一杯のコーヒーから始まった物語。『nano-coffeeroaster』春日孝仁さんインタビュー
2024年12月、浅草橋に焙煎所兼コーヒースタンドをオープンする「nano-coffeeroaster」。エチオピア産コーヒー豆専門店として、交通会館マルシェに約3年間出店し、確かな商品力とファンづくりで着実に成長を遂げてきました。マルシェでの販売活動をベースに、実店舗展開へと歩みを進める同店は、マルシェ出店から実店舗展開へのモデルケースといえます。立ち上げからの思いやこだわり、新店舗についてお話を伺いました。
「一杯のコーヒーが人生を変えた」nano-coffeeroasterの原点
──nano-coffeeroasterを立ち上げたきっかけを教えてください。
大学生のときに飲んだ一杯のエチオピアコーヒーがきっかけでした。当時、文房具メーカーへの就職が決まっていた私は、ファミリーレストランの飲み放題メニューくらいでしかコーヒーを飲んだことがなく、コーヒーにそれほど興味もありませんでした。
でも、友人と訪れた珈琲店「珈琲道場 侍」で初めて本格的なコーヒーを飲んだ瞬間、ビビビッと雷に打たれるような感動を覚えたんです。その場でマスターと2時間も話し込み、「なんでこんなに美味しいんですか?どうやって作ってるんですか?」とマスターに質問攻めにしたのを今でも覚えています(笑)。
気づけば内定を蹴って、そのお店で働くことを決意していました。そこから25年間、コーヒー一筋で歩んできたんです。
私は25年間ひたすらコーヒーと向き合い、それ以外の仕事はしたことがありません。それほどコーヒーに魅了され、没頭してきました。世の中にはコーヒー屋さんがたくさんあるので、個人事業で市場に参入するのは正直自信がなかったんですが、自分がこの業界に入るきっかけとなったエチオピアのコーヒーなら、きっと多くの人に感動を届けられる。そう確信してnano-coffeeroasterを立ち上げました。
──ブランド名にはどのような想いが込められているのでしょうか?
「nano」には、小さな力を集めて大きな感動を生み出したいという思いを込めています。私たち自身、製造量の少ない小規模ロースターですし、エチオピアのコーヒー豆の生産者も大規模農家はほとんどおらず、各家庭の庭先で育てられた木から採れる豆を集めて作られています。
一つひとつは小さくても、そんな小さな農家のコーヒーを集め、一人ひとりの想いを重ねていくことで、きっと素晴らしい感動体験を提供できる。そう信じて、この名前を付けました。
──エチオピアコーヒーの特徴を教えてください。
エチオピアコーヒーの大きな魅力は、山岳地帯の高地で栽培されることです。標高の高い場所では環境が厳しく、植物は生きるために養分をたくさん蓄えます。そのため、豆がゆっくりと時間をかけて育ち、凝縮された甘みと豊かな香りを持つコーヒーに仕上がるんです。この際立つ風味こそが、エチオピアコーヒーの最大の特徴ですね。
──特に人気の商品はありますか?
『ゲイシャ』が圧倒的に人気です。「ゲイシャ」という品種は、エチオピアの中でも特に稀少な大粒品種。その分、凝縮された甘みがより一層際立ちます。唯一無二の個性を持った、とても魅力的なコーヒーです。
──エチオピアコーヒーのおすすめの飲み方はありますか?
エチオピアのコーヒーは香りを楽しむのが特徴なので、ブラックで飲んでいただくのがおすすめですね。苦味が得意でない方は、抽出時間を短めにして紅茶のように軽く入れてみてください。そうすると胃への負担も少なく、香りも楽しめます。
もちろんミルクと合う品種もありますが、エチオピアコーヒーは特に香りが高いので、できればシンプルな飲み方でそれぞれの香りを楽しんでいただけたらと思います。
出店から3年。交通会館マルシェが多くの気づきをくれた
──交通会館マルシェへの出店のきっかけを教えてください。
コロナ禍の真っただ中、約3年前に出店を始めました。周囲からは「こんな時期に事業を始めるなんて甘い」と反対されましたが、私はむしろチャンスだと考えたんです。密を避けたいという方でも、開放的な屋外マルシェなら安心してお買い物ができますし、購入したコーヒーはおうち時間でゆっくり楽しんでいただける。コーヒーは、そのニーズにぴったりだと思ったんです。
そんな中、マルシェ出店当初から、エチオピアコーヒーの魅力をより多くの方にお伝えする方法を模索していました。最初はやはり飲んでもらうのが一番だと考え、試飲を提供していましたが、どうしても試飲した商品しか購入に繋がらないという課題もありまして…。
そこで発想を転換し、試飲をあえてやめてみました。その代わりに、それぞれの商品を粉にして香りを嗅いでいただき、豆の個性や魅力を比べていただけるようにしたんです。
そうすると色々香りを体験し自分の好みを知った上で、商品を選んでいただけるようになりました。お客様にとって特別な一品と出会えるような体験ができるようになったと実感しています。
──継続的に出店されてみていかがですか?
