『推しの子』の研究 なるほど面白い作品だ。しかし…?
YOASOBI 『アイドル』のミュージックビデオのYouTubeでの再生回数がすごいことになっています。Apple Musicのグローバルチャートでは3位、ビルボードのグローバルチャートでは9位を記録していました。
MVを見てから、ちょうどジャンプ+を契約していたこともあり(『呪術廻戦』を読んでいます)漫画を最新話まで読み、その後アニメを鑑賞しました。漫画もアニメも面白かったです。勉強として、作者の過去作もチェックしなければということで、ストーリーを担当している赤坂アカさんの『かぐや様は告らせたい』を読んでみたのですが、私には合わず1話で挫折しました(ファンの方、ごめんなさい)。画を担当している横槍メンゴさんの『クズの本懐』は読み進めることが出来ています。
私は普段アイドルに興味はなく、早見優さんのことを調べたいと思っているくらいの人間です(敬愛している音楽プロデューサー/小説家の松尾潔さんが、早見さんのことを「アイドルで唯一好きな存在」として語っていることが理由です)。
本作は芸能界が舞台の作品です。
以下、漫画を未読の方のために、ネタバレはしていません。
◼️演劇
原作には、演劇を扱うパートがあります。
俳優の間で演技論/演技が繰り広げられる箇所がハイライトです。私には演技に関しての知識は殆どありません。なので勉強になりました。アドリブについては最近雑誌で、松下洸平さんと天海祐希さんの対談記事を面白く読みました(私は松下さんのファンです)。お二人が共演している現在放送中のテレビドラマについてのものでした。
その一方で、演出家の谷賢一氏の件を思い出しながら読んでもいました。2016年、谷氏が演出を務め On7(オンナナ)が出演した『ま◯この話 〜 あるいはヴァギナ・モノローグ』の舞台を鑑賞しました。『推しの子』で描かれるのは、脚本の作成と役者間の演技がメイン。全体を見ている演出家の割合は低かったのですが・・・。
「谷賢一氏、性被害訴えに争う姿勢 劇作家、団員の提訴で初弁論」
https://nordot.app/987545418517856256
被害を訴えているのは大内彩加氏(Twitterアカウント https://twitter.com/o_saika )
(2016年7月15日 KATT 神奈川芸術劇場にて撮影)
On7メンバーの宮山知衣さんとはご縁があり、今も関係が続いているだけに、あの時は大丈夫だったのだろうか・・・などと考えてしまいます。
On7 ホームページ https://onnana.com
原作は劇作家のイヴ・エンスラーが書いた、女性器についての朗読劇。上演前に行われたクラウドファンディングに幾らかお金を出しましたので、リターンとして受け取った公演を収録したDVDが今も手元にありますが、上記の件があり、観ることが出来なくなっています。いま賞賛を送ることは、加害者に加わる行為であるからです。
◼️役を得るために
『推しの子』に話を戻します。「バーター」を監督が幼いアクアに教えるシーンが原作にありました。アニメでも1話にありましたね。
また、原作ではずっと後の方のパートで、ある女性のキャラクターが役を得るために、上記とは別の男性の監督の自宅に一人で行くシーンがあります。自分を起用してもらうためには権力を持っている者とのコネを作らなければならないのです。
そして思い出したのは、日本で最も長く人気を保ち続けているアイドルであるジャニーズの人々のこと。または、カウアン・オカモト氏のこと。
クーリエ・ジャポンの記事が良かったと思います。デヴィッド・マクニールさんによるものです。
https://courrier.jp/news/archives/324771/
ジャニーズの現役アイドルである Snow Man の岩本照さんはこのように言っています。
◼️弱い立場であるということ
m-flo のインタビューを読み返しました。
『国籍は地球。どこからきたって?「母の腹から来た」しかなくない?m-flo に見る「自分と違う誰か」と付き合う方法』
https://www.buzzfeed.com/jp/yuikashima/mflo-trp
マイノリティについて、LISAさんが次のように言っています。
