映画『Chime』不可解に触れる
『漁港口の映画館 シネマポスト』では黒沢清監督待望の新作『Chime』が10月11日迄公開となります。
作品から派生して不可解について考えてみます。
奪うことが目的による詐欺、暴力や殺人といった謂わば欲望に起因した自分本位の犯罪行為は明確な罪と罰が付帯します。
一方で世の中には不可解な事件が横行しています。起こした側が神経衰弱で括られる理不尽な顛末です。
刑法39条には「心神喪失者の行為は罰しない」そして「心神耗弱者の行為は刑を減軽する」というこの2つは任意ではなく、義務で刑が減軽されれば最大で無期懲役ということになります。
その点をテーマに描いた小説もあります。
結局、起こした側に何がその人の中で起こったのか、誰も分かりません。
その要素を深く掘り下げ、空想であっても起こり得るという考え方をリアリズムと捉えて映画表現に昇華したのが、黒沢清監督の持ち味であり、‘分からない’という事実を恐怖に見立て、その思想性は捉えどころのない魅力へと転化されてもいる点が凄さと解釈できます。
確かに想像の範疇は当然広く、様々なイマジネーションの提示も可能です。
黒沢清監督作品は一見、ホラーのようにジャンル分けしたがる日本のメーカーの営業的側面からイメージ優先の感がありますが、実際は非常にジャンル不能な作品傾向があり多面性を孕んだ行間で惹きつける作品と見るのが正解だと私は思っています。
黒沢清監督は紛れもない映画系譜を汲んだ映画作家です。黒沢監督が東京芸術大学大学院で映画論を教えていた折の生徒に現在、映画界で大活躍の濱口竜介監督が生徒にいました。濱口監督も黒沢イズムの薫陶を色濃く影響を与えられた一人です。
今回の新作『Chime』は黒沢監督のインタビューからも100%好きなように作ったとあるように、原初的な持ち味を活かした純度の高い黒沢清ワールドが楽しめる完成度の高さを感じることができると思います。
撮影、音楽、編集と初めて黒沢清監督作品をご覧になる方にもある種の何かが残るものがあるかもしれません。
映画『Chime』ぜひその不可解に触れて
みてください。
【漁港口の映画館 シネマポスト 現在公開作品のご案内】
いびつな恐怖に支配される映画『Chime』。国内外で熱狂的なファンを持つ黒沢清監督最新作。
本作はメディア配信プラットフォーム・Roadstead オリジナル作品第一弾として、「自由に作品を制作してほしい」というオーダーから作られたホラーでもサスペンスでもない極めて純度の高い“黒沢清”の描く恐怖が詰まった作品となる。
主演は、吉岡睦雄。名バイプレイヤーとして数多くの作品に出演してきた吉岡が、黒沢監督作の初主演を飾る。
チャイムとは何なのか、どこから聞こえてくるのか、人を狂わせるサインなのか......。
『漁港口の映画館 シネマポスト』開館1周年を迎えることができました。
日頃からのご愛顧に心より感謝申し上げます。今後も観ていただきたい、映画の本質に適う作品を選りすぐり、ご提供してまいります。
引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。
多くのお花をお贈りいただきました。
本当にありがとうございます。