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その人自身をその人たらしめているもの、それは強く誰かを愛した記憶なんじゃないか?Netflixオリジナル作品『さよならのつづき』鑑賞記録


▼本作概要


さよならのつづき

2024年、Netflix企画制作作品。
映画『太陽の子』で知られる黒崎博監督作品であり、有村架純とは何度もタッグを組み、『余命10年』などで知られる岡田惠和脚本作品。
主演は有村架純、出演は坂口健太郎、生田斗真他の本作。

neneオリジナル


▼あらすじ


有村架純演じる菅原さえ子と、その恋人であり、事故で命を落としてしまう、生田斗真演じる中町雄介。彼は事故に際してドナーとして心臓を提供することとなるが、雄介の心臓移植先である、坂口健太郎演じる成瀬。移植を経て、彼はドナーである雄介の生前の記憶までを引き継いでしまうという、ラブストーリーでありヒューマンストーリー。

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https://youtu.be/CdDZyDhFPTw?si=2ieVBGNTlSvBa1QB

▼彼こそが愛そのものなんじゃないか?魅力的すぎる登場人物、中町雄介。


私が直近鑑賞してきた作品の中で、群を抜いてぶっ刺さってしまった、いま巷で話題のNetflixオリジナル作品『さよならのつづき』


とにかく語りたいことが多すぎるので、何から書き綴れば良いか悩みに悩んだ結果、やはりまずは彼について触れていきたいと思います(?)

魅力的な登場人物がとにかく多い本作で、私が最も印象に残っている人物。


それは、劇中で有村架純演じるさえ子の恋人として登場する、生田斗真演じる中町雄介。


落ち込んでいる主人公さえ子を見て、励まそうとストリートピアノを演奏し、コーヒーをご馳走してくれるという素敵な出会い方を二人はします。


ストリートピアノを演奏している出会いのシーンより



ドラマみたいな(ドラマなんだけど)、そんなん恋に落ちてしまうやろ…!なーんて思ってしまう、象徴的な出会いが1話で早速描かれます。


彼は作中、予告でもわかる通り、冒頭で命を落としてしまう。


にも関わらず、画面越しに溢れてくるとてつもない生のパワーと、みなぎる太陽みたいな明るさ、朗らかさを持ち合わせていて、全8話での登場シーンはきっとそこまで多くはないだろうに、とにかく視聴者の記憶に焼きついてくる。
そんな象徴的な登場人物です。


柔軟剤みたいな存在になりたいと言い、周囲を照らしてくれて、どんなことだって恥ずかしげもなく表現し、愛を言葉や態度で示してくれて、自分に惜しみなく愛を注いでくれる存在。






劇中ではなぜ彼がそんな考えをするに至ったのか、生き方をするようになったのかまでが丁寧に描かれていて、私自身とっても好きな人物でした。


ただ明るいだけではないことも、しっかりと作中では描写されていて。


主人公のさえ子と付き合っていた以前の彼は、付き合っていた時にはさえ子自身感じ得なかった寂しさや孤独を持ち合わせている、そんなバックグラウンドもふんわりと描かれます。


雄介の死後、坂口健太郎演じる成瀬とさえ子が2人で、彼の思い出の地を巡り、彼のこれまでの人生を追体験してみると、そのあらゆる寂しかった経験こそが、彼の周囲への明るい振る舞いに結びついていたんだと悟らされるシーンの数々は、特にお気に入りでした。


あのシーンこそ、その人を、その人たらしめているものがなんなのかが、丁寧に描写されている気がしました。


雄介がただのお調子者なだけではなく、人としてなぜ、あそこまで魅力的に見えるのか。


細部にまで設定が張り巡らされていて、この脚本の素晴らしさを実感しました。


そして、雄介がさえ子へ注いでいた愛情の全ては、移植先である成瀬へも記憶として継承されていく、この点が本作品の大きなポイントになっています。

▼心臓移植はドナーの持つ感情や記憶を継承するのか?



