これから、“ホラー映画”、をみる②/映画編#11


前回に引き続き、急におどかしてこない映画を紹介します。第2回は海外編。



〇ざっくり把握、ホラー映画の歴史


本題へ行く前にホラー映画の歴史をざっくり紹介しておきましょう。前提として日本でホラー映画が脚光を浴びたのは90年代後半以降と比較的最近のこと。ホラー映画はアメリカで進化発展してきた、と理解しておけば問題ありません。また一口に"ホラー映画"と言ってもいろんなサブジャンルが存在します。(裏を返せばそうしたジャンル分けとセグメント化で延命してきた、とも言えます。)

まずはオカルトもの。20世紀初期からじわじわと作られてきたジャンルです。人間の常識を超えた怪異、例えばフランケンシュタインの怪物などを題材にします。80年代に入るとスプラッターものが人気になります。コスプレした殺人鬼がひどいことをする映画。怪物は出てこず、現実でひとがたくさん死にます。血がたくさん流れます。90年代に入るとサイコものが登場。スプラッターものの殺人鬼はマスクを被ったり爪を伸ばしたりとキャラ作りに熱心ですが、サイコものの殺人鬼はそんなことしません。頭脳明晰で刑事を翻弄する知的な犯人(サイコパス)が大暴れします。


〇Jホラーとは


と、ここまで見て頂ければわかるように、(少なくとも2000年代までの)海外ホラー映画には幽霊があんまり出てきません。映像としての派手さ、アクションシーンを展開できる構成を考えた時、幽霊は都合が悪いのです。なんだか浮いてる白いなにか、よりもチェーンソーを掻き鳴らす殺人鬼の方が見栄えは良いですよね。もちろん、アメリカの場合は大戦・冷戦・赤狩り・凶悪犯罪といった現実世界での恐怖が鮮明でした。だから抽象的な幽霊を扱いにくかったのかもしれません。

前回挙げた中田秀夫「リング」(1998)は、こうしたタイミングで出現します。映画ではなくレンタルビデオの文化圏から産み落とされた「リング」は、その異色さで話題を呼びました。奇怪な殺人鬼は登場せず、しかも急になにかで驚かすこともない。のちに海外では、こうした特徴を持つ日本のホラー映画を総称して、Jホラーと呼びならわすようになります。



〇おどかしが本当に嫌なひと向け、必勝法

いよいよ紹介に入りたい所ですが、以前「怖いシーンは嫌だけどホラー映画はみたい」との相談を受けたことがあります。そういう人向けに、ホラー映画の楽しみ方をお教えします。

1.音を消そう


面白いホラー映画は、映像で物語を駆動します。つまり音を消しても話は分かる場合がほとんど。怖そうな音楽が鳴り始めて来るぞ感が高まったら音を消しましょう。音が無いだけでけっこう軽減されます。

2.分けてみよう


一気にみるから怖いのです。ホラーは恐怖を蓄積して怖がらせますから、そこを突きます。何度かに分けて見ましょう。

3.慣れよう


スパルタとはいえひとつの真理。たくさんホラー映画をみると経験値が貯まって勘が鋭くなります。怖がらせる手法には型があるので、それを体得しておけばあとは予知するだけ。(例:ドアを開けたら誰もいない、ふぅ~、振り返ったらドン!, 鏡つきの洗面台、ドアを開けて閉める、と背後にドン!など)
ホラー映画の楽しみ方とは、上に書いたよう型でいかに怖がらせられるか、ではありません。どうやって恐怖を蓄積していくか、なのです。新しい恐怖の感じさせ方、ユニークな恐怖演出を楽しみましょう。



〇Jホラーぽい、海外映画


さてようやく本題です。急に脅かしてこないホラー映画、Jホラーっぽい海外の映画を紹介しましょう。見やすさも考慮して4つ挙げました。

●「聖なる鹿殺し」(2017), Amazon Prime

本質情報→幽霊:なし!, 突然の脅かし:1時間52分20秒頃、銃声が鳴るよ!

裕福で幸せに暮らす一家に忍び寄る影。バリー・コ―ガン演じる謎の青年が一家を崩壊に導きます。
幽霊なし、流血(ほとんど)なしですが、高まる緊張感と恐怖は一級品。パスタを食べるシーンは必見です。


●「イット ・フォローズ」(2015), Amazon Prime

本質情報→幽霊:に類するのは出る, 突然の脅かし:少なめ,なくはない。

ある男から「それ」をうつされて以降、他の人には見えないはずのものが見え始める…

脅かしがないものを極力探しましたがやはり至難の業でした。「イット・フォローズ」はオススメですが数回脅かしが入ります。
さて、本作が特異なのは描かれる恐怖の対象。「リング」であればレンタルビデオ、「回路」であればインターネット、「聖なる鹿殺し」であれば過去の罪でした。「イット・フォローズ」の場合は生殖行為が恐怖の対象なのです。
気になった方はぜひご覧ください。設定だけみるとバカっぽいんですが、いざみると真剣にホラー映画に向き合う意欲作。生殖を呪詛として再定義した、興味深い作品です。

もちろん怖い。


●「へレディタリー 継承」(2019), Amazon Prime

本質情報→幽霊:出る, 突然の脅かし:33分25秒頃,1時間53分頃の2回!

いま一番怖くて面白いホラー映画は何か。「へレディタリー」です。ばあちゃんの遺産相続をめぐって家族がたいへんな目に遭います。財産分与は慎重に…。

サックスが素晴らしいサントラや計算された画面構成など、全体としての完成度が非常に高く、また怪異描写がどれも新鮮で最高のホラー映画です。
留意すべきはグロ要素でしょうか。さほど血は流れないものの、一部がとれたり一部をとったりします。トラウマになりかねないので苦手なひとは避けましょう。

(補足)
同じ監督の作品に「ミッドサマー」があります。山間のカルトに迷い込んだ主人公が"解放"される、という筋書きでホラー映画オタクがよく勧めがち。これは見なくてもいいやつです。お話自体はテンプレで、怖さより悪趣味さを楽しむ映画。ずっとグロ/ゴア描写が続きます。



●「A Ghost Story」(2017), U-NEXT,Hulu

本質情報→幽霊:出るけど全く怖くないよ!, 突然の脅かし:なし!

死後幽霊となった男が、独り身になった妻のもとを訪ねる。幽霊だから会話は出来ない。ただ、見ることだけ。幽霊になった彼は目撃します。生活の歴史を。そしてひとからひとへ受け継がれるなにかを。

ラバーガールのコント動画に「怖い話をオバケ側の視点で話す人」てのがありましたが、それを映画でやった作品。驚かすシーンがないどころか、怖いシーンもほぼありません。大河もの、ラブストーリーと言ってもいいでしょう。
映像における恐怖の本質はどこにあるのか、怖いとは何か。Jホラー作品たちが試みたのはそうした問いへの回答でした。恐怖を抱かれる幽霊も、何かの意図があって干渉してきているはず、では幽霊側の物語があってもいいじゃないか。だから、「A Ghost Story」。
おどかしを排して恐怖を追求したJホラーは、幽霊=理解不能な完全なる他者について、再考を迫りました。近年海外では、こうした"怖くない"幽霊ものが増えています。Jホラーの遺伝子は変質し、海の向こうで進化を続けています。



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以上、Jホラーぽい海外のホラー映画たちでした。おどかしを含む作品も挙げましたが、本当に嫌なひとは必勝法を参考にしてください。

これからシリーズの次回は「これから、"ディズニー/ピクサー映画"、をみる。」を予定しています。

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