LISAさんがグループに再合流すると発表があった時は、CHEMISTRYのプロデュースを松尾潔さんが17年ぶりにすると発表された時と同じくらい興奮しました。わかりにくい例えで申し訳ございません。それもこれも、音楽は、たとえば映画と比べるとファンがジャンルを横断して鑑賞するということが少ないからかもしれません。でも、良かったら聴いてみてくださいね。
◼️オーディション
俳優の松崎悠希さんがこんなことをツイートしています。
https://twitter.com/yuki_mats/status/1514701188960194560?s=46&t=P1nJ6oGKta6lmR4K_tPP0g
若手が上に登る階段が存在しないという内容です。端役のオーディションがなく、すべてコネで決まってしまうという現状があるのだと。あ、私は今度職場の先輩に誘われて鴻上尚史さんの舞台に行きます。鴻上さんは数少ないオーディションを実施する方であるとの引用リツイートがありました。
『推しの子』では、オーディションの描写が複数回あります。
◼️『推しの子』の結末
ここまで書いてきたことは『推しの子』への批判ではありません。辛い思いを抱える人物のエピソードを、1話をまるまる使って描くこともありました。あれが現状での限界ギリギリの描写なのかもしれません。業界の変革、という大きなことを描こうとすると主人公のストーリーから離れてしまいます。
気になるのは、物語の結末がどこへ向かうのかについて。少し思うところがあります。ただ復讐して終わるのでしょうか。映画『ミュンヘン』でスティーブン・スピルバーグが出した回答を思い出します。報復すれば、それはさらなる報復を呼ぶ。終わりは見えないだろう。そして事態は一層悪くなる。あのワールドトレードセンターを映したラストショットは強いメッセージ性を持っていました。どこかで断ち切らなければ。変えるのは、未来を作るのは、誰?どうしたら変えられるのでしょうか?
京極夏彦さんの小説『鉄鼠の檻』に紹介したい箇所があります。原作では幼稚園児のアクアが同著者の『絡新婦の理』を読んでいるシーンがあります。アニメでもしっかり登場していましたね。
『鉄鼠の檻』は禅をテーマにした作品で、ある人物のセリフにこんなものがあります。
また、ラッパーの Awich さんはヴォーグジャパンのインタビューで次のように言っています。
あるいは以前、国連のキャンペーン He For She のイベントで、こんな言葉を見かけました。「世界を変えるには、まず自分から」。
これは、他者を変えようとしないということでもあります。他者を変えようとしても、変わらないのです。このキャンペーンはエマ・ワトソンのスピーチが有名です。見たことがない方は、ぜひ。
https://youtu.be/jQbpLVI6DwE
「推しの子」は肯定的な評価を得て完結するのでしょうか。どのような結末になるのか、また私自身も含めたファンはそれをどう受け止めるのか、あるいは反応するのか。注目しています。
もう一つ、映画批評家の児玉美月さんが『ネバーゴーインバック』に寄せたコメントを紹介します。
◼️愛と、アイ
最後に、松尾潔さんがプロデュース・作詞をしたCHEMISTRYの『akatsuki』を紹介して終わります。
Apple Music リンク
https://music.apple.com/jp/album/akatsuki/1673289720?i=1673290288
Spotify リンク
https://open.spotify.com/track/4Lrhouhq4RWd8bMl0t2Srz?si=RN7TQkriT52q4FaMaZMhVg
堂珍嘉邦さんは歌詞を読んで、これは今の時代のことを描いていますよね、と話しています。
ラストの歌詞は「それはきっと愛の神話の始まりさ」です。
たぶん、ここに行き着くのでしょう。
この作品は星野アイを巡るものです。
結局のところ、愛=アイなのです。
参考
◆松尾潔のメロウな木曜日
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/313569
◆He For She サイト(英語)
https://www.heforshe.org/en
◆ 児玉美月さん Instagramリンク
https://www.instagram.com/p/CmBhDHUOtTc/?igshid=NTc4MTIwNjQ2YQ==
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