心臓移植、と聞いて、本作を観進めていくうちに、学生の頃に読んだ漫画原作で、映画化された『僕の初恋をキミに捧ぐ』という作品を思い出しました。


この作品でも心臓移植について何度も言及されており、作中でも心臓移植した際に、そのドナーの感情や記憶が継承されてしまう、別人になってしまうことを主人公が懸念するシーンが登場していたことを思い出しました。



医学的には証明されていないけれど、移植した心臓の持ち主の影響を受けるという症例が発見されていることはご存じの方も多いのではないでしょうか。


実際そんなこと起こり得るんだろうか…?少しスピリチュアルな、非現実的だな、なんて印象を抱いてしまいますが、あまりにも強い趣味嗜好や、強い感情は脳だけでなく、心臓にも影響を与えるものなのかなぁと妙に説得力はありますよね。


最近、亡くした人をAI×VR技術でよみがえらせるということをテーマにした、平野啓一郎執筆の「本心」という小説を読み、人間その人個人をその人たらしめている要素ってなんだろう、そう考えることがしばしばあった私にとって、本作はとても感慨深い作品で。


平野啓一郎さんのHPより


▼その人自身をその人たらしめているもの、それは強く誰かを愛した記憶なんじゃないか



人を憎しむだとか、恨むだとか、そういった負の感情ももしかしたら個人を形成する要素になり得るのかもしれない。

けれど、私は、誰かを強く愛した記憶こそ、きっとその人をその人たらしめる要素のひとつである、そう思います。


そして本作は、そう思わされることの多い作品でした。


この作品を観ていると、自分が誰かを愛し、愛されていた記憶に繋がるものがあり、個人的な話ですが、つい最近までお付き合いをしていた彼を思い出すことも多く、しんどく思う瞬間が正直多々ありました。


理由は色々あって別れてしまったものの、愛おしそうに自分を見つめてくれる、愛溢れるあの眼差しが私は大好きで、この世で最も幸せを感じる瞬間の一つだったことを思い出し、生田斗真演じる雄介の視線とその彼とを重ねてしまうこともしばしば。


無条件で、誰かに喜んで欲しい、誰かに笑顔になってほしい、一緒に楽しく過ごしたい。愛おしい思いが溢れてしまう…雄介のそんな生き様。

これこそがまさしく、ヘミングウェイの唱える愛ではなかろうか…なんて浅はかな感想を抱いてしまった。


“When you love you wish to do things for. You wish to sacrifice for. You wish to serve.” 
「愛とは、そのために何かをしたくなるものです。犠牲を払いたくなるものです。奉仕したくなるものです。」

― Ernest Hemingway


こんなに愛について考えさせられる機会って日常に早々ないからこそ、こんな夏休みでも、冬休みでもなんでもない、ごくありきたりの日常の中で、愛について恥ずかしげもなく考えてみる。


とてつもなく贅沢な、豊かな時間を持てた気がします。


これまた個人的な話になりますが、元来惚れっぽくて、常に誰かしらに恋をしてきた私が、いわゆる恋愛対象として見た時の、愛する誰かが今は不在の状態で。


1話で雄介に夢を聞かれて、いくつかさえ子が答えていく中で挙げられていた、
「私のことが好きでたまらない男を見つける」


これを私も目標に掲げて笑、自分も思いっきり愛せる相手を見つけたいな、そう強く思わせてもらえるそんな作品でした。


劇中で象徴的に何度もピアノで演奏される''I want you back''


生田斗真さんも、坂口健太郎さんもそれぞれ1年、半年間と練習を重ね、本人たちの並々ならぬ努力の末、実際に弾いているらしいこの楽曲や、他サントラ含む美しい音楽も本作を魅力的なものに仕上げている要素のひとつです。



そして、SNSでは話題になっている、有村架純さんの着用スタイル。
どれもとっても可愛いけれど、ただおしゃれで可愛いだけじゃない。


しっかりと、作品内の感情や気分に合わせて、丁寧に選び抜かれている素敵な着こなしたちです。


演技やセリフだけじゃない。


ロケーションや、作中の建物や、小物の細部に至るまでが、この作品を構成する役割を担っていて、これによって物語がより一層素敵なものに仕上げられている。


関係されているスタッフの方々の、この作品への熱量を感じて、なんだかモノづくりの本気を見た気がしました。


色んな人に観てほしいなぁ、と思っての寄稿でした。


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