線の行者
二〇一九年八月一日、第三刷発行 とある。
この年のメフィスト賞作家・砥上裕將氏の『線は,僕を描く』の最終ページだ。閉じ終えると裏表紙上段に定価として1500円と記されていた。
数年の間に単行本も値上がりしているなぁ、とため息がでた。税別とはいえ、1500円ならまだ手に取れる価格だ。これが1800円だと引っ込めてしまう。
おもしろい読み物かどうか。
あるいは、読むか読まないかさえ分からないのが本というもの。ならば、と、依存しがちな(ジャケ買い)や(装丁買い)が幅を利かす我が家の本棚には(サイン本)もままあって、実は本作品『線は、僕を描く』もその中のひとつ。
と言っても、
著者のサイン会へ行ったり、予約購入したわけではない。大手書店で見つけた。
(サイン本)と記された小さな紙片を、たまたま目にして触れてみたのは、表紙のイラストや装丁が気になったという理由もある。ラップでくるまれた単行本、これは買いだな、と、ひらめき、開封を楽しみにレジを通った。はたして、どんな文字を書く人の想像が詰まっているのだろう。
ご縁があったのか、サインが気に入ったのか、購入後早めの読了が叶った。なかなか珍しい現象だと思いながら本を閉じ、ふだんの生活にもどる。もどった後も、それにしても美しいサインだったと、知り合えた本をしばしば見返す。
後日、ネット上で見かけた著者のことば。
我が家の一冊も手を抜くことなく、描かれた砥上裕將だったんだな、と感じ入る。