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次世代を育成する環境を ~撮影助手いない問題を紐解く その4

こんにちは!シネマトワ管理人です。

このnote「シネマトワ」では、人材サービスや企業人事に従事してきた管理人目線で、また一人の映画・ドラマファンとして、撮影現場がさらに魅力的な職場になっていくことを期待しつつ、撮影現場や映像エンタメ業界で起こっていることをレポートしています。

前回に引き続き、
現場課題としてある、撮影助手不足を進める「5つの問題」
について、掘り下げていきます。

1.拘束時間がかなり長く過重労働の場合も
2.報酬が労働時間のわりにあわない
3.コンプライアンス問題、契約があいまいな商習慣と
  ハラスメントが解決されにくい職場の構造的問題
4.次世代を育成する環境が成立しない構造的問題←今回はここ!
5.共通課題の「予算」構造

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育成やフォローが現場によりばらつきがある

一般企業に入社する新卒ですと、受け入れた会社はできれば辞めてほしくない動機が働くわけですから、教えたり、ミスしたらフォローしたり、指導してくれたりします。丁寧にフォローしないベンチャー企業であったとしても、誰かしら仕事についてわからないことは聞けたり、同じ仕事をしている先輩がいたりすることから、仕事を覚えていくのはさほど難しくはないでしょう。

一方、撮影現場は多数がフリーランスで構成されているため、毎回座組が変わるのが前提です。初めて撮影現場で見習いとして入る機会に恵まれたとして、ドラマだとワンクールで3~4か月、映画でも短いと数週間~2か月で撮り切るケースもありますから、世話好きの先輩や教えるのが上手な先輩がいる現場に運良く入れたとしても、その中で仕事を全部覚えるのはなかなか難しいでしょう。それが、まったく仕事を教えてもらえず、フォローもなく、相談もしにくく、仕事がわからないのに失敗したのを怒られ・・・なんてことが続いたり、さらに長時間労働が重なったりすると、気持ちが持たないと思います。
3月~4月から始まる現場には、「キラキラした目」をした新卒の子がまずは見習いからスタートで入ってくるそうですが、1か月後には来なくなっているか、目が曇っているか。そんな春の(残念な)風物詩?が撮影現場では見られるそうです・・・。
そして、あっという間にその現場は終わり、次の撮影現場の目途がなかったり、期間が開いてしまったりすると、「撮影現場よりもっといい仕事があるんじゃないだろうか?」と思ってしまう人がいてもおかしくないと思います。
もちろん、どんな業界であっても「育ててくれない、教えてくれない」というスタンスの新人では独り立ちまで時間がかかりますし、そんなスタンスの人とはあまり一緒に働きたくないなぁとは思います。また、ちゃんとケアしてくれる先輩フリーランサーに恵まれることもあるでしょう。ただ、業界が若手を育てにくい構造になっていることは明白です。

女性のキャメラマン・撮影助手キャリア

最近では、女性がキャメラマン目指して撮影助手からキャリアをスタートさせる方が徐々に増えてきているそうです(余談ですが、2023年公開キムタクと綾瀬はるかさん主演「レジェンド&バタフライ」の撮影監督芦澤明子さんは70代で活躍されています。それこそレジェンドですね!)。女性活躍はこの職場でも確実に進んでいるのですが、過重労働・長時間労働の問題や、「やっぱりお子さんがいると継続は難しいでしょう?」という固定概念があり、結婚や出産を考えている女性は継続を検討する人もいます。ヒアリングした方の中にはキャリアのために結婚や出産をあきらめる人もいました。
どれが良い選択かはご本人の価値観にもよるところなので、ここでとやかく言う筋はないのですが、もし、優秀な人がキャリアをあきらめるとしたら業界としては大きな損失です。ただでさえ貴重な撮影部人材がそんなことで業界を離れてしまうなんて、何か方法はないのかなぁと頭を抱えてしまいます。

ちなみに、私がいたホワイトカラーの世界では、「キャリアか、結婚・出産か、どちらかを選ぶ必要がある」という価値観は「いつの時代の話ですか?」で、そんなことをもし職場で役職者が口にしようものならパワハラ・セクハラもので経営や人事に告発される憂き目にあうことでしょう。
また、ちょっと前の女性活躍推進の波に乗り、多様な働き方を受け入れるための制度が必要とか、多様でないと組織が強くならないという組織論とか、1時間あたりの生産性を高めるにはとか、とにかくそんなことを経営や人事は取り組み課題としています。
それにそこにビジネスチャンスを見出して生産性を上げるITサービスとか、女性活用コンサルティングとかが会社のサービスとして成立するぐらいです。
ホワイトカラーだとマーケットが大きいので、そういった事業やサービスが成立するのでしょうが、撮影現場の働き方改革はマーケットとしてあまりにも小さく、課題はあるものの、やろうとする会社も少ないのだと思います(なのでそのジレンマの解決ができることが何かないかと思うのですが)。

それに、労働人口減少が止まらない圧倒的売り手市場の今、優秀な人材を確保するには、多様性に対応できないと、会社や職場として選ばれない時代です。
よりクリエイティブな作品、選ばれる作品を作るために、優秀なスタッフを戦略的に育てていく必要に迫られている時代に日本の映画・ドラマ業界も対応してくのか、それとも担い手が減っていき、業界として廃れていってしまうのか。引き続きまなざしを向けていきたいと思います(つづく)。