歌舞伎zakzak-12 揺れるペンライトで歌舞伎座が染まる!初音ミク降臨! 『超歌舞伎 今昔響宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』
introduction
「超歌舞伎」とは、中村獅童を中心とした歌舞伎役者とバーチャル・シンガーである初音ミクが競演する歌舞伎の新ジャンルで、「ニコニコ超会議2016」(幕張メッセ)において「今昔響宴千本桜」がその第一作目として上演され、最新のテクノロジーを駆使した視覚的効果と伝統歌舞伎の融合という試みは、中村獅童の奮闘もあって会場の来場者をおおいに盛り上げました。
その後、イベント的な扱いに留まらず、京都南座はじめいくつもの劇場において本公演の演目のひとつとして上演を重ね、今回満を持して歌舞伎の聖地ともいうべき歌舞伎座へ。
『超歌舞伎 今昔響宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』
2023年12月3日〜26日 歌舞伎座
十二月大歌舞伎
第一部
佐藤四郎兵衛忠信:中村獅童
美玖姫:初音ミク(バーチャル・シンガー)
蝶の精:中村種之助
陽櫻丸:小川陽喜
夏櫻丸:小川夏幹
神女舞鶴姫:中村七之助
朱雀の尊:中村勘九郎
他
STORY
白狐の尊と美玖姫たちが守る美しく咲き誇る神木千本桜が、青龍一派の陰謀により花を散らされ、この世は闇となってしまう。白狐の尊と美玖姫は、狐の精と蝶の精に姿を変えて、それぞれその場を逃げ延びる。そして千年が過ぎ、枯れ果てた千本桜のもとで二人は再会した。最初、佐藤四郎兵衛忠信に転生した狐の精を、敵かと構えた姫に、忠信は姫の母の形見である鼓を見せて、疑いを解き再会を喜び合う。しかし、再び青龍たちが二人に襲いかかる。美玖姫を我がものとしようとする青龍に姫は「千本桜を再び咲かせてくれるなら」と持ちかけるのだった。
賛否両論は当たり前! かぶく精神に刮目せよ!
地方の劇場や新橋演舞場の公演を経て、とうとう東京・歌舞伎座の演目に上るということは、ともかくも歌舞伎の演目として一段階は認められたということだろうか。昔からの歌舞伎ファンからは批判が出ることも予想したうえでの松竹さんの思い切った英断に拍手。きっと江戸時代の歌舞伎公演も、当時の流行や最新技術を真っ先に取り入れて、時代の空気をすくい取ったエンターテイメントで大衆を驚かせたに違いない。それが「かぶく精神」だし、それゆえに長い時間を生き延びてきたに違いない。
観客席、平均年齢一気に下がる。
「超歌舞伎ファン」「初音ミクファン」も多く来場し、観客席はいままでになく平均年齢が低くなり、室温は熱気で上がって感じられる(気のせい?)。幕間のロビーも、いつもの歌舞伎座とは違い、歩き回るファンたちに浮き足立った雰囲気が漂っていて、いつもの歌舞伎ファン(お着物姿であったり)との異種混合ムードが面白く、上演時の様子の想像がつかず、むしろ開演が楽しみになる。
そして売店でペンライトが(ここで初めて見る光景!)売られてはいたが、あまり売れてないなと思ったが、ファンの人達は自分で持参していたからで、いざ演目始まってからは客席ペンライトの光が埋め尽くして、客席の一体感を盛り上げる!ここはどこ?
時代を超えた二つの「千本桜」の合体
もともとあった初音ミクの代表曲「千本桜」(2011年発表、この曲はざっくり言うと大正ロマンや反軍国主義が背景にあるような)、そしてもっと昔からあった歌舞伎演目「義経千本桜」が作品イメージの基となっている。そして桜の樹が重要なモチーフの話というと「関の扉(せきのと)」もイメージされる。
「義経千本桜」の静御前と狐忠信の二人のキャラクターと関係性(主人と従者)がそのままこの登場人物二人に投影されて、二人が力を合わせて敵と戦う大活劇となっている。
「萬屋〜」「初音屋〜」大向こうかけ放題
この演目の前に「どうぞ大向こうをかけてください。大声出す方は、できればマスク着用で」とのアナウンス。客席から大向こう、というのはコロナ前にもどったようで、一抹の感慨が胸をよぎる。イヤホンガイドでは、初心者でも分かるように声をかけるタイミングを教えてくれる親切さ。ちなみに、初音ミクには「初音や」という屋号、中村獅童は「萬屋」で、雰囲気に押されて大向こうかける初心者も多数いた様子。
初音ミクの日本舞踊も名取りクラス!と思ったら。
ステージで踊る初音ミク、まるで「名取り」?と思ったら、それは「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」という最新技術が使われていて、別の場所の演者の動きが、リアルタイムで舞台上の初音ミクに反映して動かしているというものでした。(言わぬが花のことを言ってしまった)共演する生身の役者の演技に当意即妙に応じることもできて、どうりで共演している役者とのタイミングもぴったり。つまり初音ミクの踊り、演技は日ごとに違っているはずです。
歌舞伎と商業主義の結びつきは江戸時代から
本公演は演目タイトルの冠に「Powered NTT」がついていて、NTT技術のプレゼンテーション的意図も大いにありそうです。劇中には上述したAPN技術を始め、桜の樹を特殊技術で精密画像で表現したり、「バーチャル獅童」に英語をしゃべらせ、「分身の術」で忠信を増やしたりして、目を楽しませてくれます。
違和感をおぼえるかもしれませんが、商業主義との結びつきは江戸時代からあったことで、たとえば店の名前を科白の中に織り込むとか、演目「外郎売り」も一種の宣伝と言えるかもしれません。外の世界の商業主義と呼応し合うというのも伝統芸能らしからぬ歌舞伎だけの特徴なのかもしれません。
鳴り止まぬ拍手にカーテンコール
終幕、忠信と美玖姫二人での宙乗りで、3階の黒幕に消えた後も、観客席は熱に浮かれたようなスタンディングオべーションが治まらない。しばらくして花道に登場した主役獅童が感謝を述べ「賛否両論あると思いますが〜」との言葉もあり、その心情が伝わってくる。
本公演での成果と言えば、生身の役者とバーチャルアイドルを同時に舞台上で見ることの意味(違和感も含め)を考えさせられたという歴史的意義。歌舞伎というのを、伝統文化鑑賞としてではなく、初めてエンターテイメントとして(主に若い世代に)体験させたということだろうか。
はたして、いつかこれが古典となるか、それとも一時の泡沫として消えるのか、先々楽しみではある。