本当に多くのことを学ばせていただいています。お客様と直接お話しする中で「このコーヒーを飲める場所はないの?」という声をいただき、それが実店舗オープンの決意にもつながりました。
またマルシェには多彩な店舗が集まっていて、展示の仕方や売り方も千差万別。例えば雑貨店では、お客様がゆっくりお店の方と話しながら30分から1時間かけて商品を選びます。そこで気づいたのが、人通りだけの多さだけで出店場所を選ぶのではなく、興味を持ってくれるお客様がどれだけ来てくれるのかが大切だということです。商品の見せ方を工夫したり、お客様との会話を大切にしたりしている雑貨店の方々を見ると、私たちもまだまだやれることがあるなと。
ほんの一例ですが、こうした学びがあるからこそ、実店舗オープン後もマルシェ出店は続けていきたいと思っています。
浅草橋に待望の実店舗オープン!五感で楽しむコーヒースタンド
──新店舗のお話が出ましたが、どのようなお店になるのでしょうか?
焙煎所兼コーヒースタンドとして、エチオピアコーヒーの魅力をより深く体験していただける場にしたいと考えています。カウンター2席ほどの小さな店舗ですが、だからこそお客様との距離が近く、より丁寧なコミュニケーションが取れます。
目の前で焙煎している様子を見ながらコーヒーを楽しんでいただけるのも特徴です。マルシェでは限られていた商品点数を増やし、エチオピアの様々な地域や生産方法による味わいの違いを紹介していきたいですね。
──オープンに向けてどのように準備を進められたのですか?
まずは交通会館マルシェでの出店を着実に重ねていきました。お客様との出会いを大切にしつつ、同じエリアの中央区、台東区、江東区の郵便局での販売活動を始め、徐々に販路を拡大しました。そして、商品を知ってくださったお客様が将来的に足を運びやすい場所を探したんです。
その結果、浅草橋という好立地の物件に出会い、実店舗をオープンする運びとなりました。
わくわくする反面、不安も大きいですが(笑)、マルシェで「お店できるんですよ」とご案内すると「行く行く!」と言ってくださる方も多く、とても励みになっています。今までマルシェで商品を気に入ってくださった方に、さらに深くエチオピアコーヒーの世界を知っていただける場所として育てていきたいと思います。
マルシェで育てた小さな夢を、次のステージへ
──今後の展望があればぜひ聞かせてください。
エチオピアコーヒーの専門ロースターからスタートしましたが、将来的には他の国を専門とするブランドも作っていきたいと考えています。特に注目しているのが、アフリカのコーヒーです。ケニアやルワンダ、タンザニアなど、まだ日本ではあまり知られていない産地のコーヒーには大きな可能性を感じています。
──なぜアフリカにこだわるのでしょうか?
ブラジルやコロンビアといった南米の産地は、すでに多くの店舗が扱っています。それに比べてアフリカのコーヒーは、まだまだフォーカスが当たっていない。希少価値の高いコーヒーを紹介していきたいという思いが強いんです。
──これからの展開がとても楽しみですね。
ありがとうございます。私自身が一杯のエチオピアコーヒーとの出会いで人生が変わったように、お客様にも素晴らしい出会いの瞬間をお届けしたいんです。小さな力かもしれませんが、マルシェでの一杯、店舗でのひとときが、誰かの心に響く体験になれば。そんな思いを胸に、コーヒーの魅力を、これからも一人ひとりのお客様に届けていきたいと思います。
▼浅草橋にオープンする店舗についてはnano-coffeeroaster様のInstagramで最新情報をご確認ください!