新作が公開、一線で活躍し続けている脚本家、映画監督の三谷幸喜氏。
彼の多くのライブラリーから最も好きな作品を選ぶとしたら、私は『合い言葉は勇気』になります。1990年代半ばの連続テレビドラマです。素晴らしい作品ですので、未見の方にはオススメしたくなります。
どのような作品かはこの稿では割愛します。
当時番組終了後、数年以内に『合い言葉は勇気』の脚本が文庫本で発刊されました。勿論購入し読了するのですが、私はその折で初めて三谷氏の脚本を目にしました。
そこで、まず衝撃を受けます。
ト書きが殆ど無いのです。ト書きとはセリフ以外の動きをテキストで表す意味です。場面の説明はシーンの項番表題で把握できますが、詳しいディテールのト書きはほぼ無いのです。
会話からイメージするしかありません。
ある意味、映像よりはしばらくシーンを変えずに済む舞台に適した脚本のように感じました。
セリフの妙は展開のずば抜けた構成によって惹き込まれます。
つまりカットを割るという概念ではなく、芝居を見せていくことに傾注した脚本であることが良く理解できました。
撮り方はマルチ撮影で終始してしまえば必ず形になる想定ではないかと捉えられます。マルチ撮影とは登場人物全員を捉えたマスターショットと単独の人物撮りにおける話す側と聞く側のそれぞれのショットを同時に撮影することを意味します。その場合だとカメラは3台必要になります。
マルチ撮影はスタジオで撮影する場合、設備的に当たり前な技法です。確かにテレビ作品ならば構図にこだわる必要はなく、言葉に注力できれば十分成立する映像世界観だと『合い言葉は勇気』の脚本から窺い知れます。
映画の脚本は全く逆です。
セリフは少なく、充実したト書きが求められます。構図と背景に映像世界観が集約されるからこそ、そこを曖昧な表現にすると場所や環境は何処でもよくなってしまうのです。重視するポイントが芝居か映像美かで分かれてきます。
テレビ作品の映画化においても、映画フォーマットに沿う作り方へそれなりの変換は必要になります。
また作品のテイストが完全なエンタメかアートタイプかでその方法論の有効性も異なるかもしれません。
しかしながら、映画における脚本は明らかな設計図なのでト書きは生命線と呼べるものと考えます。
多種多様な映画の作り方があります。
必ずという方法論とは違いますが、精緻で練られたものに外しは無いと私は思います。
【漁港口の映画館シネマポスト 公開中作品紹介】
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シネマポストでは字幕版と日本語版の2タイプを上映いたします。
開始時間をお間違えのないようにどうぞお気をつけ願います。
【『幽霊はわがままな夢を見る』公開情報】
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