【外伝SS】アクジキ=リサイクル【アクジキ=エコロジー】
※注意※
この外伝SSはレトロRPG風一本道ADVゲームの「アクジキ=エコロジー」の続編的位置づけです。本編のネタバレ要素を含みます。
20分程度で遊べる無料ゲーム(スマホ・PC可)なので、是非プレイ後に読んでいただけるとありがたいです。
「最期(さいしょ)の挨拶は
『いただきます』だよな?」
――あの日、私は人間をやめた。
愚かにも清らかなる平和を愛していた私は、
『魔王の封印』のために、禁術の使用も厭わない愚かな魔法使いであった。
それは、先に旅立った仲間たちのために、愛する世界の人々のために必要なことで、
世界を救う為なら手段を選んでなどいられなかったからであった。
古の毒魔法。その蓄積性や筋肉への作用、呼吸までも止めてしまう残虐性を
私は「当時の」魔王を倒すために選んだ。
毒さえ盛ってしまえば後は守りに徹すればいいと思ったからであった。
難ならその防御魔法も毒属性の生物の防御壁を参考にしたものであった。
そうして手に入った新たなる日常に歓喜していた私は、
当時の魔王の放つ最期の呪文など、大したことないと思っていた。
ところが、新たなる日常に生きる私は、決して健やかではなかった。
魔王の最期の呪文のせいで、「毒素」しか接種できなくなったからである。
魔王を倒した英雄も、時間が経てばただの人であり、
呪いのことを理解せぬ小市民共にとって、悪食を極める私は不気味な怪物でしかなかった。
それでも、愚かなる私は小市民の為に毒を食らった。
働く必要があった。世の中を清らかにするために。
その為の活量を得るために、毒を食らうことを止められなかったのだ。
過去にエコロジーを謳った英雄の私が、世界を清らかにすることが世の中においてどんどん当然になっていく。
誰も私の肉体の悲鳴を知らずに、誰も私の信念の敗北を知らずに。
私はただ、取り戻し守りたかった。
「美しい世界」。清らかなる平和を噛みしめたかった。
それだけだった。その為に身を粉にして自問する。
「私が守りたいものとはなんだったのだ」と。
そして私は、私の運命を変える「美しい」泉にたどり着く。
過去私のよき友であった女は云う。「浄化しろ」と。
何故? 何故なんだ? こんなに美しいのに?
何故? 何故なんだ? こんなに美味しそうでもあるのに?
美しいものは守るべきものだろう!?
美味しいものを頬張れるのは平和の証だろう。
空腹と渇きが極まった私の叫びとともに女は消えた。
もう私を止めるものは誰もいなかった。
美しさを、平和、求める私が赴いたのは、『魔王を封印』した場所だった。
………
……
…
――あの日からどれぐらい経ったのだろう。
私は今幸せだ。瘴気に満ちた空気は心を癒し、
ヘドロに染まった水は体を潤す。
紫の大地から生える歪な植物は、食べてみるとやはり旨いのだ。
瘴気から自然発生する魔物たちに命令すれば、肉だって得ることもできる。
幸せだ。もう渇かないで済む。誰かのためでなく自分のために生きている。
毒を蓄積していった私の体は、だんだん筋肉が隆起していき、疣が増え、
肌の色はいつのまにか緑へと変色していた。
しかし風貌なんてどうでもいい。気にしたところで見せる相手もいないのだ。
平穏な、変わり映えのしない毎日が繰り返される。
愚かにも私に挑みに来る人間は、気が付けば消し炭になっている。
終わりの見えない生を謳歌しながら悠久を生きる中、その日はやってきた。
「やい魔王! 俺はお前を倒しにきた!」
やってきた若い男は、自分のことを「国一番の魔法使い」だと宣う。
どこかで聞いたことがある肩書だと笑みが零れてしまった。
「笑ってられるのも今のうちだ! いくぞ!」
「国一番の魔法使い」と名乗るだけあって、実力は確かなものだった。
色んな属性の魔法を使い分け、私の弱点を探られる。
禁術も混ぜながら攻撃してくるその様子に、素直に関心をするばかりであった。
久しぶりだ。人間に興味を持つのは。
だから尋ねることにした。男の人生の命題を。
「魔法使いとやら、一つ教えてくれぬか?
世をより良くするために、何を心掛けてきた?」
「清く正しく生きることだ!!
お前とは違ってな!!」
その言葉に、私はかつての自分を思い出す。
空に打ち上げた花火が煌々と輝いたあの日、
私は確かに澄み切った理想に燃えていた。
「そうか。エコロジーだな……。」
「お前には理解のできない概念だ!!
そして……! それが俺達の答えだ!!
輝け!!ソディウム・ヒ・ポクロ・ライト!!!!!!」
突然の前が真っ白になる。
放たれた魔法はとっておきの浄化魔法らしく、
有害物質で染まりきった我が身が徐々に崩れていくのがわかった。
私の体を貫通した光は城壁をも崩し
その先から、あろうことか日光まで差し込んでくる。
瘴気が霧散した空は綺麗な青だった。
そうか私は終わるのか。理解するも悲しくない。
光も闇も経験したからわかる美しき青空を見れたのだ。
闇がなければ誰も光を美しいなどと思えないのだ。
だから私は最期に放つ。私の恩人にとっておきの祝福を。
その祝福が成就するときを待ちながら、私は眠りにつこう。
「最初(さいご)の挨拶だ、
お前の行く先に幸あれ。」
<おわり>