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2024年に行った展覧会5選

2022年から本格的に始めた美術館巡り。
2024年も22の展覧会を観に行くことができました。

筆不精ゆえ感想を書けていないものが多くて情けないのですが、かといって今からすべて書くのは大変なので、特に印象に残っているものを5つ選んで書いてみようと思います。

東京ステーションギャラリー「生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真」

戦前の写真家、安井仲治の回顧展。
作品数が多くて見ごたえありました! スナップは市井の人や風景に向ける視線の鋭さと暖かさを感じたし、半静物や前衛写真はいろんな物を能動的に面白がって眺める精神が伝わってきた。

使われている技法も作風も多彩で、日本写真の歴史を自然に辿れて勉強にもなりました。初期のブロムオイル印画に「インクのタッチがうまく出せている」なんて、まるで絵画作品に対するような批評が残っていて、こういう写真の世界もあったんだな~と新鮮に感じた。

ネガとプリントがあわせて展示されている作品もあって、撮影後に自分の理想に画面を作っていくプロセスが見えたのも良かったな。
「メーデー」連作がとくにわかりやすくて、撮った写真の一部を拡大したり、他のショットと合成したり、かなり大胆に加工しているんだけど、元のショットよりも現場の迫力や参加者のギラギラした熱意が伝わってくる画面になっているんですね。

写真の加工を悪とする意見もよく見るけれど、写真表現ってもっと自由に考えていいんだな、と少し視界が広がった展覧会でした。

図録も論考や安井本人の手になる文章も多く掲載されていて、かなり読み応えがありました。写真家四十八宜しゃしんをうつすひとよんじゅうはちよろしのユーモアにくるんだ鋭さがとても好きだ。


百年後芸術祭 内房総アートフェス

地元で開催された本格的なアートフェス。
子供の頃から慣れ親しんだ場所がアーティストの手で再解釈され、新しい顔を見せてくれるのが新鮮で、見方が変わってくるのが得難い経験でした。
とくに袖ケ浦公園エリア・進藤家住宅の大貫仁美「たぐり、よせる、よすが、かけら」と木更津エリアの小谷元彦「(仮設のモニュメント)」が印象的でしたね。
(袖ケ浦エリアを鑑賞した時の記事はこちら)

大貫仁美「たぐり、よせる、よすが、かけら」
小谷元彦「Ⅴ(仮設のモニュメント)」

ただ、木更津エリアや富津エリアの作品を見に行った際は、看板やwebサイトが不親切で作品が見つけられない→ようやくたどり着いてもその場でチケットが買えず門前払い のコンボを何度も喰らって心折れかけました😢
次があるなら改善してほしい。パスポート買う人だけじゃないんやで……。


アーティゾン美術館「空間と作品」

アーティゾンが誇るコレクションの「展示されていた空間」や「来歴」、「額縁」など、周辺情報にフォーカスして作品を別の角度から味わう展覧会。

「美術館に入る前、この作品はどのように鑑賞されていたのか」を見せるために、インテリアとともに展示してみたり、畳敷の小上がりから生で襖絵を見られるようにしているのがとても新鮮でした。
コレクション展って、こういう見せ方もあるんだなあ……。
「この作品を描いた人はこんな作品を持っていました」って来歴の見せ方も納得感・意外性両方味わえたし、額縁にまつわる作家のこだわりや面白いが聞けて、図録では味わえない「額縁を含めた作品鑑賞」を楽しめた。

キャプションも砕けた優しい文章で、マニアックな知識や裏話を教えてくれたり、「これまで紹介した内容を踏まえて、改めて作品を見直してみて!」と優しく促してくれて、作品の見方を変えてくれた。
学芸員さんの人柄を感じると言うか、「前に見たことあるかもしれないけれど、うちの作品、まだまだこんな魅力があるんですよ!」って語りかけてくる感じ。素敵な展覧会でした。


