『いつか読書する日』(2004年)
2010年12月19日(日)
黄金町シネマジャック&ベティ(カメラマン笠松則通の特集上映)
ロードショー時にいちど観ていて、今回が二度目の鑑賞。
笠松則通、緒方明のトークショーがあり、主にこの映画の話だった。
笠松カメラマンはかなり無口な印象。
ザ・裏方さんという感じ。
素晴らしいと感じていた、田中裕子が階段状になっている長崎の住宅街を牛乳配達で駆け上がるのを前から捉えているシーン、夜明けのシーンなどの撮影は、相当の苦労があったそうだ。
あと、回想シーンは(確か)ネガを銀残ししているんだそう。
ちなみに、『独立少年合唱団』は全編銀残しとのこと。
岸部一徳の死にゆく妻・仁科明子は、病人ということで、そう見えるようにするために、事前に東京でカメラテストをしたんだそう。
あと、仁科明子は卵巣がんという設定で、卵巣がんというのは、女性がいちばん美しい状態で死んでゆける病気らしい。
岸部一徳が乗っている路面電車の窓越しに自転車をこぐ田中裕子が見えるシーンは、路面電車を一日貸し切りにし、しまいには車止めまでして撮影したということ。
あのディティールの素晴らしさの裏には、やはりそれだけの苦労があったのだ。
緒方明は撮影の間中、相当のプレッシャーを感じていたようだ。
それにしても、素晴らしかった。
若いころに好き合っていたけれど、お互いの親同士が不倫の状態にあり、しかも二人一緒にいるときに車にはねられて二人とも死亡する事件が起こり、離れざるを得なくなる二人。
田中裕子は一生ひとりで生きると心に決め、岸部一徳は絶対に平凡な人生を送ると決意する。
しかし、心の底では互いに互いを思い続けている。
優しい夫にどこか埋められない距離を感じ、ふとしたきっかけで夫の秘密を知った妻(仁科明子)は、自分の死後、二人に一緒になってほしいと願い、二人にそれを伝える。
妻の死後、ギクシャクしながらも初めて結ばれる二人。
(ここの、いい意味でとてもぶざまなラブシーンは、高校時代のやり直しをしているようで秀逸だと思ったが、これは俳優二人による演技プランだったようで、緒方明としては少々不満を持っていたそう)
翌朝、岸部が目を覚ますと、田中は牛乳配達に行っていた。
幸福そうに外を歩く岸部。
ふと水辺を見ると、以前保護した児童が非常に危険な場所にいる。
泳げないにもかかわらず、水に飛び込む岸部。
牛乳配達を終えた田中。
救急車が走り、「人が溺れた」と騒いでいるのを見て、胸騒ぎがする。
水辺で捜索隊がボートで捜索している。
児童は無事保護されたが、岸部は溺れ死んでいた。
川から引き揚げられた岸部の死体は、とても幸福そうに微笑んでいた。
いつものように牛乳配達をしている田中。
なじみ客の渡辺美佐子に牛乳を渡す。
渡辺「カイタさん、すてきな人だったね。……これからどうするの?」
田中「……読書でもします!」
配達を負え、街を見渡せる丘に上る田中。
田中の顔のアップ。
終。
すべての登場人物が細やかに描かれているのが素晴らしい。
馬渕英里何演じるバツイチ子持ちでスーパーのパートをやっている30前後くらいの女。
香川照之演じるスーパー店長とデキるが、ほんの遊びに過ぎなかった店長にはすぐ捨てられ、ロッカールームで田中裕子に「寂しくないですか」と聞く。
田中裕子は、
「(働いて働いて)クタクタになればいいのよ!」と言ってニヤッと笑う。
馬渕は「あー……(ナルホド)」みたいなリアクション。
ここのくだりがものすごく好きだ。
あと、役所の課の変な名前(未来の大人課)とか、児童虐待の問題とか、少し話がとっ散らかってる感はあったけど、この辺もよかった。
また観たい。