶために経営大学院(MBA)修了
人の認知を学ぶためコーチングアカデミー卒業(プロコーチになる)
といった手段を選んできました。どれも笑顔を増やすための手段です。
その後、臨床獣医師を引退して、自分の会社を起業する事になるのですが、これまた「笑顔の人を増やしたい」という単純な理由からでした。
動物を笑顔にする人が笑顔じゃなさすぎる問題
動物病院における職業は素晴らしいと思った一方、その職業についている方々の笑顔が少ない事が獣医師になってから気になるようになってきました。
獣医大学の先輩が社会に出て1年で動物病院勤務を辞めて公務員になった
同僚の動物看護師がメンタル失調で休職した
このような業界からの転職やメンタル失調といった話は自分から情報を取りにいかなくても、自然と多く入ってきました。あと、動物病院業界の人の離婚率も高い気がしました(プライベートの時間を取れないからかな?とか)
特定個人、つまり誰々が悪い!という主張は当時から全く持ち合わせていないのですが、「これじゃ笑顔増えなくない??」という疑問は常に持っていました。
動物とご家族を笑顔にする人、つまり獣医師や動物看護師などの笑顔を増やす事が、動物とご家族の笑顔を増やす事に繋がると考えたのです。
笑顔を増やすための手段は問わない、で有名な豊田の行動はそこから早かった早かった。
これまでの動物病院業界の常識をアップデートする必要がある
恐ろしい事に当時はこのように考え、そして、獣医師を引退する決断をし、起業をした(ただ、流石に2日間ほど考えて決めた)。
間違えて欲しくないのは、動物が好きだし動物を好きなご家族も好きだから、獣医師を引退する事にした、という事。素晴らしい獣医師と動物看護師は沢山見てきていたので、その人たちに任せていけば問題ないと思ったわけです。
ただ
動物を笑顔にする人を笑顔にする
動物病院業界の常識を変える
といった主張は当時耳にする機会がなかったので、こちらの方が登場人物が足りていないと思ったのです。
動物病院業界をどのようにアップデートしたいのか
それを示したが上の画像です。ここで書かれている顧客とは、動物と家族のことです。簡単に言うと、動物とご家族の笑顔を増やすためには動物病院スタッフも笑顔の循環に入れた方が良い、という常識を作りたいと思い、行動しています。
動物病院で働く人たちって、子供の頃から動物が好きなんです。これって当たり前ではなくて、こんな業界はどこを見渡してもないと思います。これはMBAスクールで多くの業種業態の方と話して感じた事です。
例えば、歯医者さんや歯科衛生士さんが「子供の頃から歯が好きでした!!」って言ったらちょっと引いちゃいそうじゃないですか?けど、獣医師や動物看護師にとっては、子供の頃から動物が好きって結構当たり前のことですよね。
だからこそ素晴らしいし、だからこそ危うい。
自分以外の大切な存在のために頑張れ過ぎちゃうので、「やりがい搾取」が起こしやすい業界にもなるのです。
全ては動物とご家族のため!
これが当たり前になると、自己犠牲ややりがい搾取が起こり、下画像のような循環になっていきます。この循環は、耐えきれなくなったスタッフから離脱してしまい、持続可能とは言い難いのではないかと思っています。
動物とご家族を大切にするためには自分、スタッフを大切にする必要がある
これが一番お伝えしたいことです。
動物看護師の皆さんは、ご自身のことを大切にされていますか?もしくは、ご自身のことを大切に考えてくれている環境にいますか?
ご自身(スタッフ)を大切にする、ということは、動物とご家族を大切にしない、という事では絶対にありません。
どちらも大切にすれば良い。
欲張って欲しいと思います。
なんならご自身を大切にする事は、動物とご家族を大切にする事に繋がります。スタッフの事も顧客の事も大切にする動物病院は年々増えてきている実感があります。
「どうせ…」
と考えずに、ご自身の笑顔を増やす方法、増やせる環境について考えて頂けたらとても嬉しいです。この手紙がそのキッカケになったら幸いです。
皆さんが良いお年をお迎え出来ることを願っております。
2025年、自分では考えられないくらい良い年にしましょう!
2024年12月27日
株式会社1sec./サーカス動物病院
豊田陽一