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ツナガルカカワル循環型社会「サーキュラーデザイン実践家とのクロストーク」
武蔵野美術大学と日立製作所で循環型社会をテーマとした共同研究を行っています。昨年度は滋賀県長浜市への滞在型リサーチを行い、この研究成果を2023年4月末に武蔵野美術大学市谷キャンパスで展示しました。展示イベントでは、3名のサーキュラーデザイン実践家をお招きしクロストークを行っています。現代の循環型社会の実践についてとても興味深い示唆が得られたので、今回の記事は、このクロストークの内容をお話しします。
(文責 デザイン研究者 曽我修治)
ツナガルカカワル循環型社会とは?
2022年の春から初夏までの70日間、武蔵野美術大学 岩嵜研究室と日立製作所 デザインセンタの二人のデザインリサーチャーが滋賀県長浜市に滞在し、昭和初期頃まで残っていた循環型社会の記憶や名残を丁寧に辿ることで、当時の循環がどのように成り立ち、現在に至るまでにどう消失していったのかを探索しました。また、現代への循環型社会の回復に向けた問いを提示しています。このリサーチの内容については前回の記事をご覧ください。
この研究成果をわれわれは”ツナガルカカワル循環型社会”と名付けて、冊子や展示として発表しています。骨子をものすごくざっくりとお伝えすると、循環型社会の顕在面とも言える物質の循環は、その背後、潜在面にある文化的・社会的要因と深く関わっており、両面が相互作用する中で循環型社会は持続可能な形で成り立っている、ということです。この潜在的要因(ソーシャルファクターと呼んでいます)には、近隣で助け合う共助のコミュニティや、ありものから必要なものを作る学びの場、などがあげられます。詳細は、冊子を公開していますので興味がある方はご覧ください。
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4月末の展示では、3名のサーキュラーデザイン実践家をゲストとしてお招きし、デザインリサーチャー2名をホストに、循環型社会の実践をテーマとしたクロストークを行いました。ここで得られた深イイ示唆をお一人づつご紹介します。
クロストーク1 “循環型社会に必要な2つの身体知”
一つ目のクロストークでは、”朝”と”食”をテーマにしたブランドを展開しているnest granola 事業責任者 山本莉央さんをゲストにお招きしています。
ゲスト:nest granola 事業責任者 山本莉央さん
ホスト:日立製作所 サービスデザイナー 長谷部浩子
モデレーター:武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科 岩嵜博論教授
クロストークから見つかった論点は、”循環型社会に必要な2つの身体知”です。例えば、こんなお話をしています。
物理化(例えば量り売り)により「必要量の把握」、季節の手仕事(学びの場)により「先を見据える計画性」、の二つの重要な知が身体化され、そこから循環的な行動変容が生まれるのではないか
このような身体知を身につけるための自分ごと化のためのデザインが循環型社会の実現には重要になってくるのではないか
手作業を繰り返し身体知を獲得できるような環境をどう今の社会にデザインできるか、というのはとても興味深い論点ですね。詳細を知りたい方はYouTube で対談動画をご覧ください。
クロストーク2 ”複雑なものをわかりやすくし過ぎない”
2つ目のクロストークは、ファッション分野に精通されているサーキュラーデザインコンサルタントの造形構想代表 峯村昇吾さんをゲストにお招きしています。
ゲスト:造形構想代表 峯村昇吾さん
ホスト:武蔵野美術大学 クリエイティブリーダーシップコース 修士卒 野崎琴未さん
モデレーター:日立製作所 デザイン研究者 曽我修治
峯村さんとのクロストークで見つかった論点は”複雑なものをわかりやすくし過ぎない”です。特に興味深かったお話しを2つ取り上げます。
循環型社会へ移行する上で、複雑なものをわかりやすくし過ぎてしまい、大切な部分が見えなくなっている問題に対応が必要。複雑なものを複雑なまま可視化することが大切になる
そのためには、関わる人の態度として我慢や丁寧さ、さらには自分なりの視点が必要。自分の視点を持つためには、頭で考えるのでなく、身体で感じることが大事
ファッションや昭和初期の循環社会という複雑で捉えづらい対象と向き合ってきたお二人ならではの知見だなあと感じました。詳細については、こちらのYouTube 動画をご覧ください。
クロストーク3 ”ワンダリング! 小さなカタリストによる価値観のチューニング”
3つ目のクロストークには、サーキュラリティのコンサルタントであり、蔵前で循環する暮らしの実践もされているfog代表 大山貴子さんをお招きしています。
ゲスト:fog代表 大山貴子さん
ホスト:武蔵野美術大学 クリエイティブリーダーシップコース 修士卒 野崎琴未さん、日立製作所 サービスデザイナー 長谷部浩子
モデレーター:日立製作所 デザイン研究者 曽我修治
大山さんとの対談は興味深い論点がたくさん出てきました。主なものは3つあります。
”新しいものづくり可能性:非規格化による「関わり合う生産」”
小さな循環のカタリストが価値観をチューニングし行動を変える”
”行動変容を持続するための「ワンダリング」「リペアアクセス」「愛着」サイクル”
対話内容の例をあげます。
昔は人々が関わり合いながらあつらえ品(カスタマイズ品)を作っていた。今の製品には余白がない。これからの生産は非規格化による、関わり合う生産があると良いのでは。つまり、相手に委ねて使い手が追加できる余白を用意しておく
ミミズコンポストへの参加で地域の人がミミズにとって良きことという視点が得られた。このような小さな(自然の)カタリストが人々の視野を調整し、循環的な行動の動機につながり得る
今は、ワンダリング、不思議や疑問に感じる機会が少ない。なのですぐに物を捨てて安い新品を買う。リペアへのアクセスがあればワンダリングの機会になる。また、リペアを続けているとものに愛着が生じ買い換える代替可能なものでなく自分にとって唯一無二のものになってくる
メーカーで働く者としても、”相手に委ねる生産”、”ワンダリング”など、ハッとする感覚がありました。越境するメンバによる対話ならではの気づきですね。詳細については、こちらのYouTube 動画をご覧ください。
クロストークから見えてきたこと
ツナガルカカワル循環型社会で得られた知見は、昭和初期というある種、現代とは異なる制約もある環境の中で見つけた人々の行動と価値観の仮説です。夜中でも欲しいと思えばなんでもコンビニで買えてしまうような行動の選択肢が豊富な現代に適用するにはいくつも乗り越えないといけない工夫が必要です。今回のクロストークでは、この「豊富な選択肢」という壁をどのように乗り越えるかについて多くの示唆が得られました。この、どのように、の詳細についてはまた別の記事でご紹介しますね。
それでは、またお会いしましょう!