東京都現代美術館「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」

精神科医にして日本現代美術の一大コレクター、高橋龍太郎氏のコレクションした作品を通じて、戦後から今に続く現代美術史を辿る展覧会。

これを本当に一個人が所蔵してるの?! と驚いてしまうような巨大なスケールの作品がこれでもかと並んでいて圧倒されました。作風も多彩なんだけど、どこか通底するところもあって、コレクションする行為にも人格がにじみ出るものなんだなと。

これまであまり日本の現代美術に触れてこなかったので、作家や作品に興味を持つきっかけになった展覧会でした。(鑑賞当時の記事はこちら


千葉市美術館「Nerhol 水平線を捲る」

何枚も重ねた写真に彫刻を加えたアート作品を数多く発表しているアーティストデュオ、Nerholネルホルの大規模個展。

画像だとあまりピンとこなかったのですが、実際に作品の前に立ってみると、うねるような画面の迫力がダイレクトに感じられてとても印象深かった。
近くで見ると北斎のヂリヂリした筆描きの線を思わせるし、少し離れて見ると、画面はゴッホのようなうねりを感じる。

オーケストラの写真は演奏によって震える空気の流れが可視化されているようだし、建設途中の家屋の写真は、彫刻によって勢いよく燃えているようイメージを付加されている。

本展は「移動」が一つのテーマになっていて、Nerholのお二人が近年興味を向けている「帰化植物」を取り上げた作品が多く展示されていたのですが、
花粉や種子を拡散させるワサワサとした空気の動きを感じたし、なんなら画面それ自体がアメーバのようにうねうねと動き出してどこかへ行ってしまう姿さえ連想してしまった。

本展は展示室内にキャプションがなく、ちょっと解釈に困るところもあったのですが、運良くアーティストトークに参加してお二人の話を直接聴けたことでいろいろと腑に落ちたところがありました。

まず、大量に複製された黒い円に彫刻を加えることで個性・唯一性を付与しようとした「Circle」という作品で、重ねた紙を彫る手法に手応えを感じたそうです。

重要作品なので展示室の中心に配置されている。

そこから、連続撮影したモデルの写真に彫刻することで、被写体の微細な動きやそこに流れる時間を可視化するポートレートシリーズに着手。

この頃は被写体の動きを表現することを第一に、高精細に撮影・プリントし、紙の断面が見えないようデザインカッターで丁寧に切りぬいていたそう

その後、アーカイブ等から引用した既存の写真を引き伸ばして使用したり、紙の断面を描線のように残したり、元の写真になかったニュアンスを彫刻によって付与する作風にシフトしていく。

水面に映った像に石を投げ込んだような

果ては、被写体でなく「紙という素材」「彫刻する行為」自体にフォーカスしていき、その土地固有の植物を漉き込んだ紙を電動工具で削っていく作品が生まれた……といった作風の変遷、それぞれの作品における制作意図が聞けたのがとても面白かった。

フカフカの和紙の束と彫刻

▶2025年の気になる展覧会

2025年は大好きな千葉市美術館が開館30周年を迎えるとのことで、浮世絵や日本美術、現代美術のコレクション展が開催されるようなので、ちばしびフレンズに登録して通いたいなと思っています。

あと気になるのは、生誕150年を迎える上村松園の回顧展。
大好きな画家だから絶対観に行きたい! けど、中之島美術館遠いんだよなあ……! まあ、こんなこともなければ大阪行くことないし、いい機会かも。2024年の福田平八郎展も遠いからって観に行かなかったのちょっと後悔しているし……。

2024年に読んだ辻惟雄『最後に、絵を語る』を読んで、狩野派や土佐派等の正調の日本画に興味が湧いたので、トーハクの大覚寺展や、三井記念美術館の応挙展も楽しみ。昨年のやまと絵展は、あまりピンとこなくてスルーしちゃっていたから、今年は積極的に見に行きたい。

他にも、昔から好きだったビアズリーや、DIC美術館や国立近代美術館で作品にを見て惹かれたジャン・アルプの展覧会もあるようで。
公立の美術館はこれからまた情報が出てくるでしょうし、2025年も楽しみが尽きなそうです。
無理のない範囲で、たくさん見に行くぞ~!