これから、"ホラー映画"、をみる①/映画編#10


連日の酷暑ですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。涼をとるにはいろんな手段があります。
アイスを食う。いいでしょう。日傘を差す。いいでしょう。

そして、ホラー映画をみる。これもまた、いいでしょう。

今回は溺愛する狂人から逆に文字も見たくないほど嫌いなひとまで、好みに大きな幅があるジャンル、"ホラー"映画の紹介です。
これからシリーズでは、そのジャンルを一度も見たことがない人向けに入門に良い映画を紹介してきましたが、特に今回はホラーを食わず嫌いしている方に強く働きかけたい!あなたは、ホラー映画を、苦手"""ではない"""可能性があるのです…!!!はてどういうわけか、まず「ホラー」とは何か、から始めましょう。


〇ホラー映画とは何か、怖いとは何か


ホラーの映画、つまり怖さをウリにしたりテーマに据えた映画は割と古くから存在してきました。手法や特徴が分派に分派を重ね、様々な種類の"ホラー"が誕生して久しい現代では、押し出す怖さにも種類がある、という寸法です。

そして多くのひとが誤解している点がひとつ。ホラーは必ずしも突然の音や映像で脅かす映画、とは限りません。もう一度言います。急に幽霊が出てきてギャアアア!!!とならないホラー映画もたくさんあるのです。ホラー映画が苦手と思っているひとの多くは、このビビらせ────ショッカー要素、ジャンプスケア要素がある映画とも言います────に苦手意識を持っているだけで、逆に急に来なければ平気な場合も。
今回紹介するのは、そういうショッカーではない国内ホラー映画たち。急に何かがウワッと出て驚かしてこない邦画たちです。
(以上の話に興味があるひとは脚本家である小中千昭の著書「ファンダメンタル・ホラー宣言」、「恐怖の作法」をオススメします。)

(あと結果的にNetflixものばかりとなり、Amazon Primeで観れるものが挙げられませんでした。次回、海外ホラー映画編はPrime多めにします。)



 ●黒沢清「クリーピー 偽りの隣人」(2016),Netflix

本質情報→幽霊:なし!, 突然の脅かし:確かなし!

倍返されおじさんとして引っ張りだこの香川照之がとにかく怖い映画、「クリーピー 偽りの隣人」。
引っ越し先のご近所が変なひとだと萎えますが、その度合いが異常だったらどうなるか。日常に潜む恐怖が描かれます。そして名セリフ「あの人、お父さんじゃありません」。お父さん、じゃ、ない…???じゃあ一緒に暮らしている、あの男は一体、だれ……?
ホラー要素は控えめでミステリー要素が強い本作は、ホラー映画入門に最適でしょう。犯罪もの邦画が好きなひとにもおすすめです。


 ●中田秀夫「リング」(1989),Netflix

予算の無さが伺える初代のポスター。ビデオに殺されるなんて。の、なんてがいい味。

本質情報→幽霊:貞子だけ!でもゆっくり来るから大丈夫!, 突然の脅かし:なし!

ホラー映画といえばこの人抜きには語れません、貞子です。テレビの画面から這い出して来るあの姿が有名ですが、実はショッカー要素のあるシーンはありません。安心して(?)ご覧ください。
「リング」が怖いのはそこじゃあありません。作中出てくる通称"呪いのビデオ"、こいつが怖いというより、もう禍々しい。あぁこんな映像見るんじゃなかった呪われる…と本気で思う演出が素晴らしいのです。ちなみにグロ描写もなければ痛い流血もありません。
ここから先は独り言。予告編を探していたらあなたと繋がるyouなにやらの動画配信サービスにて、「リング」がまるごとアップロードされているではありませんか。けしからん、けしからん。通報通報と…


 ●黒沢清「回路」(2001),Netflix

本質情報→幽霊:来るけどゆっくり、でもトラウマ級に怖いよ!, 突然の脅かし:なし!

最後に紹介するのは、最初に挙げた「クリーピー」と同じ黒沢清監督の過去作品「回路」。これは、もう、ほんとうに、怖いです。ホラー邦画の中で1番怖いのを選ぶなら、問答無用文句なし即決即断で「回路」。怖すぎるので体調がいいときの鑑賞を勧めます。

ホラー映画って往々にしてストーリーや映像的モチーフがないがしろになるんですが(怖さを追究する結果)、「回路」の場合脚本がめちゃくちゃ巧み。インターネットという、ここではないどこかと繋がるシステムが、異次元とこの世界を結びつけてしまう。言うなれば他者と繋がってしまう恐怖がベースにあるんです。2022年現在でも、インターネットのこうした接続の恐怖を映像表現として昇華できているホラー作品は他にないんじゃないでしょうか。先見の明とはこのこと。


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以上3作品を紹介しました。「リング」や「回路」なんかが好例ですが、日本の作品は幽霊の概念を、テレビやインターネットといった情報媒体の中に幻視しがち。その深層にあるのは、知らない誰かと繋がる恐怖、知らない誰かが入ってくる恐怖。海外の、自分が行ったら酷い目に遭う類いのホラー映画のイメージとは真逆ですよね。ホラー映画を通して、自分は何が怖いのか、映像のどこに恐怖を抱いているのか、そういうメタ思考を走らせると楽しいかもしれません。

涼はとれずにヒートアップしそうな気もしますが。

さて、第2回は急に脅かしにこない、ショッカーじゃないホラー映画海外編!!ホラーのジャンルの話もします。


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