2ヶ月間で北海道を一周した話-7日目 利尻山-
朝の天気予報では、山頂は午前から午後にかけて曇りもしくは雨。
今日のアタックをやめて、明日にするか。
しかし、翌日も天気がスカッと晴れる予報ではない。
一瞬悩む。
ただ、翌日が雨だったとしても今日登ってしまえば観光だけは楽しめるじゃないか。
そんなふうに自分を奮い立たせて、7日目に利尻山に登ることにした。
すでに若干頂上に雲がかかっている。ちょっとやだ。
しかしそんなことはお構いなしに、宿が出してくれる、登山口までの送迎サービスの時間は否応なしに迫ってくる。
腹を括ろう。
ちなみに、私が泊まった宿(https://rishiri-greenhill.net/index.html)は毎日登山口まで行きの送迎だけしてくれるサービスがあるのだ。とてもありがたい。
帰りは歩いて帰ってくるか、時間を合わせてバスで帰ってくるかしかない。
公共交通機関登山あるあるだが、あまりにも本数が少ないので、自分の足と相談してしっかり事前に計画を立てておきたい。
ちなみに、下山口には温泉がしっかりある。
登山口についてしばらく歩くと、甘露泉水という湧き水がある。
利尻島は北海道で唯一キツネがいない地域なので、ここでしか生の湧き水は飲むことができない。
私もおそるおそるだが生で水を飲んでみた。
少しとろっとした甘味のある水。うまい。
甘露と言われるだけのことがあると思った。
しかし、ここでのんびりしていると登り損ねてしまうため、休憩もそこそこに登り始める。
正直いうと、前半はずっと苦痛な登山になってしまった。
道自体も単調な樹林帯を淡々と登るタイプの山であり、熊もいない。
羊蹄山の時は熊が出るかもしれないと気をはっていたので、気持ちはスリル・ショック・サスペンスをいつ迎えるかもしれないというひりついた気持ちを持っていた。
利尻島は良くも悪くもそのひりつきはなく、森の景色や空気感を存分に楽しんで登れる山だったのだ。
そう、そこまではいいのだ。普通の山と変わらない。
ただ、今回は途中で雨が降ってきてしまったのだ。
避難小屋の手前で小雨と霧の中間のような状態になってしまい、体がどんどん濡れていく。
幸いにも気温は高めなので震えることはないが、急いで避難小屋にむかう。
同じように登山をしてきた人が全員それぞれの天気予報アプリをみながら進退を考えている。
いつ頃晴れそうか?自分の足で歩いた場合はいつ頃ここを出れば景色が見られる可能性が高まるのだろうか?
そんなことをその場の全員で即席チームを作って情報交換をしている。
話は逸れるが、私は山で出会うこの即席チームがすごく好きだ。
もう2度と会うことがない人たちかもしれないが、全員が安全に、だけど最大限自分の望む状態になれるように最善を尽くし合う。
目的意識の塊のようなチームがその場にできるのだ。普段仕事をする時よりもよっぽど力強いチームだと思っている。
その即席チームで得た情報をもとに、私は30分ほど休んでから出発することにした。
自分の足で考えると、それくらいの時間から晴れる可能性が高まると考えたからだ。
しかし、いざ歩き始めてみると前が見えない。
その時はメガネで山歩きをしていたので、切実にメガネにワイパーが欲しいと思ったのは後にも先にもこの時しかない。
雨が強く降っているわけではなく、常に粒の大きい霧の中を歩いている状態なので、眼鏡についた雨粒が下に落ちていってくれず、ずっとメガネのレンズ上に止まるのだ。
邪魔。邪魔すぎる。
眼鏡にもガラコを塗ってくればよかった。
滑り落ちるとは言わずとも、表面に残り続けるなんてことにはならなかっただろう。
そんなことを考えながら登っていると、ざれざれの山頂直下をすぎて、やっと利尻山頂に辿りついた。
山頂では風も強く、このままでは低体温症で死ぬんじゃないかと思われたので、記念写真を撮って早々に下山を始めることにした。
山頂からの景色が見られないのはとても残念だけど、この判断を誤ると自然相手の趣味はやってられない。少しでも間違えるとすぐ死ぬからだ。
それでも多少景色が見られたらなぁ…なんて後ろ髪を引かれながら下山していると、途中で奇跡が起こる。
「もしかして、山頂晴れた…!」
すでに20分ほど降りてきてしまった後の出来事だったので、登り返すことはしなかったけれども。
今まで霧の中だったにも関わらず、一瞬スッと清涼な風が通った瞬間、霧が晴れたのだ。
山の天気は変わりやすいというが、島の単独峰である利尻山は特に風の影響を受けやすく、天気が変わりやすいとは聞いたことがある。
山頂でこの状態に出会えなかったのは残念だが、最高から二番目くらいのいい結果は残せたんじゃないかと満足して下っていきましたとさ。
なお、体が非常に冷えたからなのか、下山で激しいトイレ欲に見舞われて自分史上最速くらいの勢いで爆速下山しました。
甘露泉水のところで誰かに話かけられたけれど、我慢できないから回答できません!って元気よく答えてスルーしてしまいました。
私の尊厳を優先してしまってちょっと申し訳なかったな…と思ってますが、着替えを持参してなかった身としては正しい選択ができたかな、と思ってます。
【ルートについて】
私が今回選んだのは、鷺泊ルートと言われる利尻山登山では一番一般的なルートです。
コースタイム9時間程度で、山頂直下以外はとくに難所もなく日々登山をしている人ならば登れる山だと思います。
ただ、山頂直下20分くらいは崩壊が進んでいてざれざれの砂地のような状態になっていて非常に歩きにくい。
道幅はしっかりあるので、滑落の心配はほぼないが、傾斜がきつめなので歩くのには苦労する箇所でした。
総じて晴れてればとても楽しく登れる山だと思うので、ぜひ機会があれば登って見て欲しい山の一つです。