ある映画の4Kソフトにブチギレた話
最近、一本の4Kソフト(Ultra HD Blu-rayと通常Blu-rayのセット)を買った。好きな映画なので楽しみにしていたのだが、そのあまりの映像の酷さに怒り散らかしてしまった。
数日も経ち冷静になってきたので、この件に関する取り止めのないnoteを書く。
くだんのソフトは、オーストリアのNSM Entertainment社から発売された「シーバース」のUHDBDである。
「シーバース」といえば、「ザ・フライ」「裸のランチ」で知られるデヴィッド・クローネンバーグの初期作。謎の寄生生物がマンションの住民たちを蝕んでいく様を描いた作品で、クローネンバーグのお家芸とも呼べる肉体ホラー描写がこのころから炸裂。最近日本ではキングレコードさんがBlu-rayを発売しており、比較的容易に鑑賞できるのでみんな見よう。
この4K盤のどこが悪いのか。言ってしまうと、この映像は4Kマスターではない。日本盤Blu-rayでも使用されていたHDマスターを、4K画質にアップコンバートした映像と思われる。4Kのポテンシャルを持たない映像をむりやりアップコンバートしているおかげで、フィルムグレインが著しく潰されており、人物の肌が妙にツルツルした、違和感のある映像に仕上がっている。その割に、一部のディテールは完全につぶれており(もとからそのディテールがフィルムに現れていないので当然であるが)、ツルツルの部分から想像される解像度からかけ離れている。
HDマスターと同じといえる根拠としては、HDマスターでは事件の発端となる男の部屋のシーケンスで縦に2本のノイズが見える。これが今回のマスターにも見えるのだ。
これは付属の通常Blu-rayの映像だが、UHDBDディスクは輪をかけてヤバい。グレインが潰れた映像に加えて色が変である。鮮やかにすればいいだろうという魂胆が透けて見える出来で、人物の縁に見える緑色の(おそらく撮影機材に起因する、意図していない効果)が強調されて写っている。洗濯機おばさん(観たらわかる)の服の花柄とかは大変鮮やかでよろしいが、そんなところを鮮やかにしても意味がない。均一に色味を上げているので、落ち着きのない雑な仕上がりになっている。
思えば、「シーバース」は今回が世界初4K化。クローネンバーグ作品では直近だと「裸のランチ」「ビデオドローム」「デッドゾーン」あたりが4K化していたが、いずれも権利元やソフト制作側によるオリジナルネガからの4K化をウリにしていた。ある意味、恵まれた環境に置かれていたのかもしれない。4K版を出すのにHDマスターを使ってもおかしくなかったのだ。
そしてこの感じ、どこかで経験したことあると思ったら、初期のDVDでVHSのマスター使ったり(パイオニアの「コンボイ」「恐竜の島」とか)、Blu-rayでMPEG-2のマスターを使ったり(初期の「プレデター」とか)しているのとまったく同じ構造である。4K時代になってからはそういう話を滅多に聞かなくなったので感覚が麻痺していた。
そう考えると、結構私は前述のようなソフトを「味わいだ」と擁護する癖があるので、こういう画質を愛でる人がそのうちでてくるかもしれない。いや、出てこられるとちょっと困るけども…。
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