見えない愛ほど伝わるもので。
私の親友は、ちょっと変わっている。
落ち着きがなくて、ギターの音が嫌い。
よくひとりで鼻歌を歌っている。
夜だろうが、お構いなしだ。
執筆中の私に、
何度も「遊んで」とせがむような迷惑な奴で、
機嫌が悪い時は、邪魔だと思うこともある。
でも、愛おしい親友なのだ。
ベランダから差す太陽の暖かさを身に纏って、
私のカーディガンをブランケット代わりに、
気持ちよさそうに昼寝をする。
恋人と抱き合っていると、
嫉妬して大声で喚き出す。
私と喧嘩した時は、
拗ねてベッドの中から睨んでくる。
そのくせ私が「仲直りしよう」と頭を撫でると、
嬉しそうに笑って抱きついてくる。
去年の冬、私は夜間救急で運ばれた。
持病の発作が悪化し、
親友のことを考える余裕もないまま、
救急車に乗せられた。
一週間も家に帰って来れず、
ただただ親友のことが心配だった。
病室からは、
たくさんの雪が降っているのが見えた。
私とふたりきりで暮らしている親友は、
寒い思いをしていないだろうか。
私のいないひとりきりの部屋で親友は、
寂しい思いをしていないだろうか。
初めて、親友を想って泣いた。
私には恋人がいるのに、親友には私しかいない。
あんなに、迷惑で邪魔な奴だと思っていたのに、
固いベッドの上で、今すぐに会いたいと、
ただひたすら泣いた。
私が家に帰って来た日、不思議なことに、
私も親友も意外と普通だった。
ただいま、と声をかけて、
そこからは何事もなかったかのように、
いつも通りの生活がまた始まった。
入院した時のことは、ずっと忘れないと思う。
その証拠に私は、
本格的に持病と向き合い始めた。
もう親友を一人にしたくない、
と思うようになった。
少しだけ、親友に優しくするようになった。
どうせ分かり合えないのだからと、
放置していた親友の気持ちを、
少しだけ、汲み取ろうとするようになった。
親友と暮らし始めて、一年半と少しが経った。
なかなか友達ができなかったり、
私の言っていることに耳を傾けず、
自由気ままに、何にも流されず生きている親友。
靴下を履いたまま寝たり、
風呂が嫌いだからとシャワーだけで済ませたり、
移り気で、面倒臭い性格の私。
案外、わたしたちは気が合うのかもしれない。
ひとりとひとりで暮らす親友との生活は、
季節が変わるとともに、私を変えていく。
この先ずっと、どちらかが終わる時まで。
色んなことが待ち受けているだろうけれど、
今日のように、執筆の邪魔はされ続けるけれど、
変わり者同士、うまくやっていけると思う。
毛むくじゃらの親友へ、愛を込めて。