報酬が労働時間のわりに合わない~撮影助手いない問題を紐解く その2
こんにちは!シネマトワ管理人です。
このnote「シネマトワ」では、人材サービスや企業人事に従事してきた管理人目線で、また一人の映画・ドラマファンとして、撮影現場がさらに魅力的な職場になっていくことを期待しつつ、撮影現場や映像エンタメ業界で起こっていることをレポートしています。
前回に引き続き、
現場課題としてある、撮影助手不足を進める「5つの問題」
について、掘り下げていきます。
1.拘束時間がかなり長く過重労働の場合も
2.報酬が労働時間のわりにあわない←今回はここ!
3.コンプライアンス問題、契約があいまいな商習慣と
ハラスメントが解決されにくい職場の構造的問題
4.次世代を育成する環境が成立しない構造的問題
5.共通課題の「予算」構造
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報酬が労働時間のわりに合わない
過重労働はわかった。じゃあ、それだけ働いていれば、報酬もそれなりにもらっているかというと、そうではありません。
正確な年数は曖昧ですが、現場感的には少なくとも20~30年の間、撮影現場スタッフの報酬は変わってないと言われています。
サラリーマンの年収も伸びは他の先進国と比べると鈍化していますが、それでも人不足が深刻な業界、特に技術職や専門職では、人材獲得のために少なくとも報酬を改定していくか、求める働き方を変えていく傾向にあります。
撮影現場の人材においても人員確保のためにはそろそろ報酬アップなどの見直しが進んでいかないと撮影現場が成立しなくなるのではと思います。
撮影部でいうと、おおむね撮影監督、チーフ、セカンド、サード、見習いへの予算配分や金額感は決まっており、仕事のオーダーもその前提が多いそうです。
発注する各社の予算や考え方によるかと思いますが、全体的に「収入が低い」と感じている方が多いようです。
以下は前回も引用させていただいた調査結果です。
具体的な報酬の金額はここでは伏せますが、プロジェクトごとの金額だけ見ると、そこまでひどいものではないように思います。
たとえば、撮影助手の「サード」で一般企業の新卒の初任給よりは1つの制作でもらう報酬はむしろ良い方かもしれません。ただ、フリーランスが前提と考えると、報酬がない期間もありますので、平均すると変わらないか、低い可能性もあります(個人差はあるでしょうが)。
見習いとなるとお金をもらって実地研修しているようなインターン的扱いのため10万円/月と聞いたことはあります。こういう場合は、発注者さんの方でやりくりされたり、補助金が出ていたりするケースもありますので、一概には言えません。ただ、若手が一人で生活していくにはちょっと大変かな、という点は変わらないと思われます。
このあたり、撮影部をはじめとする撮影現場で働く職業に対する価値観が日本と欧米とで大きく違うところです。仕組みも違うのでまた別の記事で書こうと思います。
時間単価にすると。。。
支払いは時間単価ではなく、おおむね1か月でいくら、刻んだとして1日あたりの報酬×日数、という設定のされ方をします。
1日あたり、1か月あたりの報酬がセットされてしまっている中では、たとえば短い納期で仕上げるのに、その日のうちに撮り切ってしまわないと納期までに終わらない、予算も決まっている・・・となると、オーバーワークしてでも、深夜を回ったとしてもやる体制になります。フリーランスですから現状の規制状況ですと、労働時間に関しては無法地帯になってしまう構造です(17時間労働と考えると時間単価計算が怖くなります)。
余談ですが、最近では、売れっ子俳優さん、売り出し中の俳優さんが参加するとなると、その俳優さんが撮影に入れる日程が限られており、そうするとスケジュールも必然的にタイトになるようなこともあるようですね。
このあたりは仕方がないかもしれませんが、いずれにしても撮影期間・時間と報酬が見合ってないケースが多くなりがちというのがわかると思います。
それがいくらやりがいのある仕事であったとしても、馬車馬のように働いた結果、時間どおりに仕事の終わる同年代のホワイトカラーと比べて報酬は同じくらい、もしくは低い、となると、「なんだかなあ・・・」と当初の高い志がグラグラしてしまう若手もいることでしょう。
それが今の現場の皆さんの「収入が低い」という感覚にもつながるのかなと管理人は考えています。
生活の安定は期待できるのか?
ご想像どおり、生活の安定面でも若手が働くにはなかなかハードルが高いです。
撮影現場はフリーランスで働く人が全体の7~8割を構成しており、ひとつの制作が終わって次の制作が決まってないと、その間は営業活動やスキルアップ(たとえばドローンの資格を撮るとか、新しい機材を試すとか)、会計処理に時間を費やします。余裕がある方は有意義に長期旅行などの余暇として過ごされることもあるでしょう。
しかし、この間副業でもしていない限りはもちろん収入はありません。
うまく次の制作がつながっていればよいのですが、まだ撮影現場デビューしたフリーランスの若手ですと、次の現場にちょうどよいタイミングで続けて恵まれるケースは少なく、いい感じの人脈ができてくるまでは不安な日々を過ごすことになります。
若い人が思い切って撮影で身を立てていくには、もうこの時点でかなり勇気のいる選択になってきてしまいますね。
親御さんが反対する学生さんも多いんじゃないかなと想像できます。
フリーランスなら報酬の交渉はしないのか?
フリーランスの撮影助手が仕事を請ける際、報酬に関する交渉はしたりしなかったり。これは人によりで、たとえば「機材を持っているのでその分報酬を載せてください」とお願いするケースもあるようです。ただ、だいたいが発注サイドで報酬がFIXされているケースが多く、「言い値」が通る習慣が根付いています。
また、管理人が思うに、もう一つの根強い商習慣である、「人脈ベースで仕事が決まる」ことが、当初の報酬提示を断りにくい、交渉がしにくい、というのもあるのではと考えます。助手さんクラスだとさらに断りにくいと思ってしまうのではないでしょうか。
フリーランスが助手を探すときに「友人・知人(友人・知人からの紹介も含む)」が最も多く41.2%、次いで、「弟子」(30.5%)」と、基本、「人脈ベース」であることがわかります。「求人サイトからの応募者」は表示されている数値の合計からすると0.1%に満たないようです。ゼロと見ていいのではないでしょうか。
いずれにしても、人材調達のインフラがない中、誰の紹介もない人をアサインするにはかなり勇気のいる職場のようです。逆に、誰かの紹介があれば、思い切って仕事をお願いする、というある意味横のネットワークが強い業界であることがわかります。
※この「人脈ベースの人集め」については、改善の余地があると思っていまして、現在立ち上げ準備中です。
ここまで見てきて、仕事がら、拘束時間が長く、収入も不安定となると、フリーランスで人脈が薄い若手が思い切って撮影の仕事で身を立てていくには、もうこの時点でかなり勇気のいる選択になってきてしまいますね。学校を卒業したての方だと親御さんに反対されてしまうケースも多いのではないでしょうか。そうなるとさらにハードルが高くなりますね・・・。
なんだか問題ばかりみたいで、書いていて辛くなりますが、根本課題にたどり着くまで、頑張って綴ろうと思います!
報酬の問題も、「日本の映画・ドラマの制作予算の課題」という、とても重い、構造的問題が絡んできますのでこれは個別課題の最後に取り上げます(つづく)。