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2024年6月の読書記録

昨年までは、読んだ本の感想を逐一読書メーターに残していたんだけど、続けていくうちになんだか息切れしてしまった。かといってまったく書かないのも消化不良だしもったいないので、月に数冊に絞って再開することにしました。

今ごろ6月の読書をまとめてるあたり、今後も続けていけるか甚だ怪しいところですが、お付き合いくだされば嬉しいです。

2024年6月の読書

https://bookmeter.com/users/1257218/summary/monthly/2024/6

6月に読めたのは13冊(うちaudible7冊)でした。
バランスいいっちゃいいのかな。

印象に残った本

ベスト3ではなく感想を書きたくなった本ピックアップしています。

🎧「帝国妖人伝」伊吹亜門

山田風太郎の歴史小説に「幕末妖人伝」という、最後の一行で題材となる人物の名前が明かされる趣向の連作短編があるのですが、本作ではこの「幕末妖人伝」の趣向を探偵小説に組みこんでいるのが大きな特徴。

どの話にも必ず歴史上の人物が登場して、その人が探偵役を務める。事件の謎とともに、「探偵は誰か?」という謎も楽しめる。
なかなか縛りのきついフォーマットですが、マンネリにならないよう探偵役と事件との絡め方にそれぞれバリエーションがつけられていて巧みです。

ただ、各話のミステリ的な興味よりも、「妖人」たちの活躍をすぐそばで見届け綴るワトソン役の作家・那珂川二坊なかがわふたぼうの物語が自分にはかなり刺さった。
善良な凡人の彼が、戦中・戦後の世相の中で、アイデンティティを不可逆に毀されても作家としての業を捨てられず、苦しみながらも立ち上がる姿にかなりグッときてしまった。

山田風太郎への誠実なオマージュであり、「不可思議な人間心理の妙を、小気味のいい物語の託して描」いた、優れた作品集だと思いました。これまで読んだ著者の作品では一番好きだなあ。

audible版のナレーションは聞き取りやすくて演じ分けも上手く、とくに終盤の二坊先生の語りには大変引き込まれたのですが、audibleで聴いたあとに原作買ったら、時代を感じさせる台詞回しの漢字・仮名遣いが素晴らしくて二度楽しめました。
とくに一話の房次郎さんの京都弁、第二話の泰道さんの熊本弁は絶品。

一編選ぶとすれば、第一話「長くなだらかな坂」が好き。
登場人物の少なさもあって事件の真相はかなりわかりやすいのですが、「なぜ彼はそんな計画を企てたのか」「なぜ彼は探偵役を務めたのか」という二重のホワイダニットの先にある、あまりに純粋で切実な情念が印象的でした。

🎧️「百人一首――編纂がひらく小宇宙」田渕句美子

「百人一首」は、藤原定家が編纂した「百人秀歌」を元に、別人が再編したものではないか? という新説の検証をベースに、「百人秀歌」と「百人一首」それぞれの編纂意図や、「百人一首」がどのように引き継がれ受容されてきたか等、様々な面から百人一首の魅力を解説した一冊。

百人一首ってかるたでしか知らなくて、「そもそも百人一首に決まった順番なんてあったんだ~」レベルの認識だったのですが、それでも滅法面白かったです。
「百人一首は藤原定家が編纂した」という通説が、これまでになかった観点から徐々に覆される様はミステリのよう。
(調べると定歌非撰説には異論もあるみたいだけど、こういう説や議論を知れた事自体が嬉しい)

「百人秀歌」から「百人一首」で追加された二首(後鳥羽院・順徳院)がどんな政治的な意味合いを帯びているかや、「百人秀歌」とほぼ同じ和歌群なのに「百人一首」の配列では和歌の歴史を俯瞰す構成になっているって話が特に面白くて、ここはもっと詳しい解説が読みたかったなあ。

📖「迷彩色の男」安堂ホセ

芥川賞候補作。
とあるクルージングスペース(ゲイ同士の交流スペース、いわゆるハッテン場)で発生した傷害事件を発端とする物語なんですが、警察の捜査が展開されるわけでもなく、被害者の「いぶき」と親しくしていた主人公の内省的な語りが淡々と続く、結構あらすじの書きにくい物語です。

主人公の心の動きが追いづらい、難解な作品なんだけど、だからこそずっと反芻してしまうというか、「彼はこう考えていたんじゃないか」「あの表現はこういう意味を含んでいたんじゃないか」とずっと考えてしまう作品でした。

読書メーターの感想を見ていると、「ブラックミックスのゲイの物語」とまとめているものが結構目につく。確かにいぶきも主人公も黒人とのミックスでゲイ同士だからその通りではあるんだけど、でもこの話って自分たちのすべてを「ブラックミックスのゲイの物語」とまとめられることへの拒否感を描いてるものだと思ったので、何とも言えない気持ちになった。

主人公は、青い照明で男たちの個性を塗り潰してくれるクルージングスペースでしかいぶきと会わないし、そこから二人の関係を外に出すことを恐れている。二人の間柄に、その特性ゆえのドラマを見出されることを憂いている。

いぶきのための復讐の犯行にすら「ゲイフォビアによるゲイカップル殺し」っていう迷彩をかけて、二人のつながりを秘そうとしてる。巻き込まれた人はたまったもんじゃないけど、主人公にとっては切実なものだったんだと思う。

主人公といぶきのふれあい(情交や、被害を受けた彼の体に触れるシーン等)が、そういう社会的なタグ付けをとっぱらったプリミティブな身体感覚で描かれているのが印象的だったな。

群衆の間で乱反射して増幅される悪意がカジュアルに人を殺しうる現代社会の描写も、デフォルメされているけどすごくリアルに感じられた。
そういう悪意の矛先が向けられがちな属性を持つ主人公は「NPC」という迷彩を纏って日々をやり過ごしているわけで、その閉塞感を垣間見るようで苦しかった。
いぶきはそういう悪意に無防備なんだよね。主人公はいぶきのそういうとこにも惹かれたんだろうな……。

しかしこういう感想って文章しようとするとどうも陳腐になってしまうなあ……。