カメラ調査で明らかになった、多くの絶滅危惧種が暮らす場所
「以前の私たちは、手探りで作業しているようなものでした」
コンサベーション・インターナショナルの新たな研究によって、これまで知られていなかった東南アジアの熱帯雨林の奥地の現状が明らかになりました。
東南アジアでもっとも手つかずの原生林が残る中央カルダモン山脈は、これまで希少種の重要な生息地とされてきました。コンサベーション・インターナショナルとカンボジア政府による新たな研究により、この地域に生息する希少な野生生物の姿がカメラによって捉えられ、その重要性が確認されました。
中央カルダモン山脈で初めて実施されたカメラトラップ調査では、147台のカメラが約1年間にわたって100種以上の生物を記録しました。その結果、4分の1近くが絶滅危惧種、または絶滅の危機が迫る種であることがわかったのです。
研究者たちはこの調査結果から、コンサベーション・インターナショナルが地元の先住民コミュニティと協力しながら20年以上にわたって野生生物の生息地の保護と人びとの持続可能な生活支援に取り組む中央カルダモン山脈の生物多様性を守ることが極めて重要だと確認したと話しています。この調査結果は、さらなる生物多様性の存在も示唆しています。
「カメラトラップで108種もの生物を捉えられたことは、すばらしい成果です」
とカンボジアの生態学者で、コンサベーション・インターナショナルの主任研究員であるタウン・レト(Thaung Ret)は話します。「しかし、カメラが記録したものはそこで暮らす生物のほんの一部にすぎません。たとえば、昆虫や鳥類、水の中で暮らす生物たちはカメラが捉える範囲の外で暮らしているのですから」
カメラトラップは、生物多様性のモニタリングや保護活動のために広く使用されています。動きを感知したり、赤外線センサーに反応して起動するカメラトラップは、動物が普段暮らしている自然環境のモニタリングをサポートします。
得られたデータを活用し、この地域で深刻化する密猟や森林減少といった脅威に対する対策に役立てていきたいと研究者たちは期待しています。
「以前は、あらゆる面で手探り状態でした。今回の研究によって今まで見えていなかった森林の奥地で起きていることが明らかになったことで、私たちはこの世界的に重要な地域の保全活動に注力していくことができます」
研究チームによって明らかになった野生生物の例をいくつかご紹介します。
ボウシテナガザル
長い腕で枝から枝へ素早く移動し、時速56キロで移動することのできるボウシテナガザルはこの地域のシンボル的な種の一つで、研究者も注目する極めて貴重な存在です。森林の高い場所を好むため、この内気な霊長類を地上で目撃することは滅多にありません。彼らは一日16時間も眠ることもありますが、眠っていない時は長距離を移動して、同じ木に一晩以上留まることはほとんどありません。
カルダモン山脈には、東南アジア最大のボウシテナガザルの個体群が生息していますが、絶滅の危機に瀕しており、過去45年間で個体数が半分以上も減少しました。森林減少による生息地の消滅が主な原因で、今後も個体数が減っていくことが予想されています。
マレーセンザンコウ
この動画に登場する子どものセンザンコウのように、生後3ヶ月間は母親の背中に乗って移動します。夜行性で捕獲が難しい哺乳類であるにもかかわらず、カメラトラップは18枚ものマレーセンザンコウの姿を捉えました。昆虫食であるマレーセンザンコウは、シロアリの個体数を調整し、木々を傷つけるシロアリの被害を防ぐという重要な役割を担っています。1匹のセンザンコウが1年間に食べる昆虫の数は、7,000万匹を超えるという推定もあります。
絶滅危惧種であるマレーセンザンコウは、世界でもっとも密売されている哺乳類の一種です。現在生息する正確な個体数について確かな推定値はほとんどありませんが、密猟者がセンザンコウの鱗や肉を国際的な闇市場で販売しており、この数十年で80パーセントもの個体数が減少したと考えられています。
マレーグマ
胸元の金色の毛皮が日の出を思い起こさせることから英語では”Sun Bear”と名付けられたマレーグマは、クマ科の中でもっとも体が小さく、体長は大きくても1.5メートルほどです。25センチもある長い舌で蜂の巣からハチミツを舐めとる習性があり、木の上に巣を作り、暮らすことを好みます。
しかし、古くから薬として取り入れられてきた胆嚢を狙った密猟や、農地開拓による生息地の減少によって、世界全体で30%以上もの個体が減少しています。現在の推定では、これまでの生息地として知られている地域の3分の1ほどに生息する1万頭のマレーグマだけが生存しているとされています。
ドール
ドールは、犬とオオカミの仲間で、最大30頭の群れで行動し、狩りをする動物です。カンボジア国内では、中央カルダモン山脈に絶滅危惧種である野生のドールがもっとも多く生息していると考えられています。
野生のドールは2,500頭以下しか残っておらず、この地域で最後に残った食物連鎖の頂点に立つ捕食動物の一種、とレトは話します。生息地の減少が最大の脅威ですが、病気や人間とのかかわりも問題となっています。野生の犬は、生息地に近づくペットの犬から感染する病気にかかりやすい傾向があります。
ガウル
ガウルは、ウシ科の中では最も体が大きく、家畜のウシの親戚にあたります。かつては東南アジア全域に生息していましたが、現在は主に農業の拡大によって生息域が大幅に縮小しています。
カメラトラップが捉えたガウルはわずか数頭だけでした。これは狩猟によってこの地域にあまり多く残っていないことを示していると、レトは指摘します。IUCNのレッドリストで絶滅危惧種に指定されているガウルは、一部の生息域で個体数が70%以上減少していることがわかっています。
アジアゾウ
現在生存している野生のアジアゾウは、50,000頭以下になっており、かつて生息域だった範囲の95%が失われてしまいました。世界中で密猟や生息地の減少、気候変動の脅威にさらされ、カルダモン山脈で生息するアジアゾウは100頭を下回っていると考えられています。調査で見かけられたのは数頭だけですが、中央山脈が健全な生息地であることを考慮すると、絶滅危惧種の避難場所となっている可能性があります。
アジアゾウは、文化の象徴や信仰の対象として崇められています。また、密生した低木の茂みを切り開き、森を再生する種を撒きながら広大な大地を移動するので、生態系エンジニアとしても重要な役割を果たしています。レトをはじめとする研究者たちは、人気者のアジアゾウへの人びとの関心が、彼らの危機的状況に向けられることを期待しています。そして、この地域の他の絶滅危惧種にも関心が集まることを願っています。
「すべての種はつながっていて、カルダモンの生態系にとって重要な役割を果たしています。多種多様で豊かな生命の存在を記録できることは、本当にすばらしいことです。しかし、私たちはまだ氷山の一角に触れたに過ぎません。この地域の生命の豊かなつながりについて知れば知るほど、より効果的な保全活動が可能になります」
この生物モニタリングプロジェクトは、米国国際開発庁(USAID)からの資金提供をうけ、米国環境省の指導の下、レガシー・ランドスケープ・ファンド、プロクター・アンド・ギャンブル社、そしてコンサベーション・インターナショナルの追加共同出資によって実施されました。本研究の内容は、コンサベーション・インターナショナルの一切の責任であり、必ずしもUSAIDまたは米国政府の見解を反映するものではありません。
投稿 : Mary Kate McCoy ※原文はこちら
翻訳編集: CIジャパン
TOP画像:Conservation International/photo by David Emmett