これから、"おしゃれ映画"、をみる。/映画編#12
おしゃれ、とはなにか。
weblioではこう定義されています。
概ね良いのですが、じゃあ"洗練"とは?と聞かれる可能性があります。そこで今回はおしゃれを次のように定義しましょう。
おしゃれ:
あらゆる要素について細部まで特定の意志に沿って統一されている
さま。また、そのさまに自覚的である状態。
さて、最初に挙げる作品はよく"おしゃれ映画"として言及されるこちら。
●「グランド・ブダペスト・ホテル」,ウェス・アンダーソン(2014), disney+
ときは1932年の老舗ホテル。常連客の遺産を巡って、支配人とベルボーイがヨーロッパ全土を舞台に駆けずり回る。
おしゃれ映画といえば、このひと、ウェス・アンダーソン監督です。鮮やかな色使いと極端に平面的な映像に固執する作家で、多くの(熱狂的な?)ファンがいたりいなかったり。
衣装はもちろん小道具から音楽まで、画面を構成するあらゆる要素をコントロールしたがる点が非常に特徴的。おしゃれ、の定義にまさに合致する作家です。(先ほどの定義は≪おしゃれ=強い作家性≫を必ずしも意味しません。重要なのは、監督がどこまで掌握したがるか、なのです。)
ただ、彼の作風にスカし感/スノッブ感をおぼえる方がいるのも事実。おしゃれには、常にカッコつけ感がついて回ります。
2022年現在、彼の作品のほとんどがdisney+限定配信となっています。興味がある方はぜひそちらへ。イチオシは「ライフ・アクアティック」。
●「人生はビギナーズ」, マイク・ミルズ(2010), unext
「私はゲイなんだ。」老いた父親はそう告白して、末期ガンで亡くなった。戸惑う主人公はフランス人の役者と交流していく過程で人生の意味を考え始める。
ウェス・アンダーソンがフランス的な=前衛芸術的な作風、と見立てると、こちらのマイク・ミルズ監督はアメリカ特にニューヨーク的な=現代アート的な作風と言えるかもしれません。最新作の「カモンカモン」にもニューヨークが出てきますしね。
都市で暮らす人間が描かれるマイク・ミルズ作品は、極端な色使いやデコラティブな意匠なんかは登場しません。むしろ地味なくらい。しかし、どこかおしゃれに見える。そのマジックのタネは撮影と編集の妙にあります。一歩引いたカメラ視点とローテンポなサントラ、リズムよく切られる編集によって独特の美学が全体に通底しているわけです。
お洋服の言葉で例えるなら、ウェス・アンダーソンは渋谷のハイブランド店舗で揃えたセットアップ、マイク・ミルズは青山のセレクトショップで揃えたセットアップ、みたいなイメージです(伝わる…?)。
●「ベイビー・ドライバー」,エドガー・ライト(2017), amazon prime/netflix
強盗の逃がし屋を請け負う天才ドライバーのベイビーは、ウェイターとの運命的な出会いを機に足を洗う決意を固める。のだが。。
ていねいな暮らし系統が続いたので最後は荒っぽい作品で締めましょう。エドガー・ライト監督の魅力はなんといっても音楽との同期性。MV以上に音ハメを強調する演出や、音楽を流すことそれ自体についてのテーマなど、全体が音楽を軸に統制されていきます。
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以上、おしゃれな映画おしゃれ映画の紹介でした。クールにバシッときめるおしゃれ映画も、たまにはいいもんです。
おしゃれ映画とコインの裏表に、"バカ映画"があります。あらゆる思考を停止してごちゃついた画面をひたすら楽しむ、あとには何も残らない、残るとすれば圧倒的爽快感!それがバカ映画。徹底的におしゃれならざる姿勢を追求する、あれ、それは別のおしゃれの形なのでは…?という話は、してはいけません。
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